【創作戯曲】二階ぞめき/『しかく』
私
相方
後輩
部長
相方 「……前から言いたかったんだけどさ」
私 「何、どうしたの」
相方 「コレ、なにが面白いの?」
私 「ン?」
相方 「この話のどこが面白いのか分かんなくて」
私 「エ、でもずっと練習してたよね?」
相方 「ウン」
私 「じゃあ、今まで分からないままやってたの」
相方 「ウン。どう面白いか説明してくれよ」
私 「……マジで」
相方 「マジで」
後輩 「この話はアレなんですよ。落ちが「幽霊の正体……」」
私 「説明しないで!」
後輩 「アアア!すいません!説明してって言ったので」
私 「アア~、恥ずかしかった。この話、おもしろくない?」
後輩 「おもしろいと思いますよ」
相方 「俺は、ちょっと分かんないんだよなあ」
私 「マジか。えっと~、じゃあ僕は、この、自分で書いた話の!どこが!どうおもしろいかを!自分で!説明すればいいのかな!?」
相方 「ゴメンて~。怒るなよ」
私 「怒ってない!」
後輩 「私は分かってます!」
相方 「お前、それはズルくないか」
私 「分かってる。君が僕の書いた脚本のおもしろさを分かってくれていることは、分かってる。じゃあ……始めましょうか!」
シーン練習1
私 「……」
後輩 「……」
毛布にくるまって震えている
テレビを見つめる
相方 「ゴメン、一回止める」リモコンを操作する
私 「おい、止めんなよ!」
相方 「だからゴメンて~。俺、怖いの苦手なんだよ~」
私 「心霊映像スペシャルって番組なんだから怖いのは当たり 前だろ?ホラ、続けて」
相方 「ええ~。……。分かったよ~」リモコンを操作する
私 「ゴメン。ちょっと戻してくれねえかな?」
相方 「ええ~!そりゃあ無いでしょう!」
私 「こういうのは雰囲気が大切なんだよ。分かるだろ?」
相方 「じゃあ、自分で戻してくれよ」リモコンを私に渡す
私 「うん。分かった」リモコンを操作する
テレビを見つめる
相方 被っている毛布で顔を覆ったり、テレビ画面をチラ見したりする
後輩 「まだ何も起こってないよ」
相方 「いーや、俺には感じるんだよォ」
私 「説得力がありそうで無いんだよなあ」
三人 テレビに見入る
シーン練習1終わり
相方 シーンを切って
「ゴメン。一回止める。コレ、まだ何も起こってないよね?」
私 「怒ってない!」
相方 「怒ってんじゃん!」
後輩 「起こってないけどおもしろいです!」
私 「それは言い過ぎ」
後輩 「エエ!」
私 「まだ何も起こってないからねえ!」
相方 「だから怒ってんじゃん!」
私 「怒ってないって! ……。ここはまだ何も起こってないから、先に進めていいか?」
相方 「分かった。ゴメンな、シーン止めて」
私 「イヤ、いいよ」
シーン練習2
相方 「「もう一度ご覧いただこう」とかいらないって」
私・後輩「……」
三人 テレビに見入る
相方 びっくりする
私・後輩 相方のびっくり仕方にびっくりする
私 リモコンを操作する「お前うるさいよ!」
相方 「俺、何も喋ってないよ!?」
後輩 「多分動きの話だと思う。驚いてる時の。こんなのなってたし」
相方の真似をする
相方 「なってないよ。そんな、俺がアホみたいじゃん」
後輩 「そうか?じゃあ俺の見間違いか」
相方 「うん。そうだよ、きっと」
私 「わあ!」相方を驚かせる
相方 びっくりする
私・後輩「やってんじゃん!」
相方 「今のはズルいよ!」
私 「ゴメンゴメン。面白くって、ついな」
後輩 「な~」
相方 「まあ、良いけど。……。ちょっと、俺、今の観たらトイレしたくなってきた。トイレ借りるぞ」
部屋を出ようとする
私 「ああ、良いけど、毛布のまま行くなよ」
相方 ドアの前で立ち止まる 布を美しく脱ぎ去ってはける
相方 シーンを止めて「コレ、面白いか?」
私 「ここは君が面白くするんだよ」
相方 「って言ってもなあ、俺、多分、お前と笑いの感覚が違うんだよ。求めらることができるかどうか。ア、そうだ、一回やってみてくれよ」
私 「エエ……。私、演出だからあんまりそーゆーことするの、君の為にならないっていうか……」
相方 「お願い!」
後輩 「私も見たいです」
私 「マジか、エエ~、じゃあ、一回だけな。」相方から毛布を受け取る
後輩に「ひとつ前の台詞言って」
後輩 「分かりました」
シーン練習3
後輩 「ああ、良いけど、毛布のまま行くなよ」
私 ドアの前で立ち止まる
相方とは違う方法で毛布を美しく脱ぎ去ってはける
「どう?」
相方 「なるほどな」
私 「微妙だな、オイ」
後輩 「私は面白いと思いました!」
私 「ヨシッ!」
相方 「なんとなくお前のイメージは分かった。感覚は分かんねえけど。とりあえず、思いついたやつやってみるわ」
私 「ア、ハイ。……。じゃあ、エ~ッと~、毛布を美しく脱いだ、次の台詞から」
後輩 「分かりました」
シーン練習4
後輩 「せめて軽く畳めよな」毛布を取りに行って畳む
「アイツさ、怖いのとか苦手なくせにこういうテレビ好きだよなあ」
私 「まあ怖いもの見たさって言うの?分からなくもないけど、まあ昔からあんな感じだよ」
後輩 「そういえばさ、お前、アイツと高校の頃から仲良かったんだろ?どんな奴だったんだ、高校時代のアイツは?」
私 「う~ん、そうだなあ。部活はオカルト研究会ってところに入ってて……。あ、そうそう。俺、何回かアイツの家に遊びに行ったことあるんだけどさあ、もう部屋が凄いの。そういう小説とか雑誌とか映画とか、いっぱいあってさ。まあ、マニアってやつだな」
後輩 「でも怖いのは苦手?」
私 「そう」
相方 出てくる
「ふう。スッとした。ん?何だ?俺が高校の時の部活の話でもしてたのか?」
後輩 「何で分かったの?」
相方 「壁に耳あり障子に目ありって言ってな」
後輩 「お前、すごいなあ」
私 「なあ、早く続き観ようぜ」
後輩 「そうだな」
相方 「ゴメン、続き観るのさ、今度にしようよ」
私 「怖かった?」
相方 「うん。やっぱり俺、作り物がダメみたいだわ。特に映像系」
後輩 「オカ研だったのに?」
相方 「まあ、一口にオカルトって言っても色々あるからな」
後輩 「へえ~」
私 「前から聞きたかったんだけどさ、お前って霊感とかあるの?」
相方 「無いよ」
私 「無いの?」
相方 「うん」
後輩 「オカ研だったのに?」
相方 「まあ、一口にオカルトって言っても色々あるからな」
後輩 「へえ~。……。でもさ、さっき作り物がダメって言ってたじゃん。それって霊感が無かったら作り物かどうか分からないんじゃないの?」
私 「確かに。霊感のある人が本物か偽物かを区別できるんじゃないの?」
相方 「そういうやり方の人もいるよ。でも俺は、そうじゃないってだけ」
私 「どういうこと?」
相方 「観たら分かるよ。その~、編集って言うの?明らかに不自然だなあって。そういうやつに限ってインパクトに頼るんだよ!」
いきなりシーン練習終了
相方 そのままのテンションで
「ここってどういうこと!?」
私 「うん。一回落ち着こうか」
相方 「ここのやりとり、内容もいまいち入ってこないし、面白いかどうかも、もう分からない」
私 「ン~、内容が入ってこないことに関しては、私からはもっと本を読み込んでとしか言いようがないな」
相方 後輩に「分かる?」
後輩 「ハイ」
私に「人によって霊感の感じ方が違うって話ですよね?」
私 「ウン、そうだよ」
相方 「アア、そういうことか。でもこのやり取りさあ、何か意味あるの?」
私 「エエ?」
後輩 慌てて「あああ、アレですよね!あ、あの~フリ、フリですよ、フリ!」
私に「フリですよね?」
私 疲れた様子で
「そう……だけど、作家にそういうこと言わせないで」
後輩 「アア、すみません」
私 「いいの、いいの、実際フリだから。思ってた以上に頻繁に止まっちゃうから、ちょっと飛ばしてもいい?」
相方 「良いよ」
私 「じゃあ、「シッ!静かに!」から」
後輩 「分かりました」
シーン練習5
後輩 「シッ!静かに!」
私・相方 口々に「何?」「どうしたの?」
後輩 「何か聞こえる」
私 「え?」
相方 「嘘だろ」
私 「おい、大丈夫か?」
相方 「あ、こういうのは大丈夫」
私 「ああ、そうか」
しばらくの沈黙
私 「ああ!」
相方 びっくりする「おい、大きな声出すなよ~」
私 「ゴメンゴメン。でも変なんだ……。」
後輩 「何が変なんだ?」
私 「隣の部屋の人、今日出張でいないはずなんだ」
後輩 「え……」
しばらくの沈黙
私 「こんなんだろ~!」
相方 「ああ~もう!止めてよね!」
後輩 「でもこういうの好きだろ?」
相方 「え?まあ、嫌いじゃないけど」
後輩 「ホントに出張行ってるの?」
私 「知らない」
相方 「知らないの」
私 「知らない」
後輩 「隣の人なのに」
私 「ていうか、見たことない。俺の後から入ってきたっぽいけど」
後輩 「挨拶も無しだなんて、変な人だな」
私 「あ、そうそう。変な人と言えば上の階の人もなんだけどさ」
相方 「どう変なんだ?」
私 部屋の真ん中に相方と後輩を集める
小声で
「これは、俺がここに引っ越してきてまだ間もない頃の話なんだけど。この部屋の窓は南向きで日当たりも良くて、結構気に入ってたんだ。一か月ぐらい経ったある真夜中、俺はフッと目が覚めたんだ。時計を見ると午前二時三十分。いつも寝るときは常夜灯を点けて寝てるんだけど、その日はどうもその明かりが気になって寝つけなかったんだ。三十分ぐらい経ってたと思う。天井の方からバタバタって音がしたんだ。結構大きな音でびっくりしたんだけど、そこからは何も起こらなくて気付いたら寝てたんだ。夕べに起こったのは一体何だったんだろう?考えても仕方ないから、気にしないようにしてたんだ。
でもその日を境に毎日同じことが起こるようになった。決まった時間に目が覚めて、三十分ぐらいしたらバタバタ!バタバタ!って聞こえるんだ。最初は気が付かなかったんだけど、どうやら子ども二人がおいかけっこしてるみたいで、笑い声も聞こえるんだよ。もう我慢できないと思った俺は、上の階の住民にクレームを入れることにした。っていうのも上の階は四人家族で住んでて、俺も特に金縛りとかそういうのは無かったから、てっきりその家族がうるさくしてると思っててさ」
落語家のように
「あの、朝早くからすみません。下の階の者なんですけどお宅のお子さんがここ一ヶ月くらい毎晩騒がしくてですね……」
「え?あなたの所のお子さんじゃないんですか?」
少しの沈黙
後輩 「ゴメン、どういうこと?」
私・相方「えー!」
私 「分からなかったの?」
後輩 「うん、なんか、ゴメン」
私 「いや、こっちこそゴメン」
相方 「なあ、今のはホントの話なの?」
私 「嘘だよ」
相方・後輩「えー!」
私 「お前、分からなかったんじゃねえのかよ」
後輩 「だってホントの話だと思ってたから」
相方「嘘なの?」
私 「うん、なんか、ゴメン。嘘だって気付くと思って。ここ最上階だし」
相方 「あ、そっか。最上階だったら上の階に人なんか住んでないもんな~」
後輩 「あ、だから分からなかったのか。あ〜スッキリした」
相方 「お前馬鹿だな」
後輩 「お前には関しては信じてたじゃないか」
相方 「まあな」
私に
「そういえば、上には何があるんだ?」
私 「貯水槽」
相方・後輩「え!」
私 「何!?そんな驚くこと!?」
後輩 「お前それジャパニーズホラー嫌いには絶対言っちゃいけない言葉だからな!」
私 「何でだよ。貯水槽」
後輩 「あああ!」
相方 「お前分かってんのか!ジャパニーズホラーだぞ!水も溜るいいお化けだぞ!ホ〜ラホラホラホラホラ」
私 「盛り上がってんじゃん」
相方 「盛り上がってねえよ」
後輩 「俺、もうこの家の水道、絶対捻らねえ」
私 「何でだよ」
後輩 「髪の毛が出てくるからに決まってるだろうがー!」
私 「分かったよ。もう、貯水槽って言わないから」
相方・後輩 私を睨む
相方 「あと三ポイントで昼飯奢ってもらうからな」
私 「何でだよ」
相方 「ルールだよ」
私 「だから何のだよ」
後輩 「やっぱりさ、直接殺人鬼に襲われるより、不思議なことを目の当たりにする方が怖かったりするんだよ」
私 「いや、殺人鬼は怖いでしょ」
後輩の台詞に私の台詞を被せる
後輩 「いや、怖いんだけど、例えとしてな、直接ガッってくる恐怖よりも、そう、さっきコイツが言ってたインパクトだよ。インパクト。そのインパクトだけの恐怖より、何が起こってるか分からない状況の方が怖いこともあるよねって」
私 「だって襲ってくるわけでしょ。チェーンソーとか持って。いや、チェーンソーじゃないかもしれないよ。でも大体そういう奴って神出鬼没じゃん?音楽のクレシェンドと一緒にカメラがズームアップしていくんだよ。この緊張感、お前に分かるか?」
相方 「ちょっとストップ、ストップ」
私・後輩 黙って相方を見る
シーン練習終了
相方 「ゴメン、分からなくなってきた」
私 「ちょっと~、いま盛り上がってるところだよ?」
相方 「だから、ゴメンって~」
後輩 息上がってる
私 後輩に「大丈夫?」
後輩 「ハイ、大丈夫です。ちょっとテンション上がっちゃって」
私 「ホラ~」
相方 「もっかいやらせて」
私 「ここキツいから、次の台詞からにして」
相方 「分かった」
シーン練習6
相方 「え、ここはハリウッドですか?」
首を傾げる
後輩 「違うよ」
私 後輩に被せて
「首傾げるのやめてもらっていいかな?」
相方 「ア、ゴメン」
私 「じゃあ、もっかい同じところから」
シーン練習7
相方 「え、ここはハリウッドですか?」
私・後輩「違うよ」
相方 「とりあえず落ち着けよ。俺は二つとも怖い」
後輩 「何宣言だよ」
相方 「平和的で良いだろうが」
私 「まあ確かに、何が起こってるか分からない状況も確かに怖いな。なんかこう、ジワジワ来る感じがする」
相方 「逆に分かってしまえばそんなに怖くないこともあるけどな。ホラ、何て言ったっけ?ことわざで……。幽霊の正体見たり……見なかったり?うん、違う、分かってるの。アレ?ココまで出てるんだけど。何だっけ?」
後輩に聞く
後輩 「え?幽霊の正体見たり枯れ……え(カレー)が食べたい」
私 「はあ!?」
相方 「幽霊の、正体、見た~り晴れ姿~」
後輩 「あ!幽霊の正体みたい!」
相方 「幽霊の正体みたいなのは枯れ尾花だろ。あ、枯れ尾花だ」
私 「何やってんだよ。」
相方 「ゴメンて」(何が面白いか全く分からないが、一回止めてとはとても言えない)
少しの沈黙
後輩 天井を見上げる「うわっ!」
私・相方 口々に「ん?」「どうした?」
後輩 「あ、いや、天井のシミだと思ってびっくりしただけだよ」
私・相方 口々に「ふ~ん」「そうか」
天井を見上げる
相方 見上げたまま「シミなんてどこにも無いぞ」
私 見上げたまま「うん。全く見当たらない」
後輩 「うん。だから言ったじゃん。シミだと思ってびっくりしたって」
相方 後輩を見ながら「え、てことは、シミだと思ってたものがシミじゃ無かったってこと?」
後輩 「だからそうだって」
私・相方 顔を見合わせる 後輩の顔を見据える
私 「お前それ……逆尾花じゃん」
後輩 「なんだよ、逆尾花って」
相方 「俺、逆尾花の人初めて見た」
私 「俺も」
後輩 「だから何だよ、逆尾花って」
相方 「俺も逆尾花したい!続き観ようぜ!」
私 「お前苦手じゃなかったのかよ」
後輩 「なあ逆尾花って何だよ」
相方 「逆尾花したいから頑張って観るよ」
私 「まあ逆尾花って言うかマジお化けだけどな」リモコンを操作する
後輩 「ああ、そういうことか」
相方 後輩を遮って「シッ!」
後輩にテレビを観るよう促す
三人 テレビをじっと観る
私・後輩「うわっ!」「おお~!」相方の様子を窺う
相方 「美しい……」
シーン練習終了
私 疲れ果てている「やっと最後までいった……」
後輩 「やっとですね……」
相方 「……なあ」
私 「ン?」
相方 「すごく言いにくいんだけどさあ」
私 「なに?」
後輩 ものすごく気まずい
相方 「俺、この作品降りるわ」
後輩 「エエ!?」
相方 「ホントに無理言ってるのは分かるし、書いてくれたお前にどこが面白いのか説明してくれなんてデリカシー無いこと言ったのは謝るよ。でも、分かんないんだ、これがどう面白いのか」
私 「本番でスベると思ってんのか?」
相方 「イヤ、そうは言ってないけど」
私 相方の台詞に被せて「言ってる。俺にはそう聞こえる。ア、分かった。お前、自分が滑るのが怖いんだろ。大丈夫だ、もしスベったら、この話を書いた俺に責任がある、お前の心配することじゃない」
相方 「俺はお前のことを思ってだな」
私 「なんでこの劇降りる奴にそんな心配されなきゃいけないんだよ。降りていいよ。ていうか降りてくれ。お客さんにお前のハテナマークが伝わっちまうだろ」
相方 「そんな言い方ないだろ」
私 「ないだろって言う方がないだろう」
相方 「分かったよ、降りるよ、降りればいいんだろ」
私 「お前が言い出しっぺだからな」
相方 「分かってるよ」はける
部屋には私と後輩の二人
私 「ゴメンな、降りさせちまった」
後輩 「ア、イエ、大丈夫です。これは、ソノ……。売り言葉に買い言葉というか、仕方ないですよ」
私 「……ホントにゴメン」
後輩 「これからどーするんですか?」
私 疲れた笑いを浮かべながら「どーしようか?……。とりあえず、今日のこのチームの練習は終わり。俺はここでこれからのこと考えとくから、あなたは下でやってる人たちのシーン練習でも見てやって」
後輩 「……分かりました」
私 「ホントにごめんな」
後輩 「……アノ!」
私 「ン?」
後輩 「わたしはホントウに面白いと思ってます!先輩の作品……」
私 「ありがとね」
後輩 一礼 はける
部屋には私だけ
私 「……ホントにゴメンな。……。さ~て、どうするか」
本を広げて全部の台詞を読む
シーン練習8
「俺、もうこの家の水道、絶対捻らねえ」
「何でだよ」
「髪の毛が出てくるからに決まってるだろうがー!」
「分かったよ。もう、貯水槽って言わないから」
「あと三ポイントで昼飯奢ってもらうからな」
「何でだよ」
「ルールだよ」
「だから何のだよ」
「やっぱりさ、直接殺人鬼に襲われるより、不思議なことを目の当たりにする方が怖かったりするんだよ」
「いや、殺人鬼は怖いでしょ」
「いや、怖いんだけど」
「だって襲ってくるわけでしょ?」
「例えとしてな、直接、直接ガッってくる恐怖よりも」
「チェーンソーとか持って。いや、チェーンソーじゃないかもしれないよ」
「そう、さっきコイツが言ってたインパクトだよ。インパクト」
「でも大体そういう奴って神出鬼没じゃん?音楽のクレシェンドと一緒にカメラがズームアップしていくんだよ」
「そのインパクトだけの恐怖より、何が起こってるか分からない状況の方が怖いこともあるよねって」
「この緊張感、お前に分かるか?」
「ちょっとストップ、ストップ」
「今度はなに!?」
「ゴメン、このシーンホントに分からない」
「おめえ、まだそんなこと言ってんのか!」
「分かんねえモンは分かんねえだからしょうがねえだろ」
「それを分かろうという努力をするんだよ。良いか、お前は役者なんだ。舞台に立つ以上「お前」の考えることがお客さんに伝わっちまったら、いけねえんだ」
「言ってることは分かるんだけどよお、俺だって頑張ってやってるんだよ」
「頑張ってるっつった、お前、いま?」
「ウン」
「頑張ってるっつった、お前、いま?」
「ウン」
「頑張ってるっつった、お前、いま?」
「ウン」
「頑張ってるっつった?」
「言ったよ、しつけえなあ」
「だからおめえさんはダメなんだよ。いいか?舞台はなあ、頑張ってる、頑張ってないじゃあねえんだよ。お客さんにとって結果が全てだ、分かるか?努力の先のスポットライトみてえななあ、スポ根演劇がやりてえんだったら、文化祭でやりやがれ、こんちきしょう!」
「そんな言い方ねえでしょう」
「ねえでしょうって言う方がねえでしょう」
声がフェードアウト
場所が二階から一階へ移る
部長 上を見ながら「エエ?」
「うるさいなあ。今度はなに?急に静かになったと思ったら、降りてきて、俺、今回の芝居出ないとか言い出すしさ。先にそっち何とかすべきでしょ。演出としてさ。で、今度は?一人で何かバタバタ暴れてさ」
後輩に
「もうすぐ練習終わるからさ、二階行って、言ってきてくんない?」
後輩 「分かりました。先輩、一人でなにやってんだろ?」
二階へ移動して、私がいる部屋へ行く
部屋の中から私の声が聞こえる
私 「努力の先のスポットライトみてえななあ、スポ根演劇がやりてえんだったら、文化祭でやりやがれ、こんちきしょう!」
「そんな言い方ねえでしょう」
後輩 部屋を覗いて「一人で喧嘩してる」
私 「わあったよ!じゃあ、こんな作品やめてやるよ!」
「ア~、ア~、やめろ、やめろ。俺もおめえさんがいねえ方が、気がせいせいするってモンだ。アンタもそう思うよな?」
落語家のように交互に首を振って話しているので、このときに部屋を覗いていた後輩と目が合う
「アッ」
後輩 「ア、すいません。練習終わりました」
私 「ウン、わかった、ありがとう。すぐ降りるよ」
後輩 「今のシーン練習ですか?」
私 「アア、喧嘩も一人でやろうとするとなかなか難しいな」
後輩 「もしかして本番も一人でやるつもりなんですか?」
私 「うん、ア、俺が一人でやること、部長には内緒だよ」
暗転
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