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ご存知ですか?運動学習は運動を学習することではありません

理学療法士をしていると避けては通れない、『運動学習』というものがあります。

理学療法士なら誰もが持っている基礎運動学の中村隆一氏は、『運動学習』を次のように説明しています。

 運動学習は各種の運動技能を獲得する過程である。筋運動の関与する技能の獲得でもある。知覚と運動との相互作用は運動制御の視点から運動学習では重視されている。一方,リハビリテーション医療においては,機能回復,とくに中枢神経系障害後の運動機能回復と訓練との関連を運動学習によって説明する試みもある。
(中村, 1994)

これはその通りなのですが、引用文献が古いこともあって伝わりづらい気がします。

そこで、もう一つの運動学習の定義を紹介したいと思います。

運動学習は練習や経験に基づく一連の過程であり,結果として技能的行動を行い得る能力の比較的永続的な変化をもたらすものである
(大橋ゆかり著:セラピストのための運動学習ABC, 2004)

こちらの方がいくらかわかりやすいでしょうか。

ただ、『運動学習』というものが何を学習するものなのか、定義上はあまりハッキリと言及されていません。

理学療法士になって間もない頃、『運動学習』について考え勉強し始めた頃の私は、運動の仕方を覚えること・動き方を覚えることが『運動学習』だと思っていました。

今回はそうじゃないという話をしたいと思います。

今回の記事を読むと、
●『運動学習』が何を学習するものなのかわかる
●『運動学習』が動き方を一つ一つ覚えるのではなく、動きの制御の仕方を覚えるものだということが理解できる
●クライアントの『運動学習』を狙う際の視点が変わる

Schmidtのスキーマ理論

運動学習を様々な理論で説明されますが、今回はSchmidt(1975)によるスキーマ理論を中心に考えたいと思います。

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上図はSchmidtによるスキーマ理論のダイアグラムを訳したものです。

かなり込み入った図になっていますが、順を追って説明すると次のようになると思います。

まず、初期状態(姿勢や肢位)から望ましい結果に至るための運動プログラムが生成されます。
運動プログラムは手足(体幹含む)に至ると運動が起こり、内受容感覚が生じます。
手足で運動が生じることで環境と相互作用が生じ、外界の概念が形成されます。
最終的に視覚的な情報などから課題の成否などが測定結果として得られます。
ここまで得られた内受容感覚、外界の概念、測定結果を統合してエラーが検出され、必要があれば修正されます。
修正され運動プログラムが再び出力され、課題の達成=望ましい結果に至るまで、以上のループが繰り返されることとなります。

以上のスキーマ理論では、運動出力とその結果得られるフィードバックとの相互作用が重要視されています。

冒頭で述べたように、『運動学習』が運動の仕方を覚えること・動き方を覚えることだとすると、フィードバックされた情報はあまり重要ではないことになってしまいます。

というより、全ての運動の仕方・動き方を覚えなければならず、限りある脳の容量はすぐにいっぱいになってしまいます。

Schmidtのスキーマ理論では、この脳の容量がすぐいっぱいになってしまうという問題をクリアするために、出力された運動はその場でフィードバックによって修正するという概念となっているのです。

そうすることで、全ての運動を記憶する必要はないと考えることができます。


運動学習では何を覚えるのか?

スキーマ理論に基づくと、『運動学習』では何を学習するのでしょうか?

それは、運動制御の精度を上げること、修正の仕方を学習することと捉えることができます。

『学習』と言うと、何か知識を覚えるというイメージを持ちがちですが、『運動学習』の場合はそういった『学習』とは異なるのです。

運動を出力した結果として得られる、感覚(内受容感覚)と外界(環境)概念、さらに結果の知識を利用して、次の運動出力を修正していく。

この絶え間ない出力と入力、それによる誤差修正を繰り返していくことで、この誤差修正の方法を学習していくことが『運動学習』なのです。


脳卒中片麻痺では運動学習ができなくなっている

『運動学習』に問題が生じる代表的な状態として、脳卒中による片麻痺があります。

本来、『運動学習』は自動的に行われるようになっていて、幼少の頃から誰に教えられるでもなく自動的に行われるものです。

それが脳の損傷によって行われなくなり、体の動かし方・動き方を自身で修正することができなくなった状態になるのが、脳卒中による片麻痺です。

脳卒中片麻痺の方の運動・動作を見ていると、常に同じパターンでの運動しか行えなくなっている方が多くはないでしょうか。

本来であれば、より動きやすい、より目的に合った動きに修正されるはずですが、これが難しくなっているために自身で修正することができなくなっているのです。

だとすれば、我々理学療法士はそんなクライアントに何を教えれば良いのでしょうか?

私は、『運動学習』の仕方、つまり運動を出力した結果として得られる感覚情報を利用して運動を自ら修正していく過程を教えていく、という視点に立って運動療法を行うよう心がけています。


まとめ

今回はSchmidtのスキーマ理論に基づいて、『運動学習』について考えてきました。

学習と言うと何かを覚えるというイメージを持ちがちですが、『運動学習』の場合は覚えるというのとは少し違うということが理解していただけたでしょうか。

自身で『運動学習』が行える状態になれば、生活の中で自律して動き方を修正・改善していけるはずです。

本来のリハビリテーションとは、クライアントをそのような状態に導いていくことなのではないでしょうか。


もっと学びたい方へ

セラピストのための運動学習ABC
セラピスト向けに運動学習が詳しく書かれています。
Schmidtの学習理論についても詳しく解説されています。


脳卒中片麻痺の方に運動学習を教えるために必要な感覚について、以下の記事から始まるシリーズでも書いています。
参考にしていただけると幸いです。


おわりに

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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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