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🍎偏差値45の教員。先生になる
ポジティブ化け物の巣窟じゃねーか、と思った3日目の職員会議では予定通り生徒に関する連絡会が行われた。
担任の先生が新しくもつ自分の担当クラスの生徒の情報を伝えていく。1年生に関しては情報がないので、小学校の先生からの情報を共有していくみたいだ。
顔も名前も知らない生徒の情報を言われても頭には入らない。1回飲んだだけでライン交換をした男達のアイコンを眺めているようなものだろう。
「はい、では1年1組赤岩蘭からいきます。小学校4年生から登校しぶりの不登校。低学力で準要保護で学年費が未納になりがちです。友達と過去に金銭トラブルがありました。」
知らない中学生の情報が皮膚に突き刺さり、神経を麻痺させていく感じがする。自然と背筋が伸び、情報が映し出されているモニターから顔を背けることができなくなっていた。
続くのは、不登校、不登校、不登校、低学力、低学力、ネグレクト、DV、そして不登校に準要保護。
聞いたことがない言葉もあり、生徒の名前が呼び上げられるたびにガツンと殴られていく感覚を覚えた。
会議終わりの昼休みは、青井先生に誘われてファミレスでランチをした。
「何か、青井さん。昨日、生徒のことを知れば楽しくなると言ったじゃないですか。会議、全然楽しくなかったですよ。むしろ不安になりました。」
率直な感想を述べて、水を一気飲みした。青井先生は、日替わりランチのメニューを見ながら、
「えー。そう?」
と、適当な相槌をうち日替わりランチメニューを頼んだ。私も慌てて同じものを頼んだ。
「でもさ、よく考えてよ。ファミレスに居る人。」
そう言ってお客さんを1人ずつ指さして適当に
「離婚、離婚、借金、無職、子供がグレてる。」
と、言い出した。
「いや、でもそれ、憶測じゃないですか。」
「じゃあ、職員室で言おうか。端から順番に、病休、病休、パワハラ、離婚、離婚、子供が不登校、不妊治療、トラブルメーカー。そして、就活上手くいかなくて教員になった人。」
と言った青井先生と目が合った。眼光が鋭く押し倒されそうになる。
「みんなそれぞれ抱えてるんだよ。だから、情報だけ聞いて会ってもいない生徒の印象を決めるのは辞めよ。実際に会うとまた変わるから。でも、どんな生徒か興味が湧いてきたでしょ。」
と、言った青井先生のまえに日替わりメニューのチキンステーキの皿が置かれた。
何も言わなかったが、青井先生も何か抱えているのだろうか。それでも、青井先生の言葉の中に教師としての生き様の片鱗を見た気がする。
いただきます。と言って青井先生がチキンステーキにナイフを差し込みガブリと食らいつく。細い体のどこに入るのか不思議だった。
会議中に
「この子はそれでも去年よりはかなり成長したんですよ!」
と、力説していた先生達の顔を思い浮かべた。どの先生達も偽りのない笑顔でいた。口に入れたチキンステーキの味がしょっぱくて脳みそがびっくりして起き出した。
青井先生はすでに食べ終わり、デザートも頼もうと言ってきた。