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#2店内に普通の方はいらっしゃいますでしょうか?-マウントをとりたい人-
同僚たち
このちいさな店は3.5人でまかなわれている。東京で事務職をしていたわたし(リーダー)。本屋で働いていたという日野くん。美大卒の遠藤さん(美人)。そしてヘルプ0.5として地元の大学生さん。
今思うとよくこの布陣で最初の濃く忙しい日々を乗り切ったなと思う。みんな若すぎて何が起こっているのかよくわかっていなかったのと、根拠のない20代のプライドが良くも悪くも作用したのかもしれない。
嫌いな男
わたしは日野くんが嫌いであった。本人にも冗談ぽく言える感じで。
頭が良くて仕事ができ、人脈が広かった。中性的な雰囲気があり、面白かったので人気があったと思う。
プライドが高くヒステリックでヒロインでないといられないひと。
そしてなにより、わたしを見下してはばからなかった。
理由のひとつとしては、無知でポンコツなわたしがリーダーだったこともあるだろう。
その時にはなかったが、今彼を表すのに最適な言葉がある。
マウント。マウントをとらずにはいられない人。
ヒステリックなヒロイン
この田舎の小さな街にも文化人ネットワークがあり、彼はその中心にいるらしかった。
排他的なそのネットワークの中であいつはだめだなどとお互いをほめたりけなしたりしている様子がみえて、わたしは近寄らなかった。そういうのは大嫌いだ。
あるとき、「○○ってお笑いの人知ってる?」と聞かれた。仲間内でそのお笑い芸人がマニアックかどうかが話題になって、「はいたにさんは普通だから、あなたが知ってたらメジャーかどうかわかると思って」とのことだった。
は?
すごい。ここまで傲慢になれるんだ。わたしはあっけにとられた。ただ聞いて陰でコソコソ楽しめばいいことなのに、そんなことを面と向かって言っていい人だと思われていることと、彼のあまりの「自分たちは特別」という選民意識に。
わたしはそのお笑いのひとを知っていたが、性格が悪いので知らないふりをした。すきにしてくれ。
あるとき、わたしの親が注文した本が届いたのでカウンターの後ろに置いておいたら勝手に読んで「なんでこんなの注文すんの?」とニヤニヤして本をかざしてきた。
わたしの両親は新聞の広告欄で本を選ぶような人だ。サブカルチャーに興味などないし、おしゃれでもないがいい気分はしない。
「さあ?」とわたしは言いつつ、彼自身がそうされたら烈火のごとく怒るだろうな、と考えていた。
彼は、自分がされたらイヤなことをわたしには平気でする。
ハイハイハイハイ
店頭で携帯を見たり、ひとに何か聞いて帰ってきてはひとりで口をおさえ「えーうそー!どーしよー!」とわざとらしく行ったり来たりしてるので反応してほしいのか?と思って「どうしたの?」と聞くと「はいたにさんには関係ないじゃん」
ハーイハイハイ!
コソコソ話も大好きで、誰かくるとわざとらしくこちらをチラチラ見ながら「はいたにさんがいないところで話そうね」
ハイハイハイ!小学生女子か。
バンドエイドと言ってはいけない、商標登録された固有名詞だから。映画の感想を聞けば「それは人によって違うから。」
そうだねとは決して言わない・・思い出して書いているだけでもダルい・・ダルすぎる。
なので、わたしはもう彼との会話で違うな、ということがあっても訂正するのが面倒なのでそのまま肯定していたし、本心も本当に好きなものも言わなかった。わたしは冷たい人だから。
ヒステリックで、思い通りにならなかったりお客さんに失礼なことを言われたりするとブルブルと震えて軽い過呼吸のようになっている姿もおそろしかった。
白か黒だったらいいのに
もちろん、いいところもあった。多少?
ある時、完全に目がキマっているヤ〇ザ風の人が店頭にあらわれ、手に持った紙の束(渦巻のようなものがグルグル描かれている?)を見せながら、「ねえこういうたくさん人が描かれている絵を描く人いない?俺いろんな芸能事務所に送ってんだ」と言ってきた。
わたしは「そうですねえ、ちょっと聞いたことないですねえ」などとのんびり対応していたのだが、なんかだんだん視界が狭くなって前が見えなくなってきた???
日野君がわたしの前に割り込んで追い払ってくれたのだ。
彼は震えながら「包丁で刺されたりしたらどうすんの?!あたまおかしい人でしょ!早くしゃがみなさいよ!」とめちゃくちゃ怒られた。
かばってくれた感動エピソードかもしれないが、自分ののんびりさにも驚く。
それだけ変なひとが多くて慣れてきてしまっていた。
生理痛で苦しんでいた時に、家にたまたまあったから(彼の家は職場から近かった)と言って鎮痛剤をくれた。ピカピカの箱、さっき貼られたような店のシール。わざわざ休憩時間に買ってきてくれたんだな、と推理した。感謝した。思い出すとなんともいえない気持ちになる。
でもだいきらい
当時私は日本の古いミステリ小説にはまっていて、海野十三(うんのじゅうざ)のある短編を読みたくて購入したかったのだが絶版であり、古本屋でもなかなか見つけられなかった。(現在は再版されて普通に読める、はず)
そのことを遠藤さんにはブツブツ言っていたのだが、日野君には言わなかったりした。狭い店内、日野君はすぐに聞きつけてさぐりをいれてきた。「はいたにさんは最近欲しい本とかないの?」彼は普段そんなことを聞いたりしてこない。
わたしは普通だから。
「とくにないね〜」という私の答えに彼は明らかに不満そうだった。彼はおせっかいで、こういう時にとても役に立つ。彼に相談していたらすぐに手に入ったかもしれない。でも、かかわりたくなかったし、彼と何も分かち合いたくなかった。かかわると疲れてしまう。
プライドが高い彼が私に弱音をはいたのは4年間で数回だけだ。
ある時、何かの話の流れで「俺○○の店落ちてるんだ。」と言われたので、「まあ条件が合わないこともあるでしょ」と流したが、あんなレベルのとこ落ちることあんまりないよ、と言われてわたしは黙った。
俺も、自分がダメだって思うことあるし、と言ってきたこともあって非常に驚いた。驚きすぎて何も言えなかった。自己卑下しない彼から一番遠い言葉のような気がして。
ある時、今で言うカスハラに悩まされていた時はため息をつきながら「俺最近、洗濯物たたむ気力ない」ともいっていた。わたしはそういう時もあるからたたまなくていいと言った。
逃げます!
繊細な人だった。共に働く戦友ではあった。全くの悪人ではない。
遠藤さんは彼のセクシャリティに興味があってよく質問していたみたいだがわたしはどうでもいい。
ひとはよく別の世界線で会ってたとしたら・・なんて考えたりする。
わたしの彼に対する答えはひとつだ。
逃げて、かかわらない。
本当にあったことをベースにしたフィクションです。すべて仮名。あったかもしれないし、なかったかもしれない何十年も前のおはなし。