足元を見て歩くクライアントに何ができますか?①
脳卒中や下肢の骨折後のクライアントで、足元を見て歩かれている方は非常に多いです。
その原因はクライアントの状態や病気の症状などにより様々で、ご本人の捉え方も人によって様々です。
先日、Twitterでお世話になっている方がこんなツイートをされていました。
「下向いて歩いてもお金なんて落ちてないですよw顔上げましょう!さぁ前向いて!」
これは仮定の話ですが、こんなナメた発言をするセラピストには怒りを覚えますね。
ただ、実際にこんな風に言ってしまうセラピストがいるかもしれない、というのも悲しい事実です。
そこで、今回から足元を見てしまうクライアントに何ができるのか?というテーマで、5回シリーズで書いていこうと思います。
初回は、私の目の前のクライアントが足元を見て歩く方だったらどんな評価を行うかについて書いていきます。
このシリーズを読むと、
●歩行中にヒトが収集し利用している情報が何かを知ることができる
●なぜ足元を見て歩いてしまうのかがわかる
●足元を見て歩いてしまうクライアントに何をすべきかがわかる
そもそも、どこを見て歩いているのか
あなたは普段、どこを見て歩いていますか?
そんなこと聞かれても、ケースバイケースですよね。
朝の出勤時、気分が良ければ少し上を向いて、気分が優れなければちょっと俯いて下の方を見て歩いているかもしれません。
商店街や百貨店を歩くときは、左右に目移りしながら歩くでしょう。
スマホを見ながら歩くヒトもいるかもしれませんね。(歩きスマホ、ダメ、ゼッタイ)
健康なヒトであれば、足元を見て歩くというのはあまり多くないと思います。
例外として、険しい山道や、凹凸の多い不整地を歩く場合には、足元を見て歩くこともあると思います。
以前、論文紹介記事でも紹介した論文で、不整地歩行では2〜4歩先に視線を落として歩いているという結果が出ていました。
経験上も文献上も、通常は自分の足を見て歩くことはない、ということは理解できるのではないでしょうか。
なぜ足元を見てしまうのか
私の経験上、足元を見て歩いてしまうクライアントは、脳卒中発症後の方や、下肢の骨折(特に大腿骨折)後の方が多いように思います。もちろん、その他のケガや病気によって足元を見て歩いてしまう方も多いです。
ケガの種類や病気の種類によってその原因や対処法は異なるはずですが、今回は認定理学療法士(脳卒中)として、脳卒中の方にフォーカスして書いていきたいと思います。ただ、考え方としてはその他の疾患の方にも応用可能かと思います。
脳卒中により片麻痺を患ってしまった方は、なぜ足元を見て歩いてしまうのでしょう。
それを考えるために、一旦逆に考えてみましょう。なぜ私たちは足元を見ずに歩けるのでしょうか。
それは、足の感覚があって、足の場所、地面の状態(硬さや傾きなど)、足と地面の接触の仕方、などといった情報を収集できているからではないでしょうか。
足の感覚からわからなくなると、足の代わりに視覚で情報収集しなければならなくなる。
これが足元を見て歩いてしまう原因であると考えています。
ここで一旦、大まかにですが足元を見て歩いてしまう原因を一通り挙げてみたいと思います。
<足元を見て歩く原因>
●足底が地面に接触したことがわからない
●体幹に対する足の位置がわからない
●地面に対する足の位置がわからない
●足底の感覚から地面の状態(硬さ/柔らかさ、摩擦などの性状)を知ることができない
●足部(と下肢全体)の感覚から地面の傾きを知ることができない
ざっとこんな感じではないでしょうか。
こんな状態で自分が歩いているのを想像してください。足元を見て確かめたくなりますよね。
クライアントが足元を見て歩く原因を探る
セラピストにとっては当たり前の話ですが、対策を考える前に、現状を評価する必要があります。
足元を見て歩く原因を探るために、どのような評価が必要でしょうか?
先ほど挙げた原因の中から絞るために、私自身が行っている評価を例示したいと思います。
歩行観察
PTの醍醐味というか、得意分野ですね。
まずは歩行観察を通して、足元を見て歩いていることに気付くでしょう。
歩行観察に慣れたPTであれば、歩行を見るだけでどこに不安を感じているのか、ある程度予想がつくのではないでしょうか。
遊脚の方向や、足底の床への接地のしかた、接地後に荷重を始めるまでのタイムラグや体幹の動きなどなど。
足底を床に接触するのがゆっくりだったり、踵でなくつま先から探るように接地するのであれば、踵が床に接触するのがわからないのかな?と考えられます。
足底が床に接触した後、重心を移動していく際に足部を見ながら慎重に荷重していくのであれば、足に荷重したこと、地面から足底に圧が加わることがわからないのかな?などと考えられます。
お話を聞く
私はこのような場合、まずはご本人のお話をうかがいます。
会話を通してセラピストとクライアントとの共通認識を作っておくことも重要です。
「歩くとき、どこを見て歩いていますか?」
こんな質問を投げかけると、「ちゃんと前向いてますよ」みたいな意外な答えが返ってきたりします。
「ご自身の足を見て歩かれていますか?それとも地面を見て歩かれていますか?」
ここまで意識して歩かれている方は少ないですが、わからなければ再度歩いて確認していただきます。
この質問をすることで、どこに不安を感じているのか、どんな情報が収集できていないのか、ある程度の当たりがつきます。
足を見ているのか、地面を見ているのか。この違いによって取るべき対策も大きく異なってくると思います。
足での情報収集の評価
これは、平たく言うと『感覚検査』です。
ただ、教科書に載っているような、「触れたら教えてください」「動いたら教えてください」みたいな検査では不十分です。
足底であれば、触れたことはわかるのか?触れた場所は?圧力の違いはわかるのか?圧の場所は?触れた素材の違いはわかるのか?摩擦の違いはわかるのか?などなど。
足の位置であれば、股・膝・足・足趾の各関節の動きがわかるのか、動く方向は?動きの大きさは?速度は?動き始めと動き終わりがわかるのか?足と体幹の位置関係は?足が地面に対してどこにあるのかわかるのか?などなど。
次回から、この辺りを詳しく書いていきたいと思います。
まとめ
今回は、足元を見ながら歩いてしまうクライアントに何ができるのか?というテーマで、考えられる大まかな原因と評価について書いてきました。
次回からはもう少し詳細な評価と、具体的な対処法についても書いていきたいと思います。
しばらく同じような話が続きますが、よろしければお付き合い下さい。
おわりに
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