片足の看板ボーイ
夕方、たくさんの人達が僕の前を行き来する。でも、僕に目を留める人は殆どいない。
昔は良くご主人と他のお店をまわったなぁ。
沈む夕日を眺めながら、僕は古書店街が華やかだった頃を思い出していた。
今はただの古ぼけた小さなワゴンだが、こう見えても僕は、在庫管理、本の売買、お金の管理、古書店の仕事ならなんでも熟せるワゴン型ロボットだ。そう言っても僕の担当は、100円コーナーなんだけど。それでも少しは利益を出そうと、僕とご主人は古書店街を駆けずり回り本の仕入れに明け暮れていた毎日だった。
賑やかだった古書店街も、とうとううちだけになっちゃった。あの頃いたワゴン仲間はどうしてるんだろう。
サッと、海から吹くひんやりとした風が、僕の前を通り過ぎていった。そろそろ閉店の時間だ。そう思ったとき、
あ!帽子が飛ばされちゃった!
そう叫び、小学生の女の子が、赤信号の横断歩道に飛び出した。そして交差点から乗用車が左折してきて女の子にぶつかりそうになった。
危ない!
僕は彼女を助けようと、もう錆てキシキシ音がする小さな車輪を、ありったけの力で回して交差点に飛び出し、彼女に思い切り体当たりした。
泣きじゃくる女の子、たくさんの人、そして
僕に乗っかっていた日に焼けた古本たち。それぞれが横断歩道に散らばっていた。
助かったんだ。良かった良かった。
横に倒れた僕は、ぼんやりそれを眺めながら、やがてゆっくり目を閉じた。
昔は賑やかだった古書店街にただ一軒だけ残る古書店。その店の前に100円コーナーと書かれたワゴンが置いてある。どの本も日に焼けているけど、そのラインナップには店の拘りが伺える。そしてその隣には、古いワゴン型ロボット。片方の車輪はもげているものの、小さな多肉植物をワゴンに乗せて、お店の看板ボーイとして、今現在も頑張っている。
この記事を、新聞の地方版の片隅に見つけた私は、直ぐにこの看板ロボットが、あのとき私を助けてくれたロボットのことだと気が付いた。
廃棄されてなかったんだ‥。良かった。
そう思うと、嬉しさと懐かしさとが入り混じった気持ちで胸がいっぱいになった。
(了)