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【創作戯曲】スマイル/『しかく』

A 写真撮られることが苦手な写真家
B 写真撮ることが下手な写真家
 
 写真スタジオひまわり

 
B  スマホで動画を観て、笑っている
 
A  資料を見ている
 
B 「ア~、面白れぇ、番長皿屋敷」
 
A 「なに、お前落語聞いてんの?」
 
B 「イヤ」
 
A 「じゃあ、何だよそれ」
 
B 「アニメ」
 
A 「アニメ?」
 
B 「そう。アニメ」
 
A 「どんな?」
 
B 「ヤンキーアニメ」
 
A 「だろうな。あらすじを教えてくれよ」
 
B 「キクっていう女の子が主人公で、一話目で死んじゃうんだけど、あの世でお化けたちを束ねて、アタマ張るって話」
 
A 「へえ~。で、それは面白いの?」
 
B 「まあ、面白いんじゃない?」
 
A 「なんで、はてなマークなんだよ」
 
B 「イヤ、知り合いから薦められたんだよね」
 
A 「なんて言われたの」
 
B 「子どもに人気なんだって」
 
A 「へえ~、俺、今、初めて聞いたけどなあ」
 
B 「俺も薦められるまで知らなかったんだけどさ、観といた方がいいって、そいつが」
 
A 「アア~、そういう感じか~」
 
B 「そういう感じって?」
 
A 「いやあさ、俺、人から「観といた方が良いぞ」って言われちゃうと観る気なくなっちゃうんだよね」
 
B 「アア~、マア、そういう人もいるか。でも、あれだよ、このアニメ、子どもにものすごく人気だから、ちょっと勉強しとこうかなって思って」
 
A 「なるほどね」
 
B 「なんなら、今から観るか」
 
A 「イヤ、お前、今、観てるだろ。いいよ」
 
B 「別に良いよ。何回観ても多分一緒だし」
A 「ほん。(相槌)……。でもなあ~」
 
B 「何がだよ~」
 
A 「んな~んか、こう、引っかかるというか」
 
B 「ウン。分かる。分かるよ。でも、ここは一旦、よく考えてみよう」
 
A 「エエ?」
 
B 「これって俺たちに必要なことだと思うんだ」
 
A 「俺たち、「写真スタジオひまわり」に?」
 
B 「そう。俺たち、「写真スタジオひまわり」に」
 
A 「そっか~。マア、確かに、七五三の依頼だけ極端に少ないからなあ」
 
B 「だろ?特に今年は成人式の前撮りも結婚式の依頼もそんなに無かっただろ。ご時世的に」
 
A 「アア、そうだな。でも七五三の依頼だけは少ないなりに例年通りだった……」
 
B 「やっぱり、愛する我が子の写真はちゃんと残しておきたいんだよ。親の気持ち的には」
 
A 「なるほど。これを機に子どもの写真の依頼を増やしたいと、あなたはそう言いたいわけだな」
 
B 「そう」
 
A 「でもさ~」
 
B 「ン?」
 
A 「俺、子どもニガテじゃん」
 
B 「ンン?」
 
A 「ンン?」
 
A・B「ンン~」
 
B 「たしかに、ニガテだね」
 
A 「頑張れるか?」
 
B 「がん……ばろう!」
 
A 「頑張るか~」
 
B 「だって「スタジオひまわり」だよ?それで子どもが苦手って、ちょっとなあ~?」
 
A 「ミスったな!」
 
B 「名前を?」
 
A 「そう!」
 
B 「でもお前が付けたんだぞ?」
 
A 「そうだった!」
 
B 「なんで、ひまわりにしたんだっけ?」
 
A 「ゴッホの「ひまわり」からとったんだよ」
 
B 「そうだった、そうだった」
 
A 「開店1年目に、子どもの写真スタジオだと勘違いした親が、いっぱい来て」
 
B 「熱出して倒れる。あん時、タイヘンだったんだぞ」
 
A 「悪い、悪い。もう熱出したりしないよ」
 
B 「だからさ、とりあえず、一緒に観ようよ」
 
A 「番長皿屋敷?」
 
B 「ウン」
 
A 「分かったよ。後でな」
 
B 「おっけー。いま、喋りながら思ってたんだけど、お前の学校には写真屋さんって来なかったのか?」
 
A 「アア~、そういえば来てたなあ」
B 「それ思い出したら、何となく、どうしたらいいのか分かるんじゃない?」
 
A 「そうだな。ちょっとアルバム取ってくるわ」
 
B 「俺も行くよ」
 
二人  一度はける
 しばらくしてアルバムを二冊持ってくる
 
B 「なんだかんだ言って、初めて見るな」
 
A 「これが高校んとき」
 
B 「へえ~」
 ペラペラとめくる
 
A  自分が写っているものをさしながら
「コレと、コレと、コレと……」
 とか
「これもだな」
 とブツブツ言っている
 
B  ひととおりアルバムを見て
「お前、全部白目だな」
 
A 「好きなんだよ」
 
B 「白目が?」
 
A 「白目が」
 
B 「変わってんな」
 
A 「フフ~ン」
 
B 「全部じゃん、ホントに」
 
A 「全部じゃないよ」
 
B 「エエ?」
 
A 「集合写真、集合写真」
 
B 「それはまた別でしょ。変顔したら撮り直しなんだから」
 
A 「でもこの写真、十回ぐらい撮り直してるんんだよ」
 
B 「やったの?」
 
A 「やった」
 
B 「通りでこの先生笑ってないわけだ」
 
A 「諦めちゃったんだな」
 
B 「先生が?」
 
A 「写真屋さんが」
 
B 「ああ。次、中学のやつ見せてよ」
 
A  中学のアルバムを渡す
「アア、ハイ」
 
B 「どこにいるんだ~」
 
A  自分が写っているものをさしながら
「コレと、コレと、コレと……」
 とか
「これもだな」
 とブツブツ言っている
 
B 「おまえ、もしかして、ずっとこれでやってきたのか?」
 
A 「ウン」
 
B 「……なんで?」
 
A 「なんでだったかなあ」
 
B 「小学生のも見せて」
 
A 「アア、それは、持ってきてないや」
 
B 「なんかあった?」
 
A 「ン?」
 
A 「なんかあった?」
 
A 「ンン?」
 
B 「ンン?」
 
A・B「ンン~」
 
B 「で」
 
A 「エエ?」
 
B 「アルバムは?」
 
A 「いやあ~、ちょっと、あんまり、見せたくないなあ~」
 
B 「ぬぁんでよ~」
 Aにまとわりつこうとする
 
A 「うわああ!」
 逃げる
 Bに(止まれ)
 
B  止まる
 フェイントかけたりして遊ぶ
 
A  Bに翻弄される
「ストップ、ストップ」
 
B 「ダメか」
 
A 「ダメです」
 
B 「多分なんだけど、小学生んときのアルバム見たら、お前の、ソノ~、子どもが苦手なのとか、ちょっとマシになると思うんだよね」
 
A 「……そうなの?」
 
B 「……多分だよ」
 
A 「ちょっとねえ」
 
B 「ウン」
 
A  ボソボソと喋る
 
B 「エエ?」
 
A 「撮られるの苦手なの!」
 
B 「やっぱり。撮られる人の気持ちがその分、分かるんだからさ、なんかこう、上手にできないの?」
 
A 「出来ないんだな~」
 
B 「ヨシッ!分かった、練習しよう!」
 
A 「なんで!?」
 
B 「ニガテ克服!」
 
A 「エエ……」
 
B 「イヤなのか?」
 
A 「イヤ……じゃないけど」
 
B 「けど?」
 
A 「そんな……夏期講習じゃん」
 
B 「なんの?」
 
A 「ゴメン、いまのナシ。……。あのね!俺のためにそんなことしなくてもいいんだよ」
 
B 「イヤ、確かに、これはお前のためでもあるんだけど、この店のためでもあるから」
 
A 「ひまわりの?」
 
B 「そう。ひまわりの」
 
A  首を触りながら
「……。分かったよ、やるよ」
 
B 「よし来た!やるぞ~」
 腕まくり
 カメラを取る
 
A 「あの~、やる気になってるところ申し訳ないんだけど」
 
B 「なに?」
 
A 「お前さ、撮るの下手じゃん」
 
B 「ン?」
 
A 「お前、撮るの下手じゃん」
 
B 「ンン?」
 
A 「ンン?」
 
A・B「ンン~」
 
B 「たしかに、下手だね」
 
A 「頑張れるか?」
 
B 「がん……ばろう!」
 
A 「頑張るか~」
 
B 「だって「スタジオひまわり」だよ?それで写真撮るの下手って、ちょっとなあ~?」
 
A 「死活問題だな」
 
B 「撮るの下手な奴と、撮られるの苦手な奴」
 
A 「逆によくやってきたよ。俺は褒めてやりたいね!」
 
B 「ヨシ!じゃあ、やるか」
 
A 「ハイハイ」
 
B  急に言葉がたどたどしくなる
「じゃ、じゃあ、あの、その、そこ、そこらへんに立ってもらって……」
 
A 「下手だな~!」
 指示された通り移動する
 
B 「うるさいな! ……。エ~ット、じゃあ、その、なんか、いい感じにポーズを……」
 
A 「下手だな~!」
 ぎこちなく、探り探りポーズをとる
 
B 「苦手だな~!」
 
A 「うるさいな!頑張ってやってんだよ」
 ポーズを決める
「ホラ、撮って、撮って」
 
B 「はいよ。……。エ~、笑って、笑って!」
 
A 「下手だな~!」
 
B 「笑ってください!笑ってください!」
 Aとアイコンタクト
 
A  すごく不本意な顔をして
 いびつな笑顔
 
 暗転

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