【本紹介】能登崇『ない本、あります』
――忙しくて読めない。活字が苦手で読めない。そんなあなたにひとつ提案しましょう。「読めない本なら楽しめますか?」
人生は物語。
どうも横山黎です。
大学生作家として本を書いたり、本を届けたり、本を届けるためにイベントを開催したりしています。
今回は「能登崇『ない本、あります』を紹介する」というテーマで話していこうと思います。
📚読めない本
みなさんは普段本を読みますか? 本紹介をしているわけですから、この記事を読んでいるあなたは本好きかもしれません。しかし、なかには最近あまり本を読んでいない人も少なくないでしょう。
世の中には、本が読めない人もいます。つまり、活字が苦手で、集中して読書することができない人がいます。それがどうこうと議論するつもりはありません。
忙しくて読めない。
活字が苦手で読めない。
そんなあなたにひとつ提案しましょう。
「読めない本なら楽しめますか?」
今回僕が紹介する本は、能登崇さんの『ない本、あります』です。これはもともとTwitterで話題になった企画が原点なんです。どんな企画かというと、Twitter上で一枚の写真を募集します。ユーザーからいただいた写真をつかって、架空の文庫本の装丁をつくるんです。そして、それを能登さんのアカウントで投稿する。
装丁ですから、表紙と裏表紙をつくらなければいけません。表紙にはタイトルと作者を記さなければいけません。また、文庫本ですから、裏表紙にはあらすじを記さないといけません。つまり、その本の「表紙」「タイトル」「作者」「あらすじ」をつくり、中身は一文字も書かれていない「ない本」の投稿を発信していたんです。
そしたらいろんな人が注目して「ない本」をつくる企画に参加していったんですけど、やがて完成した「ない本」をたくさん集めて1冊の本にしようということになりました。
ここで課題が生じるわけです。「ない本」は読めないんですよ。あらすじはあるのに、本文が一文字もないから読めないんですよ。そこで、作者の能登さんが「ない本」を読める本にするために、ひとつひとつの作品に本文をつくって、1冊の本にまとめたのが、この『ない本、あります』なんです。
📚『泥酔探偵』が面白い
ここでひとつツッコミが飛んできそうですね。
「結局、読めるんかい!」
忙しくて読めない、活字が苦手で読めない人に紹介していたんじゃないのか。読めないけれど楽しめる本じゃなかったのか。お怒りは重々承知です。
さっき紹介した通り本文はあるんですけど、ひとつひとつの物語がとても短いんです。全部5ページくらいで完結するんですよ。で、その5ページだけで十分に面白いんですよ。なかには、「え、もっと読みたい」と思えるほど興味深い物語もあります。
なかでも僕のお気に入りは『泥酔探偵』という作品です。羅門志麻奈という方です。知っている方いらっしゃいますか? いるわけがありませんよね。架空ですから。そんな人存在しないわけですから。
ちなみにこの方の略歴を紹介しますね。1979年に愛知に生まれ、バーテンダー、酒屋を経て小説家デビューしました。連載の仕事をしているさなかプレッシャーに耐え切れずに失踪しました。その後2年間連絡が取れなかったそうですが、連載原稿だけは毎月送られてきたそうです。……これも全部嘘です、架空です(笑)
それでは本編を紹介しますね。この『泥酔探偵』という話はめちゃくちゃ面白いです。裏表紙に書かれてあるあらすじを紹介しますね。
面白くないですか? まさに泥酔探偵ですよね。泥酔したせいで自分が解決した事件を忘れてしまったから、翌日目を覚ましてからもう一度謎を解かなければいけないのです。この本に収録されている掌編でもそのような事件が描かれます。
泥酔探偵の咲雄は目が覚めたらホテルの一室にいました。デスクの上には『目が覚めたらここに来てください』というメモがありました。これは自分に向けられたものなのか、だとしたら誰かが書いたのか。一枚のメモから推理を始めていき、とあるひとつの事件を解決していくのです。
📚見て、読んで、楽しむ
『泥酔探偵』の外にも、興味深い物語はたくさんあります。
ある日突然傾いた地球の謎に迫るSF小説『傾いた惑星』とか、「このサボテンを一年枯らさずにいたら付き合ってあげる」という約束を交わした幼馴染たちの恋愛小説『サボテンは枯れない』とか、本当にありそうだし、もっと続きを読みたくなる物語がたくさん収録されています。
一日の隙間時間にひとつの物語を読むのも良し。活字を読みたくない人は装丁を眺めるだけでも良し。読んでも楽しめるし、見ても楽しめるのが、この『ない本、あります』という本なんです。
新感覚の読書体験のできる本。是非、読んでみてください。最後まで読んで下さり、ありがとうございました。
20231027 横山黎