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🍎偏差値45の教員。先生になる


食べ終えた後、追加でパフェを2人分頼んだ。窓の外に流れる夜の静けさと相対して、私たちの会話は熱がこもっていた。

「採用試験って、一次二次三次ってありますよね。で、7月の一次は学科テストと集団面接でしたよね。」
「そうだね。」と青井先生はコーヒーを頼むか悩んでいる。
「まずは、一次じゃないですか。学科は教材研究をメインに、あとは問題集解くとして、面接とかって、何をどう勉強すれば良いんですかね。」
「うん、私もう何年も採用試験受け続けて気づいたの。採用試験ってようは受験と同じ。」
「どういうことですか。」
「面接とかも、人柄を知るとか言ってるけど、ほんの数分で人柄はわからないでしょ。だから、うまく答えればいいの。」
「その、うまくがわからないんですけど。」
「採用試験は自分を捨てろ、っていうことよ。セリフを覚えればいいの。個人的に抱いてる情熱や知性を発揮する場所じゃないの。通り一遍の答えをいう場所なの。」
「その、通り一遍の答えがわからないんです。」
「だからさ、採用試験に受かった人の振る舞いを真似すればいいんだよ。時間でいったら、大学生には負けるわけ。でも、採用試験に必要な情報量としてはうちらが勝つでしょ。」
「受かった人の面接の資料をもらえばいいんですね。」
「ま、道徳的に言ったら問題ありだと思うけどね。」
そう言って青井先生は、バナナを口に入れた。きっと青井先生は、自分の考えを捨てられなくて試験に受からず葛藤している。その点、今の私には教員としての意志がゼロだ。いくらでも詰め込むことができる。明日、上谷先生に聞いてみようと思った。  
「志望動機だけはさ、面接で自己PRをしろって言われたときに使えるように自分なりに考えて覚えていくの。深掘りされるかもだから。」
と言って、パフェを食べ終わり青井先生はコーヒーを頼んだ。私も急いで溶けたバニラアイスを流し込む。
「志望動機ができたら、教頭や校長に見せるんだよ。」
と、青井先生が頼んだコーヒーを飲みながら教えてくれた。私は、グラスの下に溜まったチョコソースとコーンフレークを細いスプーンでほじくった。
「青井さんって本当に優しいですよね。何でも教えてくれて。私の理想とする先生、青井先生だと思います。」と打ち明けた。
青井先生は、ニカニカ笑いながら、「受かってない人間を理想にしちゃだめだよ。」と言った。

会計は青井先生が払ってくれた。私は、ありがとうございます、と言って外の自販機で飲み物だけでもと買おうとしたら青井先生に止められた。
「明日も7時には学校にいないとなんだから。帰ろ。」と言って、車に乗って去っていった。

時計を見ると22時半になっていた。帰ってお風呂入って髪乾かして、寝るのが0時過ぎる。明日も6時に起きるようだ。

1日に何往復も4階にある教室まで階段で上り下りをしているから足が限界になっていた。
家に帰ると採用試験の要綱だけ目を通して眠りについた。


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