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【創作戯曲】こういう者です/『しかく』

タケイチ
堀木

 学生運動の主犯がいる学校に潜入捜査。

タケイチ「なあ。四角形の対義語ってなんだ?」

 堀木  「なんだ、暇なのか?」

 タケイチ「そう、暇つぶし。で、なんだと思う?」

 堀木  「マル、じゃないか?」

タケイチ「三角じゃなくて?」

 堀木  「アア、その手もあるか」

 タケイチ「ア、でも三角は底辺×高さ÷2だから、四角とはちゃんと対応しないか」

 堀木  「そんな厳密にやる?」

 タケイチ「マア、最初だし。マル、採用」

 堀木  「じゃあ、マルの対義語だから、バツか」

 タケイチ「そこは間違いないね」

 堀木  「バツの対義語ってなんだ?」

手でバツマークをつくる

 タケイチ「マルだと元に戻っちゃうから……÷(ワル)でいいんじゃない?」

 堀木  「アア、×(カケル)の対義語ってことね。じゃあ、÷(ワル)だから、繋げる」

 タケイチ「繋げる。……。悪(ワル)」

 堀木  「おい、それはさっき言っただろ」

 タケイチ「善悪の悪(ワル)」

 堀木  「アア、なるほど。じゃあ悪(ワル)いのはヤンキーだから……がり勉」

 タケイチ「不真面目」

 堀木  「真面目」

 タケイチ「授業中よく寝る人」

 堀木  「黒板写すのが丁寧な人」

 タケイチ「不真面目。アレ?(戻ってきてしまった)」

 堀木  「いいよ、いいよ。エ~、風紀委員」

 タケイチ「風紀委員。風紀委員!?エ~。……。番長?」

 堀木  「面白いな、それ」

 タケイチ「自分でも結構上手いこと言ったと思う」

 堀木  「ア、そうそう。次の公演、ヤンキーの話にしようと思ってるんだけど、どう?」

 タケイチ「大丈夫?それ、パクリにならない?」

 堀木  「何の話だ?」

 タケイチ「エ、知らない?番長皿屋敷?」

 堀木  「なんだよそれ」

 タケイチ「いま、めちゃくちゃ流行ってるアニメだよ」

 堀木  「イヤ、知らないなあ」

 タケイチ「シーエムとかもやってるんだけど」

 堀木  「シーエム?」

 タケイチ 少女漫画アニメの予告みたいに
「タイヘン!タイヘン!ってやつ」

 堀木  テンションが上がり「知ってる!知ってる!」

 タケイチ「だろ~?」
少女漫画アニメの予告みたいに
「タイヘン!タイヘン!ガンちゃんがニコウの奴らにボコられちまった!」

 堀木  「そうそうそう!で、そのガンちゃんっていうのは?」

 タケイチ「お岩さん」

 堀木  「アア(納得)。そのタイヘン!タイヘン!って言ってる奴、おもしろいな」

 タケイチ「この子はね、「イソラ」っていうの。主人公の皿屋敷の周りにいる太鼓持ち……」

 二人   なんか違うと首を傾げる

 タケイチ「皿屋敷の腰巾着……」

 二人   なんか違うと首を傾げる

 堀木  「付き添いの人?」

 タケイチ「そう、それだ!その~、主人公皿屋敷とゆかいな仲間たちがいるのね。で、このイソラって子が毎回事件を持ってくんの」

 堀木  少女漫画アニメの予告みたいに「タイヘン!タイヘン!って?」

 タケイチ 「そうそう。タイヘン!タイヘン!って。で、この子の元ネタが『雨月物語』に収録されてる「吉備津の釜」っていう」

 堀木  「ストップ、ストップ」

 タケイチ「エエ?」

 堀木  「ストップ」

 タケイチ「「吉備津の釜」っていう話に登場する磯良(いそら)がモデルで」

 堀木  「ストップ」

 タケイチ「ぬぁんでよ~」堀木にまとわりつこうとする

 堀木「うわああ!」逃げる
タケイチに(止まれ)

 タケイチ 止まったり、フェイントかけたりして遊ぶ

堀木 タケイチに翻弄される「ストップ、ストップ」

 タケイチ「もっと喋りたいんだよ~」

 堀木「あとでゆっくり聞くから。いまはアレ、片付けようぜ」

 タケイチ「アア。アレ、な」

 タケイチ 双眼鏡を覗く

 堀木  「ど~お?」

タケイチ 覗きながら「ウ~ン、動きナシ!」

 堀木 「そっか~」自分も双眼鏡を覗く

 二人 覗いたまま、しばらく沈黙

 タケイチ「暇だなあ」

 堀木  「ウ~ン」

 タケイチ「喋っていい?」

 堀木  「ダメ」

 タケイチ「エエ~」

 堀木  「違う話ならいいぞ」

 タケイチ「ウ~ン、そうだなあ。じゃあ、刑事?」

 堀木  「ゴメン、話が見えないんだけど」

 タケイチ「次の公演」

 堀木  「アア、その話な。じゃあ、タケイチが書いたらいいじゃん」

 タケイチ「でも堀木が書くって話じゃん。それに俺、書いたことないし」

 堀木  「これを機に書いてみるってのは?」

 タケイチ「ンン~、別にいいや。俺、堀木のやつ好きだし」

 堀木  双眼鏡覗きながら、タケイチの方を見る「へえ、嬉しいねえ」

 タケイチ 双眼鏡覗きながら、堀木と向かい合う「だから、次も書いてよ」

 堀木  元に戻って「分かったよ。で、刑事だっけ?」

 タケイチ「ウン」

堀木  「どんな話?」

 タケイチ「考えてない。案出しただけ」

 堀木  「そっか~。ン~っと、刑事だろ? ……。「私、こういう者です」」

 タケイチ「ウン」

 堀木  「タイトルはこれだな」

 タケイチ「いいね」

 堀木  「いい感じに話進めるから、いい感じに合わせられる?」

 タケイチ「わかった」

 堀木  「おれが「私、こういう者です」言うわ」

 タケイチ「オッケー」

 劇中劇開始

 堀木  「わたしこういう者です」

 タケイチ「……。テレビはありませんよ」

 終了

 二人 沈黙

 堀木  「思ってたのと違うなあ」

 タケイチ「一案な、一案」

 堀木  「次、おれにやらせてくれ」

 劇中劇開始

 タケイチ「私、こういう者です」

 堀木  「ここってものすごい大きなプロダクションじゃないですか!あ、あの茶摘みシスターズの事務所ですよね!」

 終了

 二人 沈黙

 タケイチ「なんだよ、茶摘みシスターズって」

 堀木  「いま、思いついた」

 タケイチ「アイドル?」

 堀木  「そうそう。……でもこれじゃあ刑事の話じゃなくなっちゃうな」

 タケイチ「ほんとだ」

 堀木  「もう、アレに集中しようよ」

 タケイチ「だって全然動きないもん」

 堀木  「仕方ねえだろ、張り込みってそういうもんだ」

 タケイチ「でもおれたち張り込んでないじゃん」

 堀木  「ン?」

 タケイチ「おれたち、ただの演劇部じゃん」

 堀木  「バカヤロー。次の公演で警察の話やるってなったから、張り込んでんだろ?なりきりだよ、なりきり。それにお前も、さっき、刑事の話は?って言ってたじゃん」

 タケイチ「確かに言ったけど。でもそれはアレじゃん。堀木がさ、張り込みごっこずっとやってるから、アア、コイツ刑事ものやりてえんだって気ィ使ったんじゃん」

 堀木  「当たりめえだろ。なんで警察の話作るのに、候補が落とし物係なんだよ」

 タケイチ「良いじゃん、物語が広がりそうで」

 堀木  「ね~よ!」

 タケイチ「なんで言い切れるんだよ」

 堀木  「……」

 タケイチ「言い切れねえだろ!?」

 堀木  「怒んなよ」

 タケイチ「怒ってない!」

 堀木  「怒ってんじゃん!」

 タケイチ「怒ってない!」

 堀木  「だから怒ってんじゃん!」

 タケイチ 双眼鏡を覗いて「まだ何も起こってないなあ」

 堀木  「ホントに怒ってなかったんだ」

 タケイチ「ウン。ホラ」

 堀木  「エエ?」双眼鏡を覗いて
「アア、そう。事件も起こらなけりゃ、物語も起こらないんだよ」

 タケイチ「ナルホドね~。……動きあった?」

 堀木  「う~ん、まだ」

 タケイチ「ホントに来るんだろうな?」

 堀木  「さあな」

 タケイチ「エエ~」

 堀木  「張り込みは忍耐だ。気長に待とうぜ」

 タケイチ「エエ~!イヤだよ!パリピを待ちながら」

 堀木  「おいおい。言葉には気を付けろよ。誰が聞いてるのか分からねえんだからよ」

 タケイチ「だってパリピを取り締まるたって、あいつら何も悪いことしてないじゃん」

 堀木  「静かにしろよ、パリピの肩持ったら通報されるぞ」

 タケイチ「アイツら結構良い奴なのに?」

 堀木  「なんだ、お前、アイツらに情が湧いたのか?」

 タケイチ「そんなんじゃないけど」

 堀木  「タケイチ、よく聞けよ。お前の言ってることも分からなくはない。けどパリピ規制法っていう法律は、人様の迷惑を省みずに、自分たちのみが楽しければそれでいいという思想の下に集う個人、団体を規制する法律のことなんだよ。俺たちが取り締まらないといけないんだ」

 タケイチ「なんだよその法律~。王様が何でも勝手に決めていいってのは俺、違うと思うなあ~」

 堀木  「おい、やめろって。反政府だと思われるだろ」

 タケイチ「もう俺は激怒した。必ず、かの邪知暴虐の王を除かねばならぬと決意したぞ!」

 堀木  「ああ、メロスいいかもな」

 タケイチ「何に?」

 堀木  「次の公演。刑事じゃなくてもいいか?」

 タケイチ「うん。堀木がいいなら、いいよ」

 堀木  「メロスじゃなくてもいいんだけど」

 タケイチ「なんかほかにあるかな」

 堀木  「調べるわ」スマホ取り出して、検索する
「走れメロス、富嶽百景、女生徒、津軽、お伽草子、ヴィヨンの妻、斜陽、人間失格……」

 タケイチ 言い終わる前に、警察官に話しかけられる
「ハイ、なんですか。エ、通報?何のですか?反政府予備軍!?なんの話ですか。イエ、違いますけど。とりあえず来てくれっておかしいでしょ。演劇の練習ですよ。ちょっとやめてくださいよ」
警察官に腕を掴まれる
「演劇の練習だって言ってんでしょ。証拠?証拠は……。ちょ、やめてください!離してくださいよ!」
腕を振り払う

 堀木  江戸っ子口調「おうおうおうおう、ちょっと黙って聞いてりゃあ、善良な市民相手に横暴な手ェとってェくれるじゃねえか。俺ァよォ、おめぇさんのような、ふてえ野郎がでえきれえなんでい!おてめぇちの顔出す所じゃねえ。すっこんでろい、この丸太んぼうがァ!」
掴まれる
「なんですか」
振り払う
「放してくださいよ」
拳銃を取り出す
「うるせえ!」
撃つ

 SE:銃声

タケイチ「堀木……」

 堀木  「(舌打ち)逃げたか、ワン公のくせに生意気なもんだ」

 タケイチ「なあ、おれたち公安なのに職質とかありえなくない?」

 堀木  「まあ、潜入捜査だしな」

 タケイチ「騙すのは身内からってやつか」

 堀木  「そうそう」

 タケイチ「でもさすがに発砲はまずくないか?」

 堀木  「良いんだよ、あんなもん、公務執行妨害」

 タケイチ「すごい理論だ……」さっき別の警察官に話しかけられる
「この辺りで発砲事件?いやあ、知りませんね。お前知ってる?」

 堀木  「いや、知らないな。ア、でも、向こうの方から叫び声が聞こえたような」
明後日の方向を指す
「ア、僕たちですか?僕たちこういう者です」
学生証を出す
「ハイ、学生です。部活の練習してました。ハイ。ハイ。分かりました。帰ります」
警察官を見送る
「帰った。帰った」

 タケイチ「俺たち以外といけるな」

 堀木  「続けるか、潜入」

 タケイチ「うん」

暗転

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