【読書感想】世にも奇妙な君物語/朝井リョウ
[ネタバレを含みます]
これは「朝井リョウさんが書く」世にも奇妙な物語だな、と読んでみて改めて思った。現実世界の問題をリアルに表現することが得意な朝井さんならではの小説になっている。特に、学校でのカースト制度やコミュ障、マイノリティなど、考えさせられる題材を使ったものが印象的だった。
一番記憶に残ったのは、「リア充裁判」だった。
架空の話かと思わせておいて、ラストでそれまでの内容はじつは主人公が作り出した空想の話だったことがわかり、現実世界に引き戻される。リア充裁判とは、就活の面接のことだったのだ。
就活の面接をリア充裁判と名付けるのは、さすが朝井さんならではの素晴らしい皮肉だと思った。確かに就活の面接では、インカレサークルやバックパッカーなどいわゆるリア充なエピソードのある人がもてはやされる。そして、ただひたすら真面目に勉強してきただけのいわゆるインキャ側の人は就活で苦労する。「リア充裁判」ではそんなインキャ側を主人公にして、社会を皮肉に捉える構造となっていた。就活は、ただ真面目なだけのインキャ側の人間からしたら人生でぶつかる初めての非条理な壁である。私だけではなくこの話に共感できる人は多くいるだろう。
実際、学校生活で求められることと、社会人に求められることが違いすぎて、インキャ側の人間は戸惑う。学校生活の大半はただおとなしく座って授業を聞いて、決められた試験範囲のテストで良い点を取ることが是とされる。しかし、社会に出ると、コミュ力や、人とは違うオリジナリティ、発想力が求められる。そんなことは学校で習ってこなかったと言いたい。
学生時代に成績はそれほど良くなくても、友達が多くてコミュ力があってイベントで中心的な役割をする人の方が、社会に出てからうまくいく。では、学校生活でひたすら真面目に大人の言うことに従って勉強してきたインキャ側の人間は、社会に出てから、いつどこで報われるのだろうか。
勉強ばかりしてきた人がすべて就活で苦労すると言うわけではない。特に、理系の院卒であれば、立派な研究内容があればリア充エピソードがなくたってそれを武器にすることは可能だろう。逆に、文系や学部卒はどんな卒業論文を書いても似たり寄ったりなので、勉強してきたことを就活の武器にはしづらく、やはりリア充エピソードが面接官には印象に残るのだろうと思う。
インキャでも報われる就活になってほしい、というわけではなく、むしろ学校生活のあり方に疑問を抱く。学校で教えられる「決められた内容をただ真面目に勉強してテストで良い点を取ること」と、社会で求められる「コミュ力、責任感、オリジナリティ」と言うものがあまりにも乖離しているからだ。学校でのテストなんかより、体育祭や文化祭などの行事や、クラブ活動で皆とうまくやると言うことの方が、よっぽど社会で活かせるスキルに違いない。
インキャ側の人間がそのことに気づくのは、就活を始めてからというのは皮肉なことだ。
◆読了日
2022年8月7日
◆読んだキッカケ
以前からタイトルを見かけることが多く、いつか読んでみたいと思っていた
◆あらすじ
◆おすすめポイント
これは「朝井リョウさんが書く」世にも奇妙な物語だな、と読んでみて改めて思った。現実世界の問題をリアルに表現することが得意な朝井さんならではの小説になっている。特に、学校でのカースト制度やコミュ障、マイノリティなど、考えさせられる題材を使ったものが印象的だった。
◆おすすめ度
4/5
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