足元を見て歩くクライアントに何ができますか?⑤
5回シリーズの最終回です。
1回目の記事はこちら。まだの方はこちらからご覧ください。
前回に引き続き、介入・練習の案をいくつか紹介したいと思います。
このnoteを読むと、
●足部の位置がわからなくなってしまう場合の介入方法がわかる
●評価結果から練習に結びつける考え方がわかる
●脳卒中片麻痺のクライアントに対する介入方法の引き出しが増える
足底と床との接触を確認する練習
ICで足底と床の接触を注視している場合に有効と考えられます。
足元を見てしまう理由が、足底と床とが接触したことがわからないためである場合ですね。
クライアントの姿勢制御能力にもよりますが、落ち着いて練習するために座位で行うことが多いです。座る場所も背もたれのある椅子が望ましいですね。
クライアントには閉眼していただき、足部をセラピストが持ち上げます。
セラピストの操作でゆっくりと足底(踵)を床に接触させ、接触したと感じたタイミングで「はい」などと答えていただきます。
答えることができた場合でも、どんな情報から回答したのかを確認します。
股関節や膝の運動覚から考えて答えたのであれば、足底の触圧覚への注意を促し、再度試行します。
それでも運動覚に注意が向いてしまう場合、足底を床から浮かせた状態で固定し、足底に板などを当て、当たったタイミングを回答していただく、という方法が有効な場合もあります。
この練習では、足底(踵)の触圧覚へ注意を向け、知覚することを要求されます。
座位の落ち着いた状態でこれができなければ、歩行中に足底が床に接触したことを足底の触圧覚から確認することは更に難しくなり、足元を見てしまうと考えられます。
足底で床の状態を確認する練習
次に紹介するのは、足底が床に接触したことはわかるけれど、床の状態(硬さや質感など)を確かめることができない場合です。
ICで足底を床に接触することはできても、その次に荷重していくときに不安を感じてしまい、足元に視線を落とすことになります。
この練習では、複数の質感の素材を用意する必要があります。
例えば、絨毯の切れ端、木の板、布、硬さの異なるスポンジ、などです。
実際の手順としては、クライアントは座位で閉眼し、それぞれの素材で足底をこすったり、押し当てたりします。
2種類の素材を続けて確かめていただき、その違いの判別を練習します。
絨毯の切れ端が複数あれば、摩擦の違いを足底で判別する練習になります。
絨毯の切れ端と木の板の違いを判別すれば、絨毯と板の間の違いを足底で確かめることができるようになります。
硬さの異なるスポンジを用意できれば、荷重した際に足底に感じる床反力(圧覚)を確かめることができます。
ICからLRにかけて足底に荷重していく際、足底の感覚から床の質感や床からの反力を感じることができなければ、荷重していくことはできません。
本人に自覚がなくても、荷重していくことに不安を感じてしまうはずです。
この練習課題が難しい場合、荷重していく際に足元を見て確認しながら慎重に荷重していくことになると考えられます。
足部で床の傾きを確認する練習
この練習では、板と円柱(ラップの芯など)を使用します。
クライアントは座位の姿勢で閉眼していただきます。
円柱の上に置いた板の上にクライアントの足部を載せ、セラピストの操作で板を傾けます。
板の傾いた方向や傾きの程度を識別し、回答していただきます。
板の端の下に複数枚の板を置き、傾きの程度を板の枚数で答えてもらうこともできます。
円柱の方向によって前後方向・左右方向の動きを変更することもでき、それぞれを練習することが必要な場合もあります。
ここで重要なのは、前後方向と左右方向のそれぞれで、水平の板を水平と認識できるかを確認すること、認識できるように練習を行うことです。
水平の板を傾いていると認識してしまう場合、平面の床を歩いているのに、クライアントの中では傾いた床を歩いていると(自覚の有無に関わらず)感じている可能性があります。
この練習で回答することが難しい場合、床や地面の傾きに対して適切に足底全面を接触させることが難しく、その後の荷重も難しくなります。
そうなると、床の状態を目で見て確認してしまう、というのは当然ではないでしょうか。
まとめ
5回シリーズで、足元を見て歩いてしまうクライアントに対して理学療法士が何をできるのかを書いてきました。
今回のシリーズでお伝えしたかったのは、『足元を見て歩いている』という観察された現象に対して、「前を見て歩いてください」と言ってしまうような短絡的な思考では、本質的な解決にはならないということです。
『足元を見て歩いている』のは、そうなってしまう原因が必ず存在します。
その原因を特定し、仮説を立て、検証する。
仮説が反証されたら、仮説を修正し、更に検証を繰り返す。
これが理学療法士に求められる思考過程であり、これによってしか臨床能力の向上をあり得ないのではないでしょうか。
4回目、5回目では練習の方法をいくつか提案してきましたが、全てを網羅して書くことは難しく、思いつくままにいくつか紹介したに過ぎません。
紹介した練習の中でも、クライアントの症状や状態、能力によって、より細かなバリエーションを設定していく必要があります。
声かけや問いかけも微妙に変えていく必要があります。
「こんな場合はどうしたら良いの?」
「書いてあった練習をやってみたらこんな反応があったんだけど、次に考えられる一手は?」
といった質問があれば、コメントでも良いですし、TwitterのDMなどでお願いします。
おわりに
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