🍎偏差値45の教員。先生になる　

「それにしてもさ、もう3人とも今年から社会人だって？大人になったよね。うちのせがれも今年で18でしょ？本当に、子供が大きくなるのはさ、あっという間だよ。」と、店主のたーくんが、バーごしに話しかけてくる。

「いやいや、そんなことないですよ。ねぇ。」と言いながら美玲が髪の毛をポニーテールに結ぶ。
「いやー、でもさ、はるかが中学校の先生になったのは意外だったわ。」と、梨花が枝豆を食べながら言う。
「えー、はるかちゃん学校の先生になったんだ。担任とかあるの？」と、たーくんが話に参加する。

「2年の副担任。うーん。でも、まぁ、とりあえず1年間で辞めようと思う。やっぱ、教員の世界は、普通じゃないと思うし、私絶対向いてないし。普通に無理だから。」
「うわぁ。やっぱり学校の先生って大変だよね。だって、うちらが中学のときさ、まともな先生1人もいなかったじゃん。」梨花がお手拭きを半分に折りコップの下に敷いた。昔からのくせだ。何年経っても変わっていないな。
「いや、わかる、それ。うちらの学校まじで教師の墓場だったよね。」美玲が唐揚げにレモンを搾り出した。飲食店でのバイトが癖になり、必ずレモンを絞るときは相手にかからないように片手で相手側に壁を作る。
「まぁな。俺も昔PTAしていたからわかるよ。学校によく行ったり、先生達とよく話したりする機会があったんだけど、先生達より俺の方に生徒が集まってきてくれるの。」
その光景が目に浮かぶわー、と、ゲラゲラ2人が笑う。たーくんはそのまま他のお客さんの注文を取りに行ってしまった。

「まぁ、先生達ってずっと学校から離れたことないじゃん。だからさ、社会常識が無い人が多いんだよ。あっ、でも、はるかは違うよ。バイトもしてたし、うちらの中では優秀だったもんね。」と、美玲がフォローする。そのフォローが何となく胸に刺さる。

わかる。すごくわかる。みんなが言いたいことがわかる。だって、私も教員「なんか」になりたくない。と、ずっと思っている。それでも、教員「なんか」になれていない自分もいる。ビールをまた、ごくごくと飲み干す。

「いや、本当にそれな。うちらの中学は終わっていたよね。でもさ、教員になって気づいたんだけど、先生と言うとみんな急に語り出すのはマジで何なん。近所のおばさんもそうなんだよ。急に話し出すの。みんな急に教育者ぶって上から教員を評価し出すのは何なんだろうね。生徒として、保護者として、しか関わったことが無いじゃん。」
と、言って口に唐揚げを放り込む。

「まぁまぁ、確かにね。それだけ、学校の先生にみんなお世話になっているってことだよ。」と、梨花が付け加える。いや、梨花もさっき笑っていたよね。でも、私もアンチ教員だったはずだ。もう、自分のことがわからなくなってきた。また、ビールを飲む。

「で、何部もつとかあるの？」
「うん、色々あって剣道部になった。今日も行ってきたよ。」
えっ、土曜日なのに、大変〜と、お決まりのセリフを言われた。
美玲は銀行の窓口に、梨花は携帯ショップ店に就職した。2人ともまだ、研修中のようだ。
「ねぇ、聞いてよ。同期でチーム組んでるんだけどさ、1人すごくイケメンの男の子がいるの。」と、研修のチームで撮った写真を見せてくれた。羨ましい。まだ、銀行に出てお客さんの接客はしたことが無いようだ。羨ましい。
「えー、本当だ。イケメンじゃん。何大なの？」
「早稲田とか言っていたよ。この人は総合職だから、1ヶ月したら別々になるけどね。」
「そうなんだ。じゃあ、今のうちに仲良くしときな。」

と、言ってまた唐揚げを食べた。明後日は、始業式と入学式だ。保護者にも初めて会う。生徒の前での振る舞い方も話し方ももちろん教わっていない。あと、唐揚げにレモンは合わないだろ。くそったれ。