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脳卒中の感覚障害は良くなるの?①〜注意を利用した戦略の提案〜

脳卒中の症状として目立つのは片麻痺ですが、感覚障害も主要な症状の一つです。

日常生活に復帰する上で、感覚障害は様々な問題を生じることとなります。

今回は感覚障害に対して療法士はどのように介入すべきなのか、考えてみたいと思います。

今回提案するポイントは注意を利用することです。


脳卒中で生じる感覚障害

そもそも、脳卒中でなぜ感覚障害が生じるのでしょうか。

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上図のように末梢神経が障害された場合、感覚情報が伝達される経路が損傷されることで感覚障害が生じます。

この場合、身体からの感覚情報は脳に到達できないことで感覚障害が生じます。

一方、下図のように、脳卒中では末梢神経は障害されず、脳の内部が損傷された状態となります。

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この場合は感覚の経路が直接障害されるわけではなく、感覚の情報は脳に到達しているものの、脳内で適切に処理することが難しい状態です。

もちろん、梗塞や出血の部位によっては脳内の感覚の経路が直接損傷を受ける場合もあります。

実際にはクライアントの脳画像を確認し、個別に評価した上で、介入戦略を検討する必要があります。


感覚と知覚

脳に体性感覚情報が入力されているのであれば、なぜ感覚障害が生じてしまうのでしょうか。

様々な症状・状態が考えられますが、今回は感覚と知覚の違いという観点から考えてみたいと思います。

我々は刺激が与えられたからといって,いつもこれに気付くとはかぎりません。刺激に積極的に注意が向けられてはじめて知覚的な意識(awareness)が成立するのです。(岩村吉晃: 神経心理学コレクション タッチ, P174)

引用のように、刺激が与えられて脳に入力・伝導された体性感覚情報は、注意が向けられてはじめて意識されます。

この感覚に注意を向けて感覚を感じられることを『知覚する』と言います。

体性感覚を知覚するというのは受動的に生じるものではなく、能動的に注意を向けて意識することで可能となるのです。


認知過程における注意と知覚

運動療法とは,認知過程(知覚,注意,記憶,判断,言語)を働かせ,新しく発達した運動行動を患者に獲得させることにより病理の克服を目指すものである.(C.Perfettiら著: 認知運動療法, p232)

特定の治療理論に関する文章を引用すると拒否反応を示す方もいるかもしれませんが、認知過程という考え方は神経心理学的に一般的な用語であり考え方です。

認知運動療法での介入に関わらず、認知過程というのは人間が何かを学習するのに必要なものです。

人間は何か運動を学習(運動学習)するとき、体性感覚に注意を向けて知覚し,その感覚を記憶します。

試行を繰り返す中で生じる体性感覚を記憶した体性感覚と比較照合し、その善し悪しを判断します。

その善し悪しが何を基準に判断されているのか、どのような体性感覚があったときにより良いパフォーマンスを発揮できるのか、言語を使って他者に説明することで、運動学習はより明確かつ強固なものとなるでしょう。

勉強でも、人に説明することで知識が定着するというのは多くの方が実感することではないでしょうか。

つまり、知覚と注意というのは運動学習の出発点ということになります。

前述のように体性感覚を知覚するためには、体性感覚に注意を向ける必要があります。

この考え方に基づくと、感覚障害を有するクライアントが体性感覚に注意を向けられているかという観点で評価するのは重要なことであると考えられます。


注意を利用して感覚(知覚)を改善する

目の前のクライアントは、注意をどれくらい操作することができるのでしょうか。

例えば、「足の裏に触れた感覚に意識を向けてください」と指示すると、注意を向けることは可能なのでしょうか?

一見注意を向けているように見えても、実は注意を向けることができておらず、『感覚障害』として捉えられている方も多いです。

そのようなクライアントに対しては、注意を向けることが得意な感覚と苦手な感覚をそれぞれ評価することが有効と考えます。

例えば、足底の触覚に注意を向けて知覚することが苦手でも、大腿部の触覚に注意を向けて知覚することは得意(可能)かもしれません。

そうであれば、少しずつ触れる部位を大腿から下腿、足部、足底へと移動していくことで、注意を向けて知覚することが可能かもしれません。

実際に、下肢の体性感覚が脱失状態だった脳卒中片麻痺の方に対し、背中の触圧覚に注意を向ける練習から行うことで、下肢の感覚を知覚可能となった経験もあります。


まとめ

今回は脳卒中による感覚障害について考えました。

脳卒中は部位により生じている症状と原因は様々ですが、感覚障害が生じていても体性感覚の経路が残存している場合は少なくありません。

そのような場合、注意を操作する練習というのが有効である可能性は大いにあると考えられます。

それぞれの病態に即した介入方法を考えることが必要ですが、今回紹介した注意を利用した戦略を是非考慮していただければと思います。


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まじい@マジメな理学療法士・公認心理師
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