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健康な老後・悠々自適な生活のために理学療法士が考えるべきこと

誰もが豊かな老後・穏やかな老後を過ごしたいと考えているでしょう。

一時期取り沙汰された老後の2000万円問題であったり、年金の問題であったり、流行りのFIRE(Financial Independence, Retire Early)であったりは、こうした多くの人々が理想とする老後生活を反映したものと考えられます。

人生という時間も少し昔に比べて格段に長くなっており、日本においても65歳で定年退職、その後は年金暮らしというようなモデルケースも、今後は通用しなくなっていくでしょう。

仮に65歳まで会社員として勤めたとして、その後の生活はどうなるのか。

そこまでにお金を貯めて(投資含む)おいて、それを切り崩していくパターンもあれば、再就職であったり、それまでとは全く異なる事業をスタートする方も増えてくるでしょう。

ここまで金銭的な問題を取り上げてきましたが、ここからが本題です。

どのような形で老後を迎え、どのような老後の生活を送りたいか、といった点は多様性を持って考えるべきではあるのですが、そんな多様性の中である程度一貫した共通項があります。

それは、健康問題です。身体問題と言い換えても良いかもしれません。

どんなにたくさんの資産を持って老後を迎えたとしても、その後急速に身体が衰えてしまうのであれば、夢に見た悠々自適な生活は叶わないことになります。

仮に歩けなくなったとしても、これから街のバリアフリー化は進むし、車椅子なんかの性能も上がっていくことが予想されるから問題ない、という意見もあるでしょう。

移動に関してはそれで良いかもしれませんが、歩行するにも不自由な脚の機能で、移動以外の日常生活は何歳まで自立していられるのでしょうか。

脚の機能が衰えたことによって、脚以外の身体部位に影響は出ないのでしょうか。

そんなことを日頃から考える理学療法士としては、いわゆる介護予防事業というものの必要性を強く感じるわけです。

それと同時に、この事業に微力ながら関わる者として、この事業の問題点も気になる訳です。

前置きが長くなりましたが、今回は老後の健康問題をどのように考えたら良いのか、今からできること(今からしかできないこと)はないのか、そんなことを考えてみたいと思います。


とあるアンケートの結果

先日、Twitter上でこのようなアンケートを実施しました。

3日間で116もの回答をいただきました。

回答いただいた方、拡散していただいた方、ありがとうございました。

このアンケート結果は何を示しているのでしょう。

結果を考える前に、このアンケートを実施した意図を簡潔にお伝えしたいと思います。

それは、介護予防事業に参画させていただいている私自身が、既存の介護予防事業の取り組みに参加したくないと考えて(しまって)いるからです。

これは本当に申し訳ない話なのですが、地域で行われている例えば体操教室なんか、受講する側になるイメージが全く湧かないのです。

当然、私自身が理学療法士だということもあるでしょう。自分よりも若い理学療法士が簡単な話をして、一緒に簡単な体操をして、約60分。それなら一人で60分散歩やら筋トレするわ!と思う次第です。

そんな疑念?からアンケートを実施した結果、概ね予想通りというか、私が事業に感じていることと同じようなことを感じている(であろう)方が多いことが分かりました。

「是非参加したい」と「嫌だけど必要だから参加する」を合計した『参加したい』という方は40.5%です。「絶対に参加したくない」と回答した48.3%には及びません。

しかも『参加したい』という方の半数以上は「嫌だけど…」という回答です。

Twitterで見かけるリハ関連職種のみなさんは、どちらかというといわゆる意識が高い方が多いように思っています。

勉強熱心な方であったり、患者さん・利用者さんに真摯に向き合う方、経済的な面から様々な取り組みをされている方などなど。

少なくとも、リハ関連職種として最低限の健康リテラシーはお持ちの方が大半だと考えています。

そんな方々が116票を投じてくださった結果がこれです。

一般的な企業に勤めている方々ではなく、リハ関連職種です。老後の身体機能低下やその予防に普段から携わっている方々の中でもその多くが、「絶対に参加したくない」のです。

もちろん、Twitter上での簡易なアンケート結果なので、信頼性は低いでしょう。

サンプリングは大きく偏っていますし、対象を「リハ関連職種」としたのも自称でしかないので信頼性は全くありません。

それでも、回答された方の多くが「絶対に参加したくない」と回答されたことは事実です。


介護予防事業の実情と課題

私自身、自治体が主導して推進されている介護予防事業には微力ながら携わらせていただいています。

自主グループのサポートに呼ばれることもありますし、介護予防事業の対象者の前でお話させていただく機会もあります。

こうした取り組みが無駄だとは全く考えていませんし、そのような機会を与えてくださることにも感謝しています。

私自身、そういった予防の取り組みの重要性を理解していますし、やりがいも感じています。

しかし、そのような事業に参加させていただく中で気付くことがあります。

それは、参加している方はそもそも大丈夫ということです。

自主グループに参加している方、理学療法士が講話をするという会に積極的に参加してくださる方、体操教室があれば暑い中会場まで足を運んでくださる方…

みなさん、前提として元気な方々なのです。

元気だし、そういった取り組みに参加するという行為自体、会場に足を運ぶ時点で、介護予防になっているのです。

こうした取り組みの重要な点は、健康に関する知識をつけること、身体を動かす機会を持つこと、それに加えて他者と交流する機会を持つことだと考えています。

既存の介護予防事業、自主グループであったり体操教室であったりといった場に参加されている方々は、これらの点を既にクリアしているのです。

本当に介護予防事業として関わらなければならない対象者、つまり要介護リスクの高い方というのは、こういった場に参加しない(できない)方なのではないでしょうか。


地域在住高齢者の実情

私は訪問看護ステーションに理学療法士として勤務しているため、利用者さんのお宅へ訪問するというのが日常的な業務です。

日本全国地域によって実情は異なるでしょうし、私の限られた見識から一般化して言うべきではないと思うのですが、訪問先で感じることを述べさせてください。

要介護とされる方の中にも、介護予防事業に参加できる方はいらっしゃいますし、要支援の方の中にも介護予防事業に参加しない方はいらっしゃいます。

訪問看護ステーションから理学療法士が訪問する必要あるの?と思ってしまう方がいるのも事実です。(理学療法士として関われることがないわけではなく、公費を使ってまで訪問する必要があるのか?というレベル。保険者側からすると問題です)

そのような方に共通するのは、家から出ることを単純に億劫に感じる、人前に出ることを好まない、でも運動はしたい、だけど一人で運動はなかなかできない、というような状況だと思います。

このような方々を介護予防事業等に繋いでいくことが理想的な流れなのは理解しているのですが、そこに繋ぐことが難しいケースが多いことも事実です。

ただ、高齢者の介護予防という点だけを考えた場合、このような訪問看護等のサービスと繋がれている方というのはまだマシな方だと考えています。

本当に問題なのは、介護保険のサービスとも繋がれず、介護予防事業に参加することもなく、もしかすると地域コミュニティにも関わることもできていない、といったような状況にある方なのではないでしょうか。

『孤立している』と表現してしまっても良いかと思います。

そして、このような状況にある方が実は地域に多くいて、どのような公的なサービスも拾い上げることができず、誰にも知られないうちに老化・廃用が進み、もしくは疾患や外傷によって、突然要介護状態になってしまってから気付かれるということが多く起こっているのではないでしょうか。

そう考えたときに本当に求められている介護予防事業というのは、こういった対象者に向けた何かなのだろうと考えるのです。


身体を意識する機会の欠如

もちろん、介護予防事業や介護保険のサービスとの繋がりが一切ないことが悪いことだと言っているわけではありません。

問題なのは、地域社会との繋がりの欠如、そして自身の身体を意識する機会の欠如だと考えています。

どのような形であれ、他者との交流を保ち、自身の身体を意識してケアする機会を持てるのであれば、こういった事業に関わる必要もないでしょう。

というか、関わる必要がない方が自然だし理想的だと考えます。

最近の若い世代は筋トレやヨガやピラティスなんかがブームになっていたりするので、数十年後には高齢者の意識も変わっているかもしれません。

それでも、運動機会がなければ自身の身体のケアなどしない、という層が一定数いることは予想されます。

今後はVRの技術なんかも進んでいくでしょうし、視覚的な体験と身体的な体験が解離していくことになっていくかもしれません。

そうなったとき、身体を意識してケアする層と全くしない層との二極化になっていくのかもしれません。

そんなことを考えると、我々のような職種は、今の段階からそうした世の中に対処すべく手を打っておくべきだと考えています。

ここで本題のアンケート結果に戻るのですが、回答された116名が本当にリハ関連職種だったとして、その多くが「絶対に参加したくない」と回答されました。

もしかすると、リハ関連職種は「自分の身体くらい自分でケアできる」と考えているのかもしれません。それだけの知識も持っているはずですから。

しかし、「嫌だけど必要だから参加する」が20%ほどいたことを考えると、リハ職としての知識があったとしても、自分一人では補えない部分(例えば社会参加の部分)があると考えている方もいるのではないでしょうか。

セルフエクササイズで身体を鍛える・整えることはできたとしても、人との繋がりがなくなってしまっては健康に生きていくことはできないかもしれません。

家族との繋がりがあれば良いと考えている方もいるでしょうが、家族だけの繋がりであれば、家族との関係性がもしも変わってしまえば、その後は繋がりがなくなってしまうリスクもあるわけです。

そんなことを考えていくと、社会との繋がり、近隣地域との繋がりは必要だと考えられます。


生涯現役という介護予防

身体のケアと社会との繋がりを両立して健康な老後を送る、ということが必要なのは分かっているのですが、その方法は何も介護予防事業でなくても良い訳です。

というか、少なくとも現状の介護予防事業というのは、言ってしまえば不自然なコミュニティを行政主導で無理矢理に創出しているようなものです。

最近は少しずつ廃れてきていますが、元々は町内会であったり老人会であったり、そういった地域のコミュニティがそういった役割を果たしていたはずです。

このようなコミュニティが廃れてきたから新しいコミュニティを創るという取り組みになったのかもしれませんが、元々あったコミュニティを補填するという考え方の方が効率的だったかもしれません。

そこに対して意見(文句)を言っても仕方ないのですが。

さて、私たちが老後を迎えたときの介護予防を考えたとき、何が必要なのでしょうか。

30〜40年後なので世の中の在り方も色々と変わってしまっているかもしれないので、予想でしかありません。

それでも、人間という生物の根本を考えたとき、身体は切り離せないはずですし、人と人の繋がりというのも排除することはできないでしょう。

その根本は変わらず、在り方が少しずつ変化するだけのはずです。

ということは、どれだけテクノロジーが進歩したとしても、介護予防というのはこの先も必要だと考えられます。

提供する側の半数近くが「絶対に参加したくない」と回答してしまうような介護予防事業の在り方では非常にマズイ訳です。

では、どのような形にしていくのが良いのでしょうか。

個人的な意見としては、生涯現役で生きていくこと、そのためのサポートとしては就労支援が一番だと考えています。

生涯現役とか就労とか言っても、現役並みにバリバリ働くようなことを推奨するものではなくて、なんらかの役割を持って(実感しながら)生きていけるということを想定しています。

家庭があれば家庭での役割が当然あるわけで、父親の役割、母親の役割、親の役割などなど、色々ありますよね。

地域社会の枠で考えれば、インフォーマルな近隣住民との関係性の中での役割、もう少しフォーマルな町内会での役割、マンションであれば自治会(理事会?)での役割、あまり意識されないものでは国民や市民としての役割などなど。

今後は就労の在り方自体も変わっていくでしょうから、定年後も何らかの仕事(オンラインでのものも含む)を続けるとすれば、その関係のコミュニティ内における役割であったり、サービスを提供する側・される側の役割なんかも持ち続けることになるでしょう。

こういった役割を持ち続けて生涯現役でいられること、そのための身体ケアであったり、生活習慣の構築であったり、社会との繋がりの維持であったり、そういったものが介護予防になるし、介護予防を推進する立場としてはそういったことを考えなければならないと考えています。

既存の体操教室のような取り組みは、もし今後も残るのであれば、上記のような取り組みで不足する部分を補うような意味合いを持たせていけるのが理想かな、と思います。

普段の仕事がデスクワーク中心なら、身体を動かす機会を推進していく必要がある、みたいな形にカスタマイズしていけると良いですよね。


介護予防は一生涯を通じて

冒頭で紹介したアンケートは、リハ職種を対象にしたものです。

さすがにリハ職種であれば、仮に病院で働いていたとしても、こうした介護予防の取り組みが地域で行われていることくらいは知っているものだと思います。

ただ、これが一般的な会社員を対象にしたものであればどうでしょう。

きっとアンケートの項目は、

●取り組みを知っていて参加したい
●取り組みを知らなかったが参加したい
●取り組みを知っていたが参加したくない
●取り組みを知らなかったし参加したくない

のようなことになるでしょう。しなければならないと思います。

恐らく大半の方は関わりがなく、知名度もないはずです。

アンケートをとるなら、まずはそうした事業があることを紹介することから始めなければならないでしょう。

そういった方々が定年後に突然、「介護予防が必要だから介護予防教室・体操教室に参加してください」と言われて、参加するでしょうか?

FIREに代表されるように、多くの人は早めにリタイアして悠々自適な生活を送りたいと考えているはずです。

定年退職後は、仕事をすることなく、家でのんびり過ごしたいと考えている人が多いはずです。

介護予防事業の内容以前に、そもそも家から出たくない、そんなものに参加したくないと考える方も多いのではないでしょうか。(これはアンケートをとっていないので単なる推測ですが)

そういった問題を解決するためには、働き盛りの世代、もっと言えば働く前の学生の時代から、就労や人生に対する意識を変えていく必要があると考えています。

時代の変化とともに意識は自然に変わってきている部分も当然あり、仕事に対する考え方なんかは大きく変わりつつあります。

しかし、高校生や中学生相手に介護予防を教えよう、というような取り組みをされている方はいるでしょうか?(いたら教えてください)

介護予防というのは、日常生活における生活習慣であったり、自己身体への意識の向け方(動き方・使い方)であったり、運動習慣であったり、働き方であったり、そういったことの積み重ねによって実現できるものではないでしょうか。

ゆえに、介護予防は老後に行うものではなく、一生涯を通じて行うものと捉えた方が良いのではないかと考えています。(介護予防にも生活習慣病予防にもなりますね)


おわりに

話題が行ったり来たりしてしまったので、最後に私の考えをまとめておきたいと思います。

●現在の介護予防事業は魅力が足りない
●(恐らく)現在の介護予防事業は対象年代以外への知名度が低い
●介護予防事業の在り方は見直しが必要
●介護予防は老後に始めても手遅れ
●一生涯を通じた教育・啓発によってこそ介護予防が可能になる

もちろん、現在の介護予防事業に携わる方々が様々な工夫や努力を凝らして取り組まれていることも理解しています。

今行われている取り組みを批判したいのではなく、今後も刷新を続けていく必要がある、しかも対象者を大きく拡げていくことがより必要であろう、ということが私の主張です。

現実的に可能なものと難しいものはあるでしょうが、介護予防事業に微力ながら携わるものとして、今後も提案を含めて尽力していきたいと思います。

少し長めの文章になりましたが、最期まで読んでいただきありがとうございました。


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過去に色々書いています。マガジンにまとめてあるので、もし興味があれば是非。


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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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