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根明とは一生平行線だと思った話


息子は週に一度、サッカーを習いに行く。

現役を引退したJリーガーや、現役のフットサル選手なんかがコーチをしてくれるそのスクールは、非常に人気が高い。

サッカーオタクの夫は、お腹の子が男の子だとわかったときから、ここに通わせたいなぁと目を輝かせていたものだ。

そうして念願叶って、息子は一年前からそこへ通っているのだが、最近やたらと行き渋る。
真夏の暑さのせいかもしれないし、だんだんと彼の世界が広がってサッカーに魅力を感じなくなったのかもしれない。

息子は、サッカーが特別好きというわけでもなさそうだし、私としては「泣くくらいならやらなくていいんじゃん…?」と思うのだが、夫はなんだかんだと息子を説得して、会社を早退してまでサッカースクールへ連れて行くのだ。

息子も息子で、私と話すときはやめたいだの、やりたくないだの涙ながらに話す割に、夫にはそうはっきりとは言わない。

我が家の勢力図としては、私が鬼で夫は仏だ。

息子も「ママは怒ると怖い」「パパは友達」と幼稚園の先生に話していたらしい。
それなのに、だ。

パパはサッカーをやってる自分が好きなのだともしかしたら思っているのか、はたまた私は息子の行き渋りに耳を貸しすぎるのか、真相は息子にしかわからない。

ただ、行き渋る割に帰ってくれば晴れやかな顔の息子を見るたびに、自分の対応に自信を失くしていた。

息子が寝てから、夫にそれを話してみたのだ。

泣いてまでやらせる必要があるのかわからない。でも行けば楽しそうに帰ってくるし、ただ行くのが面倒なのか、本当にやりたくないのか、判断が難しい、と。

すると夫は何食わぬ顔で言った。

「行かない期間があったから、ちょっと緊張したりしてるんじゃない?また慣れたら大丈夫でしょ」

行かない期間、というのは、我が家の夏休みと、スクールのお盆休みの都合で、二週連続練習がなかったときのことだ。

確かに、一理あるかもしれない。けれどそう決めてかかるのはちょっと危なくない?なんて、私は不安になるのだが、夫は特に気にしていない様子。

そして翌朝、朝ごはんの支度をする私の耳に、夫が息子と話す声だけが聞こえてきた。

「休むとわかんなくなっちゃうから、なるべく練習は行った方がいいよ。やりたくないなって思う日でも、練習したら忘れるから」

ええええ????

なんだか、聞いている私の方が罰が悪かった。

私自身が、そんなことちっとも思わないからだ。

休んだらわからなくなるとか、周りに置いていかれるとか、頭ではわかっていても、やりたくない日って、ある。
そんな日は無駄な抵抗せず休んじゃうのが私のモットーみたいなもので、それが良いことだとは思っていないけれど、悪いことだとも正直思っていなかった。

しかし夫は、やりたくない日でもどうにかやってるうちに、きっと気分が戻るのだろう。
まったく自分には想像もつかない思考だ。

そしてなにより、息子のやりたくないという気持ちを、一過性のものだと決めてかかるのが、やっぱり私は怖かった。

もうこれは自分の経験則でしかなく、夫もまた自分の経験則でそう考えているのだろうから、いくら話し合ったところで、当事者である息子以外にはわかりようもないことなのだが…。

ただ、当の本人はといえば、行き渋りながらも試合で点を決めれば翌朝まで嬉しそうにその話をしているし、練習でコーチに褒められれば心底誇らしげに報告してくるのだ。

だからたぶん、息子の気持ちは夫の言う通りなのだろう。

久しぶりの練習に緊張していたし、どんどん練習がレベルアップしてるのも事実だし、そういう色々が重なって、なんかいやだー!となっただけなのかもしれない。

私が真剣に取り合うほど、息子はどんどんその嫌な気持ちばかりを自覚していって、とんでもない悪循環に陥っていたのかもしれない。

けれど私は、きっとこれからも同じことをしてしまうと思う。だって怖いから。

自分が両親に感じた不信感を、息子に感じさせたくない。子どもの言うことだと耳を貸してもらえないことが、どれほど寂しいことか私は知っている。

だからやっぱり、息子が泣くならその理由を聞きたいと思うし、やめたいならやめたらいいと思ってしまうのだ。それが続かなくたって、また新しいことに挑戦するなら、別に無駄ではないんじゃない、と思ってしまうのだ。

しかし夫は違う。

一度やると決めたなら、ちゃんとやろう。
やめたいなら、何か目標を達成してから考えよう。

そう真っ直ぐに言い放つのが、私の夫。

どうしてこれとこれが結婚したのか、まったく不可解な話だ。

後日、スクールのコーチがクラスのみんなに話していた言葉が、決定的だった。

「やりたくないなぁとか疲れてるなぁとか、そんな日もあると思う。でも、そこで頑張れるかが大事なんだ。そこで頑張らなきゃ、サッカー上手くなれないよ」

………なるほど。これがいわゆるスポ根。

言ってることはわかるし、それが理想なのもわかる。大体のスポーツ漫画ってそんな感じの構成だし。

けれど、夫も、スクールのコーチも、それをフィクションじゃなく地でいくわけだ。じゃなきゃ子どもたちにそんなこと言えるわけないのだから。

ああ、根本が違うんだなと思った。

根が明るい人がスポーツを好むのか、スポーツをやり込むと根が明るくなるのか。

自分にはまったくわからないけれど、それを聞いて「オレ、練習がんばる!」と言ってきた息子は、たぶんきっとそっち側だ。

この子は、きっと大丈夫なのだろう。

脈々と受け継がれた夫の根明遺伝子に感謝して、私はまた当分の間、息子をスクールへ送迎することになりそうだ。

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