【読書記録】「残穢」小野不由美著
ようやく読んだホラーの傑作
久々に読書記録をつける。
このところ有休消化の影響もあり映画鑑賞も読書もここ数年で稀に見るほど時間を割いていたけれど、とにかくインプットする方に引っ張られて感想を認める方に目を向けられないでいた。
しかし、ちょっと今回に関しては書いておかねばならないエピソードがあるためしたためておこうと思う。
『残穢』小野不由美著
思い出したことがある
今回は読書の記録というよりは本作にまつわる思い出の話だ。
これは大学時代の話である、
その頃、私のいたグループではゼミ終わりに誰かの家で映画を観ながら酒を飲むといういかにも大学生らしい習慣があった。
映画を観る、といっても映画に集中している人間は半分くらいで、あとはゲームをしたり酒に夢中になったり間に合いそうもない課題をこなしていたりとてんでバラバラな行動をしていた。
ある日、ホラー好きな友人の持ち込みで本作の実写映画を観ることになった。
彼女も原作は読んだことがあるが映画は見たことがなく、せっかくだからみんなで観たいとのことだった。
この時の私は「別のことをしていた側」であり、作品の詳しい内容は一切覚えていない。
しかしひとつだけ覚えていることがある。
上映開始から30分ほど経った頃だろうか、映画も原作も観たことのない友人ひとりが「ねえ、今赤ちゃんの泣き声が聴こえなかった?」と言い出したのだ。
ちらと様子を伺っても、赤ちゃんの声が聞こえるようなシーンではない。
巻き戻して聴き直してみても、やはり赤ちゃんの声は聴こえなかった。
「気のせいじゃない?」
初見組はそう言って早く続きを観たがったが、映画を持ち込んだ友人だけが「もう一回だけ見直そう」と言って聞かなかった。
何度も何度も見返し、それでもやっぱり一番最初に赤ちゃんの声を聴いた子以外はそれを聞き取ることができずに終わった。
そんな出来事を思い出しながら本書を読み──映画を持ち込んだ友人の気持ちがよくわかった。
この作品では、「赤ちゃんの泣き声」は重大な意味を持つ。
……あの時、映画を持ち込んだ友人はどんな気持ちだっただろうか。
一部の人に聞こえ、その人以外には聞こえない声。
そして結局その声があったのかなかったのかわからないまま終わる。
作中で扱われた「穢れ」の感染を想起させて、さぞ恐ろしかったのではないか。
本書を通読した今。
あれが映画の演出であり、一際耳のいい友人だけがそれを聞き取ることができたのだ、という顛末であることを、私は切に願っている。
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