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足元を見て歩くクライアントに何ができますか?③

足元シリーズの3回目です。

前回は歩行観察で着目すべき点まで書いてきました。

1回目の記事はこちら。まだの方はこちらからご覧ください。

2回目の記事はこちら。

今回は、歩行観察で得られた情報を元に、クライアントご本人にお話をうかがい、どのような情報が収集できていないのかを確かめていく評価を行う、という流れについて書いていきたいと思います。

このnoteを読むと、
●歩行観察から得た情報を元に、クライアントの経験を聞くことができる
●足元を見て歩いてしまう原因を探る評価の引き出しが増える
●足元を見て歩いてしまう状態を改善するための手がかりが得られる


クライアントのお話を聞く

クライアント自身が歩行中にどのような経験をしているか、聞いたことはありますか?

もしもそういう視点でお話を聞いたことがない方がいたら、是非聞いてみてください。

特に、今回のテーマである『足元を見て歩いてしまう』というような状態は、クライアント自身が何らかの不安を感じている場合が多いです。

その不安は、ご本人しか知り得ない情報、感じ得ない感覚や情動です。

聞いてみないと私たちは知ることができないのです。

具体的にどのような質問が考えられるでしょうか。

ざっと、次のようなものが挙げられます。

「歩くとき、どこを(何を)見て歩いていますか?」
「歩行中に足元を見て歩いておられるように見えるのですが、気付かれていましたか?」
「歩くとき、何か不安なこと・恐いことはありますか?」
「足元を見て歩いていることは、どのように思いますか?どのように感じますか?」
「足元を見ないで歩けますか?」→実際に足元を見ずに歩いていただく(歩行観察)

上に挙げたのはあくまでも一例です。

聞き方や聞く内容は、クライアントの状態や、クライアントとセラピストの関係性によっても変わってくると思います。

お話をうかがう際のポイントは、ご本人の経験を聞くことです。

クライアント自身が足元を見て歩いていることに気付いているか否かは、非常に大切な情報です。

無意識に見てしまっていて、指摘されて初めて気付くこともあります。

逆に、意識的に足元を見ており、それは不安や恐さを感じていることに起因している場合もあります。

足元を見ていることに自覚がある場合、なぜ足元を見ているのか、どうして足元を見てしまうと考えているのか、ということを聞いてみることも大切です。

考えたこともない方が大半かと思いますが、そのような場合はセラピストが手助けをしながら、一緒に考えていくことが必要だと思います。

なぜなら、それはクライアント自身の問題だからです。

セラピストから「こういう理由で足元を見てしまうのです」と言われても、それが実感として理解できなければ、セラピストとクライアントの間で共通認識を持って練習に向かうことはできません。

そしてここが重要なのですが、クライアント自身が足元を見て歩いていることに問題意識を持っていない場合、修正すべきでない可能性があります。

というか、ご本人が問題と感じていないのであれば、修正できない場合が多いです。

中長期的には足元を見て歩いてしまう状態は是正すべきだとは思うのですが、他にクライアントご本人がフォーカスしている問題点があるのであれば、そちらを優先して改善すべきかもしれません。

最悪の場合、クライアントの意図と全く違う問題点に向かうと、クレームや担当変更、介入の終了に結びついてしまう可能性もあります。これは避けたいですよね。


収集できていない情報は何かを確かめる

歩行観察、クライアントにお話を聞く、と評価を進めてきました。

次は、いよいよ問題点を絞っていく作業です。

実際には、お話を聞きながら、これから提案する評価を同時進行で行っていくことになるかと思います。

なぜなら、評価中の経験もクライアントに聞いていく必要があるからです。

全ての評価項目を挙げることはできないかもしれませんが、これは見ておきたいというものを優先的に解説していきたいと思います。


足底の感覚を確かめる

ICで足元を見ているということは、足底と床との接触を確かめるための情報を視覚から得ていると考えることができます。

特にクライアントが「足が床に着いたことを(目で見て)確かめている」というように話される場合は、足底からの情報収集に問題がある場合が高いです。

触れたことがわかるのか、触れているものが離れたことがわかるのか、触れた場所(つま先と踵の違い、母趾丘と小趾丘の違い、など)がわかるのか、圧の強弱(足底を押された強さの違い)がわかるのか、といった点を確認していきます。

具体的には、セラピストの指や手掌で足底に触れてみたり、座っているクライアントの足部を床に接触させてみたりして、確認していきます。

硬さの異なる物品で足底に触れ、その違い(圧力の強弱)を確かめてもらうという方法をとることもあります。


足底と足部を含む感覚を確かめる

ICで足元を見てしまう場合、足底が床に適切に接触するために視覚から得ている情報として、床の傾きがあります。

床が傾いていれば、足底を床に合わせて足部を傾け、全面を接地する必要があります。

クライアントが「床を見ている」「(目で見て)足を床に合わせている」といったことを話される場合には、床の状態を足で確かめることができていない可能性が高いと考えられます。

具体的な確認のしかたとしては、板の下に円柱状のもの(ラップの芯など)を置き、その上にクライアントの足部を載せます。

クライアントは足元を見ない状態(閉眼など)でセラピストが板を傾け、傾きの程度を識別できるか、そもそも水平を水平と認識できるのか、といった点を確認していきます。

ここで重要なのは、クライアントがどのようにして板の傾きを知ろうとしているのかを聴取することです。

足底圧の変化なのか、足関節の運動覚なのか、または全く別の情報からなのか。

足元を見て歩いてしまう原因がここにあるのだとすれば、認識のズレがあったり、感覚情報の利用に偏りがあったりします。


膝・股関節の感覚を確かめる

足部の位置は、股関節と膝関節の角度によって決まります。

ということは、足が三次元的な空間の中でどこにあるのかを知るためには、股関節と膝関節の角度を知ることができなければなりません。

もしも股関節と膝関節の動きや角度を知ることができなければ、足の場所を見失ってしまうことになります。

そんな場合、「足がどこにあるかを(目で見て)確かめている」といったことを話されたりします。

具体的な評価としては、座位や背臥位で股関節と膝関節を他動的に動かし、運動距離の識別が可能かを確認していきます。

クライアントが閉眼した状態で足部を移動させ、足部がどこにあるのかを予測してもらい、目で見て確認してもらう、という方法もあります。

足部を見失ってしまう場合、予測した位置と実際の位置が異なることに気付かれるでしょう。

このような場合も、膝と股関節とを分け、どこの関節のどのような感覚がわからなくなっているのかを細かく確認していく必要があります。

例えば、運動方向はわかるのか?動いた距離はわかるのか?などです。

動きの方向や距離はわかっても、それによって移動した足部の位置を体幹と関係付けることができないという場合もあったりします。


まとめ

今回は足元を見て歩いてしまうクライアントに対して行う評価として、ご本人のお話を聞くことと、細かな感覚の確認について書いてきました。

普段、クライアントのお話をそこまで詳しく聞いていないという方は多いのではないでしょうか。

また、一般的な感覚検査ではわからない細かな感覚があることにも気付いていただけたでしょうか。

今回紹介したのは一部に過ぎず、クライアントの症状や歩行状態によって無限に考えなければなりません。

この記事がヒントになって、臨床で考える一助になれば幸いです。

次回から残りの2回は、足元を見て歩いてしまう方に対し、どのような介入・練習が考えられるかを書いていきたいと思います。


おわりに

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また、記事の依頼も受け付けています。お気軽にご相談ください。


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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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