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実りの秋に

近所に越して来た奇妙な一家。
3世代の6人家族に加えて、若い男性の居候もいる。しかも彼らは、朝から晩まで、今まで聞いたことのない不思議な言葉で、長々と大声で話している。そして彼らの習慣なのか、丁度夕飯を食べ終わる時間になると、わざわざ庭に椅子を出して来て、また大声で喋る。夏場なんかは、此方も窓を開けているので、その大声のお喋りのせいで、テレビの音が聞こえないときもあるのだ。ある日、その家のおじいさんが、
庭に何かの種を蒔いていた。イヌの散歩のときに、そっと中を覗いてみた。かわいい芽がたくさん、地面から顔を出していた。

それから散歩の度に庭を覗くようになった。小さな芽はぐんぐんと大きくなっていった。

ある日、おじいさんが藤棚みたいな棚を作った。小さかった芽は、蔓を伸ばして棚を上り、瞬く間に屋根を覆ってしまった。

暑い夏も過ぎ、秋になってきたが、棚の植物は枯れる気配もなく、益々、葉が繁ってきていた。そんなある日、不思議な花が咲いたのだ。

花は白い大きな花びらを広げ、とても良い香りを放っていた。見た事もない不思議なその花は、翌日には枯れ落ちてしまった。その後、緑のまん丸な実がなった。

実は日毎に大きくなっていく。
棚から成り下がった実は、地面に着きそうなくらいの大きさになっていた。

ある日の早朝、イヌの散歩の帰りに 
いつものように
庭を覗いてみたら、なんと、実は地面に落ちてしまっていた。そして表目には細かいヒビが走っていた。それはまるで、ひよこが孵る寸前の卵のようだった。そしてその実は、
私の目の前で真っ二つに割れて、中から大人の男性がヌッと出て来た。彼はサッと立ち上がると、家に向かって走り出し、ドアを開けて中に入ってしまった。

家の中で、みんなの騒ぐ声が聞こえてきたが、直ぐに静かになった。

一部始終を見ていた私は、なんだか怖くなり、その場から一目散に逃げ帰り、自室に戻って、ベッドに潜り込んで固く目をつぶった。

あの男は一体なんなのか。隣の中国人一家はどうなったのか。そう思いながら、私はいつの間にか眠ってしまっていた。

騒がしい話し声で目が覚めた。
いつも騒がしい話声だ。私はカーテンを開けて、外の様子を見てみたら、なんと、
今朝あの大きな実から生まれた男が、
家族に混じって、楽しそうに喋っている。
みんなが囲んでいるテーブルの上にあるケーキが置いてあり、あの男が吹き消していた。今夜は彼のお誕生日会らしい。
そして、あの男が生まれた実がなっていた
棚には、また白い大きな花が咲いていた。

あれから一年。
また秋がやってきた。
隣りのうちは相変わらず騒がしい。
それもそのはず、あの男が生まれたあと、
実は更になり続け、家族はうちの中に入りきれないくらいの人数になった。そして、
入りきれない人たちは、いつの間にかうちの住人となり、夕飯が終わると、私のうちの庭で、お茶を飲みながら大騒ぎしているのである。

(了)





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