活動を分析して「生活リハビリ」の質を上げよう!
こんにちは。輝くおでこのReHub林です。
この記事の内容をザックリと紹介した動画→コチラ
「生活リハビリ」は本当にそれでいいのか?
「生活リハビリ」という言葉を数年前から耳にするようになりました。
生活の中で活動量を増やしてリハビリにつなげようということです。
できることを少しでもやってもらう。
できない部分を最低限援助しながら「できない」を「できる」にしていく。
「できるADL」と「できないADL」の差を無くす。
レクなどにも介助しながら参加してもらう。etc.
これらは素晴らしい取り組みだと思います。
どんなに理学療法・作業療法場面でアプローチしても生活に反映されなければ意味がありませんから。
問題は援助の視点・方法です。
ただできない部分を助ける。
ただ活動に参加させて、リハビリっぽいことをする。
本当にそれで良いのでしょうか?
我々専門職の価値はその程度なのでしょうか?
これまでの記事で「障害の本質を捉える」ことを繰り返し述べてきました。
(障害の本質を捉えるための動作分析のコツについては、コチラ)
これからも繰り返し伝えていきたいこと
障害の本質を捉えて、その活動が上手くいかない本質的な問題にアプローチすることが真の「生活リハビリ」ではないでしょうか。
この本質的な問題に気づき、評価するためには何が必要か?これが今回のメインディッシュです。
「課題の要素」を紐解く
それぞれの課題を構成する要素を紐解くことで、活動場面のエラーに対してどの要素で患者が上手くいっていないのかを捉えられるようになります。
この課題の構成要素に関しては、理学療法士であれば解剖学的・運動学的視点から関節構造体や筋などが持つ問題を抽出するに長けているでしょう。
作業療法士であれば、自己の内面や文脈と課題の関係性から問題を抽出するのに長けているかもしれません。
この着眼点の違いによって、一つの課題の構成要素もセラピスト間で異なって見えているということが難しいポイントですね。
しかし、着眼点が違うからといって、患者が抱える問題そのものまでもが多様化するということはないですよね。
「真実はいつも1つ!!」ってどこかの名探偵が言っていたのを思い出します。
そのため、ここではより広く課題の構成要素を考えるための例を紹介していきます。
「本を読む」とは
本を読む流れは、
・読みたい内容を決定する
・本棚から本を選択する
・本を手に取る
・(椅子などの安全な環境に移動する)
・本を開き、ページをめくる
・内容を読む
・本をもとに戻す
・(感想を書き留める)
・(感想を他者と共有する)
このうち太字の3つだけ紹介します。ちょっとボリューミーになります。
「本棚から本を選択する」
本を選ぶ時、目当てのタイトルが明確ならばそのタイトルを探すでしょう。
「富士山」というキーワードだけを想起して探す場合は、多くの情報から「富士山」を選択する注意機能が関わってきますね。
これが「アウトドア関連」となれば、アウトドアに関するワードをいくつか保持しつつ探索するワーキングメモリーも必要ですし、複数の事柄が同じジャンルに属するかどうか照合する能力も必要ですよね。
選択する中で、その本を取ろうと意思決定する際には、表紙の色やイラスト、フォントなどで目を惹かれるかもしれません。
パッと読みたければコンパクトな本、しっかり深く読みたい時には分厚い方の本を選択するかもしれません。
あなたは認知課題として本を選択してもらう時、どんな環境・キューを提示していますか?
ちなみにですが、脳卒中片麻痺で眼球運動が固視傾向にある方は、背表紙がのっぺりしていて、本と本の境目が分かりにくかったり、カバーの素材感が分からなかったりするそうです。
👉目が粗いブックカバーをかぶせたり、素材感の違う書籍を並べたり、手前にタオルを置いておくなど、視覚的な関わりによって反応が変わる患者もいらっしゃいますね。
「本を手に取る」
手に取るということは、まずリーチするということですね。
この時本来ヒトは、ターゲットに向かって直線的に手が向かいます。距離や角度、本の大きさによって姿勢の反応は変わるでしょう。大きな辞書なら両手でリーチするかもしれません。
この時、手の形はどうなるでしょう?本の大きさに合わせられているのでしょうか?
ヒトは本の形に合わせて丁度良い大きさに手を広げますし、掴んだ時に受け取る本の重みやブックカバーとの摩擦などに対して適応するため、手の形を修正したりします。(←詳しくはマイクロスリップでお話します。)
本棚から本を抜き取る時、ギュウギュウに詰められていては、取り出すのに強い摩擦抵抗が加わって、力強く引き出さないといけませんが、ユルユルだと本を抜いたら周りの本が倒れないように配慮しないといけません。
👉本棚が2段ある時は、本の量を事前に調節しておけば、この取り出す時の抵抗感を探索しながら姿勢調節するバランス練習にも活用できるかもしれませんね。本棚が強固に安定していれば、それを把持することで定位しやすくなり、本の重みや摩擦を探索しやすくなるかもしれません。
本を持ち上げた時には、ブックカバーと中の本体とが滑りやすい関係性であれば、ブックカバーとの間で感じる摩擦だけを検出していては、中の本が滑り落ちるのを感知できません。指で触れているブックカバーの奥で本体との摩擦を感じる二重摩擦の検出が必要です。
「本を開き、ページをめくる」
本を開く時、ハードカバーとソフトカバーでは固定方法も操作方法も少し変わりますね。
ハードカバーは撓みが無いので安定を得られやすく、固定しやすいですが、その分連続的にめくるには不向きです。
ソフトカバーは逆に撓みやすいので不安定ですが、その分連続的にめくりやすい性質を持ちます。この不安定さは非常に面白い要素で、メインで把持している手が本の形を読みやすいように維持するには、ページ数の変化によって生じる弾性の変化に適応できなければなりません。
表在感覚が鈍麻している人は、ページ数が少なくなるほど、本から得られる反力が減少するため、難易度が増します。
あなたの患者はその変化に適応できますか?
めくるという動作については、一つ上で述べた二重摩擦の検出が不可欠です。1ページだけめくるということは非常に繊細ですよね。触れた紙が1枚なのか2枚以上なのかを指でこすり合わせて、紙同士の摩擦を探索しているのです。
もちろん、この時には、母指の内外転や示指の屈伸外転などの運動も含まれますね。
ここで「自分の指を舐めてめくる人」を想像した方も多くいらっしゃるかもしれません。あれは、直接触れているページとの摩擦係数を高めることで指とページの固定を強固にし、その下で生じるページ間の摩擦を検出する準備ということですね。
ページをめくる時、置いて扱う状況では前腕の回内外や肩の外転などが生じやすいですが、両手で操作する場合は少し異なります。
ほぼパッと見の運動が起こりません。それは本(紙)の弾性を利用して、紙を撓ませてそこから戻ろうとする力を利用してめくっています。
この時、“1枚ずつ”を可能にしているのは両手による本の固定と、母指指腹での紙との僅かな摩擦と1枚だけがバネのように跳ね返ってめくれる瞬間の摩擦とを別個に検出しているのです。
👉こういった摩擦刺激の検出は様々なADLで認められます。患者によっては、摩擦刺激の探索が素材を素材なりに扱う手がかりになることもあります。
袋の中に様々な素材感の物を入れて、中を見ずに目的の素材を探してもらったり、今度は袋の外からそれを探してもらったり。摩擦刺激の探索という点では、これらの課題でも同じ要素にアプローチできますね。
まとめ
いかがでしょうか?
たかだか本を手に取って開く・めくるというだけの行為の中にこれほどの要素が詰まっているのです。突き詰めればもっとありますが、ひとまずこれくらいでよいのかなと。
ところどころに、評価・治療のヒントになりうる内容も入れておきましたので、参考にしていただければ幸いです。
他の活動では果たしてどうなっているでしょうか?
一度どんな要素があるのかを書き出してみると面白いですよ。
ADL動作の分析についても各論を随時更新していきますので、楽しみにしておいてください。
このほかにも、何かアドバイスやご意見等ございましたら、ぜひコメントかTwitter@ReHub5へのDM等でご連絡ください。
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