初ライブ
初ライブに選んだハコは、近所の小さなライブハウスだった。文化祭でやったバンドが大好評。調子に乗った俺たちは、単独ライブを計画。そして今日はその本番の日。
めっちゃ入ってる。ヤベエ、緊張してきた。
あ、先生たちも来てる。誰が声かけたんだ?
斉藤さん来てるぞ!相変わらずかわいいな。
そうごちゃごちゃ話していると、
おら、いくぞ!
と、リーダーが声をかけてきた。
暗がりの中でスタンバイ。
高まってくる緊張を抑えようと、俺はマイクスタンドを握りしめて目を瞑る。カチカチカチカチ、背後からカウントを取る音が聞こえてきた。大きく息を吸ってスタンバイ。よおし!あれ?
おい!音が出てないぞ!
騒つく客席。どうやらスピーカーが逝っちゃってるみたいだ。すると突然リーダーが
お客様の中でスピーカーになれる方はいませんか?
と叫んだ。
おい!馬鹿かよ。そんな奴居るわけ
と、俺が言いかけた瞬間
はい!出来ます!
と、2人の男女が手を挙げた。一人は俺らの担任。そしてもう一人は、クラスのアイドル斉藤さんだ。2人はさっとステージに上がると、脇腹にプラグを差し込んだ。
準備はオッケーだ。斉藤さんもオッケーか?
はい、先生。
え?何?この2人。スピーカー人間??
俺は状況が飲み込めず、オタオタしていると、カチカチカチ‥と再びカウントを取る音。そして、
おおー!
2人の身体から爆音が飛び出した。客席から大きなどよめき。
いつもの俺たちの演奏とは全く別物のサウンドが、2人の身体から聴こえてきた。客席は大盛り上がり、演奏してる俺たちもノリノリ。ライブハウスは熱狂の渦と化していた。すると、ライブハウスの壁が曲に合わせて波打ちはじめた。びっくりする俺を見て、スピーカーの2人がニヤリと笑う。他の人はライブに夢中で、全然気がついてないみたいだ。爆音絶叫ライブは佳境に入り、壁はさらに激しく波打つ。
人がスピーカーになり、会場自体が生き物みたいに動く。なんなんだよこのハコ!
押し迫ってくる壁。人でギュウギュウになった会場は凄い熱気だ。俺はクラクラして、その場にぶっ倒れてしまった。
おい!大丈夫か?
リーダーの声で目が覚めた。
ここは?ライブは?
何言ってんだよ。ライブはこれからだぞ。
お前、ステージで何やってたんだよ。
どうも俺は、ステージの上で一人で倒れていたらしい。
ソファの上に寝かされた俺は、ぼんやりとライブのことを思い出しながら、
あれは、ハコが見せてくれた夢だったのかなぁ。
そう呟くと、
もしかして、人間がスピーカーになっちゃう夢?
そう言って、斉藤さんがTシャツの裾をチラリと捲る。
彼女の真っ白な脇腹に、プラグを差し込む穴が
開いていた。
(了)