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🍎偏差値45の教員。先生になる


去年の流行の洋服を捨てるような感覚で、死にたいと思うようになってきた。4月の下旬。

栄養ドリンクもレッドブルもモンスターも、疲労で熱を帯びている体の前では無力に変わる。

部活が終わるのが18時半。そこから、教材研究が始まる。50分1回の教材研究にかかる時間は3時間ほど。1日が終われば次の教材研究をしないといけない。授業は待ってくれないのだ。

毎日ギリギリな生活を送っているせいか、生徒とする関係ない話も笑えなくなってきた。

音読練習をしないと漢字が読めない、この前も生徒の徒の字を従と間違えて注意をされた。
段落に数字を書かないと全部で何段落かわからない。
授業に出てくる単語1つ1つの意味を調べないと、理解が追いつけない。

頭が悪いということは、つまり、こういうことを言うのだろう。

部活から職員室に戻ると、ジャージのままパソコンを開く。生徒の振り返り用紙にチェックする。明日の授業プリントを作る。これで50分持つのかわからない。だから、何度も何度も作って印刷して字を書いてを繰り返す。

終わりが見えない。終わりが来ない。

21時過ぎになるとお腹が空いて帰りたくなる。我慢の限界がきて、教科書とプリントをカバンに入れて帰宅する。
それでも、まだ職員室に何人か先生がいる。

いつも1番学校に長くいるのは、4月当初私に「すぐ辞めそう。」と言った、部活を一緒に持ちたくないと言った松島先生だ。松島先生の机はいつも汚い。教材が雪崩をおこし、足元にあるカップラーメンの山を隠している。

先生の誰かが「お先に失礼します。」と言うと睨みつけてはわざとらしくため息をつく。松島先生は知らないのか。あの先生も2歳と5歳の子供を育てている親であることを。私は松島先生に嫌悪感を抱いてる。嫌いだ。すごく嫌いだ。

たまたまその日は、青井先生と一緒のタイミングで職員室を出た。墨汁を溢したような真っ暗の学校に蛙の声だけが鳴り響く。

「青井先生、松島先生と同じ学年ですよね。私は、マジで松島先生無理なんですけど。何で松島先生は家に帰らないんですか。」
「あー、松島先生ね。松島先生さ、離婚して子供も奥さんが育てているからさ、家に帰っても寂しいんだよ。」
「わかる気がします。」
「松島先生は、教師という職業に誇りを誰よりも持ってるからさ。学校で暮らしすぎて奥さんから逃げられたんだよ。」
「家庭より学校が大事なんですか。」
「うん。そういう人だよ。情熱を持って教師をしてる。全学年の生徒のトラブルを把握してるし、部活も強くしたいみたいだよ。あとさ、私も去年の4月の最初、松島先生に普通に怒られたよ。」
「青井先生がですか。」
「職員室は雑談をする場所じゃない。教師は、師
がつくぐらい何だから、生徒の手本にならないといけないだろ。みたいな感じでさ。」
「え、まじっすか。」
「うん。教師という職業が神聖なものだと思ってるんだよ。でも、松島先生の時代は教師になるのが大変だったから、わかるけどね。」
「そうなんですね。」
何となくで教員になった私には理解ができない。だから相入れることは無いだろうが、きっと良い先生だと思った。
「それよりさ、採用試験の勉強してるの?7月だよね。」
「いや、してないです。」
「明日勉強会があるから一緒に行こう。」
それじゃ、と言って青井先生は帰宅した。

そもそも願書すら貰ってない採用試験のことなど、全く考えていなかった。採用試験、大学の時に受けたが、試験中に爆睡して監督の人に起こされた思い出しかない。とりあえず、今の状況から打破できるかもしれない。勉強会には参加しようと思った。

車を運転しながら、無駄に笑えてきて大声で笑い、死にテェな、と叫んだ。カバンの教科書が憎たらしい。



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