【創作落語】番長皿屋敷/『しかく』
ヤンキー1とヤンキー2以外の役は全部メアリー役がやる
ヤンキー1「どこ学校じゃ、おまえ」
ヤンキー2「アア?そんなのどこだっていいじゃねえかよ」
ヤンキー1「邪魔だっつってんだろ、どけよ」
ヤンキー2「ハア?おまえ、誰にもの言ってんのか分かってんの?」
ヤンキーの睨みあいが続く
声はフェードアウト
どこからともなくメアリーが現れる
手には自撮り棒を持ち、その先にはスマホが付いている
メアリー「壁に耳あり障子にメアリー!ということで、幽霊系ユーチューバーのメアリーです。よろしく~。今回の企画は!マジお化けのメアリーがドラマ撮影に潜り込んでみた!ということで早速、行ってみまSHOW!」
メアリー ヤンキーたちに近づいて、画角に入れようとする
「エ~っと、入ってるかな? ……。ハイ!」
ここからは画角関係なしに自由に喋る
「これは~、ヤンキーもののようです。ちょっと古くな~い?だってもう街で見ないでしょ、ヤンキーなんて。都市伝説と一緒だよこんなの。もう~アレだね、製作者の年齢層が分かっちゃうね、メアリーくらいになると。どうせ、アレでしょ?「俺が入社した頃なんてな……」っていうタイプの自分語り系おじさんでしょ?いるのよ、そういう人、ヤンキーより多いよ。部下の相談乗る振りして、自分のこと喋りたいの。ヤンキーより立ち悪いよ、可愛げもないし。ヤンキーの方がまだ可愛げあるよ、だってコイツら去年まで中坊なんだぜ?中坊ってことは給食食ってんの、ウケる。ミルメークでテンション上がってやんの。揚げパン賭けてジャンケンしてやんの、めっちゃウケるんですけど!」
メアリー「……。マクラはこのくらいにして、本題にいきましょう。どうして今回、ドラマの撮影所に潜入したかと言いますとですね、私が女優になりたかったからです!イエ~イ、というわけ早速チャレンジしてみたいんですけど……。ちょっと待って、いま絶対、幽霊のお前が女優なんかできるわけないって思った人いるでしょ?」
スマホに向かって
「出来るから、見てろよ!」
ヤンキー1に絡む
「見てろよ?」
メアリー「幽霊だってね、頑張れば何でもできるってところを見せてやるんだから!だってユーチューブやってる時点でもう、アレでしょ。多分、世界初でしょ。だって、ねえ、ユーチューブの「ユー」は幽霊の「ユウ」とかかって……。ここはカットしよう」
編集点作りのためにもう一度ヤンキー1に絡む
「見てろよ?」
メアリー「今回ね、メアリー、女優初挑戦なんだけど、多分、得意だと思う!特にヤンキーの役!何でかって言うとね、アア、この動画で初めてメアリーのこと知ったっていう視聴者さんのために言っときたいんだけど、メアリーって生きてた頃はお菊って名前だったの。そう、お菊。何となく分かったかもしれないけど、メアリーが今、地上でなんて呼ばれてるかって言うとね、あの、「番町皿屋敷」って呼ばれてんの。だからね、多分、得意だと思う」
メアリー カッコつけて
「第三幽霊高校の番長、皿屋敷メアリーだ。夜露死苦」
舎弟 メアリーが自分でやる
「メアリーさん、今日もイケてるっす!」
ヤンキー2に「ホラ、お前も言え」というような仕草
しかしヤンキーたちはメアリーに気付かない
メアリー ヤンキー2に絡む
「言って、今日もイケてるって、言って。言いなさい。早く、言って。今日もイケてるって。姐さんがそう言ってるんだから、言うとおりにしなさい。今日もイケてるって言いなさい。言って。言ってよ、今日もイケてるって!」
土下座して
「言ってください!お願いします!わたしを褒めたたえてください。褒めたたえてっていうか、葬ってください」
すがりついて
「ずっと独りなんです。幽霊になってからというもの。誰かに気付いてもらえるかなと思ってユーチューブも始めたんです」
空気を察して、元のメアリーに戻る
「……嘘だよ~」
ヤンキー1にボソッと絡む
「ここ動画の見せ場」
メアリー「いや~、これぐらいしないと再生回数増えないからね~。ホントにすごいよ、やってみて初めて分かるやつだよ。ホンット尊敬しちゃう。わたしも頑張らないと……」
落語が始まる
「エエ?ア、わたしですか?ハイ、わたしは皿屋敷メアリーと言います。」
名刺を受け取る(エアで)
「スカウトマン……?エエ!?ここってものすごい大きなプロダクションじゃないですか!あ、あの茶摘みシスターズの事務所ですよね!わたしあの二人大好きなんです! ……。ハイ。……。ハイ。エエ?こんなどこにでもいそうなごく普通の女の子の私が芸能人になれるんですか? ……。じゃあ、すぐに行きましょう、すぐに!これは即契約案件です!」
事務所
メアリー「初めまして、今日からこの事務所に所属することとなりました皿屋敷メアリーと言います。皆さん、よろしくお願いいたします」
社長 「ユー、芸名は?」
メアリー「芸名ですか?えっと~、まだないです」
社長 「マダナイ?」
メアリー「アア、そうじゃなくて。まだ付けてないです」
社長 「アア、まだ、ないのね。ゴメン、ゴメン、じゃあ私が付けてあげよう」
メアリー「ありがとうございます!」
社長 「今日からユーは久遠玲子だ!」
メアリー「かっこいい~。めっちゃ良いトコのお嬢さんみたいな名前付けられた……。ごきげんよう、みなさん。クオンレイコです。おお~」
記者 「久遠玲子さん」
メアリー「ハイ!」
記者 「久遠さんはスカウトでこの業界に入られたとのことですが、何か憧れというものがあったんでしょうか?」
メアリー「ハイ。わたしは昔からずっと、役者のお仕事に憧れていて、それでこのチャンスを逃してはいけないと思って」
記者 「なるほど、小さい頃のからの夢を叶えられたということですね。では次の質問です。久遠さんにとって、俳優業というのは、どういったものなのでしょうか?」
メアリー「そうですね……。やはり夢を与えるお仕事だと思うんです。例えば、すごく話題になった医療ドラマがあるとするじゃないか。その年の医学部志願者って少し増えるんですよ。多分これって、ドラマの影響だと思うんですね。私自身、教師モノのドラマを観て、俳優のお仕事に興味を持ったので……。ア、すいません、真面目な話ばっかりで」
記者 「イエイエ、とても面白いお話でした。でも、教師モノを観たのに、先生にならずに俳優を目指したんですよね?」
メアリー「ア、本当ですね。今まで気づきませんでした。自分のことになると、こんな感じで……。ある意味で冷めてるのかもしれません」
立ち上がって、ヤンキー1に絡む
「こうゆうのになりたい。紹介してよ、アンタの事務所にさ~。わたしもスカウトされて、清純派で売りたいし、インタブーも受けたい!それで、ちょっと歌とかも歌ったりして、本も出しちゃったりして、それでイケメン俳優と結婚したい~」
「好きなことで生きていく……!」
キメ顔
「合コンなんて絶対ダメよ、イメージが大事なんだから。イヤ、別にメアリーはやっても良いのよ?でもクオンレイコがなんていうか。もう私、清純派だし?そういうのNGっていうか~、NGなんだよね~。番長皿屋敷メアリー改め、清純派女優クオンレイコだもの!」
ヤンキー二人に絡む
「……。ねえ、私の話きいてる?なんでずっと睨みあってるの?ん?ん?ん?ん? ……。ねえ、さっきからずっと思ってたんだけどさ、私のこと見えてる?聞こえてる、私の声?お~い!嘘ついてない?ホントは見えてるのに、見えてない振りしてるんじゃない?」
金八先生にみたいに
「いいですか、みなさん。嘘という字は、口が虚ろと書きます。だから嘘ついても意味はありましぇん!」
元のメアリーに戻って
「分かる?だって中身が無いんですもの!」
クオンレイコになって
「でもいいの。みんなは私のこと気づいてくれなくても、私はみんなの天ぷらそばがいい」
メアリーになって、二人に絡む
「ねえ、上手かった?今の上手かったでしょ?ねえ、やっぱり天かすより天ぷらの方が美味いもんね?ん?ん?ん?ん?」
メアリー「まあ、いいや。分かってくれとは言わないよ。私が全部悪いんだからさ。今にもガードレールにはね、花がいつも置いてあるの。あと、「青春アバヨ」って書かれてる」
ヤンキー二人に絡む
「ホントだと思ったっしょ?エ?言ったじゃん、さっき「番町皿屋敷」って呼ばれてるって。そう「ワレモノハート」よ、「ワレモノハート」。取り扱いにはご注意ください!身投げしますので! ……井戸で。私ね小さい頃からおてんばで、十五で結婚させられたの。……。ごめんね、こんな湿っぽい話、いつの時代の話だよって。わたしの話は置いといて、撮影続けましょう。私が番長だから、君たち私の手下ね」
メアリー 番長皿屋敷
「おい、メロンパン買って来いよ。知ってるだろ、わたしの好きなやつ。そうだよ、メロン入ってる方だよ。……。はあ!?高いだあ!?お前それでも不良か?盗ってくりゃいいんだよ、盗ってくりゃあ。んで、浮いた金を全部募金に突っ込むんだよ。……。はあ!?普段は人様に迷惑かけてんだから、それくらいやって当たり前だろうが!そんなんだからいつまで経っても喧嘩弱いんだよ。ア、お前アレだろ。被災地に古着とか送るタイプだろ?エ?いいか、これだけは言っとくぞ。お前んちに入らない物は、被災地にもいりません!」
ハリウッド風な喋り方
隊員 「隊長!日本から救援物資が届きました!」
隊長 「オオ~、それで?何が届いたんだ?」
隊員 「それが……なんだか分かりません!」
隊長 「なんだか分からない?そんな馬鹿な話があるもんか。ちょっと見せてみろ」
箱を受け取る(エアで)
開ける
「ア~ア~、最高だよ!まさか千羽鶴送りつけてくるとは、とんだハッピー野郎だぜ」
隊員 「えっと、それは一体どういう意味があるんですか?何かの飾りにも見えますが」
隊長 「ア~、その通りだ。やっこさんの国では、お見舞いの意味を込めてコイツを送るんだと」
隊員 「いらねえ~!」
隊長 「アア、君は間違っちゃいない、いたって正常だ、任務に戻ってくれ。私は大使館へ、お礼に行ってくる」
元の皿屋敷に戻って
「国際問題になるぞ。分かったらさっさとメロンパン買ってこい!」
生徒会長「皿屋敷さん、屋上は使用禁止のはずですが」
メアリー「ゲッ、生徒会長……」
生徒会長「今日こそは、逃がしませんよ。生徒会室に来てください!」
腕を掴む
メアリー 引っ張られながら
「生徒会は嫌だあ~!」
元のメアリーに戻って、ヤンキー二人に絡む
「エ?なんで助けてくんないの?番長、捕まっちゃったよ?生徒会に。エ?なに、もしかしてそういうのが好きなの?ソノ……女の子同士の、みたいな。たしかに、ヤンキーと生徒会長の可能性は無限だと思う。けど、なんか、そういうことされるとアレだわ。もうやる気出ないわ。うん。私真面目にヤンキードラマやってんのに、そんな水差されたら、もうどうしたらいいか分かんない」
明るく
「テッテレー、ドッキリでした~。ねえ、びっくりした?びっくりしたでしょ?ねえ、びっくりしたでしょ、ねえ?嘘でもいいから言って、びっくりしたって言って。ウン、びっくりした?そうか~、びっくりしたか~。ドッキリ大成功ということで、次回もショウマストゴーオン!」
影アナ「カット」
ヤンキーたち「ありがとうございました~」
と言いながら同じ方へはけていく
メアリー まだ二人に絡んでいる
「そうなの~、ドッキリだったの~。てか、正直なところ、わたしがユーチューバーってこと忘れてたっしょ?ン?ン?ン?ン?」
二人を見送って
「さてと、投稿しますか」
スマホをいじって動画を投稿する
「ア、もう、コメント来てる。なになに?エ?もっと現実を見ろ。お前がテレビで俳優になんかになれるわけねえだろ。お前のせいでウチの子がユーチューバーになりたいって言いだした?」
「知るかんなも~ん!わたしは人を楽しませるのが仕事なんだよ!その腕だけはあんのよ!幽霊だけど!イヤ、むしろ幽霊だからか。ホラ、こうやっていつも「恨めしや~」ってやってるでしょ。だから腕はあんのよ。……。良いじゃん。こんな世知辛い世の中なんだからさ、一人くらい夢見させる大人がいたって。幽霊だもん。現実なんて見れません。だって私、地に足着いてないから!」
暗転
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