🍎偏差値45の教員。先生になる

青井先生に誘われた教員採用試験の学習会に参加した。今日は部活が無いので教材研究をしようと思ったが、転職する時間がない今は採用試験も気になる。

市で主催している学習会には、今年市内で働いていてる臨時採用の先生達が集まった。
採用試験に受かっていない人を先生と呼ぶことに
疑問を抱くが、私も建前では先生ということになっている。教員という職業は公務員のくせに信頼性に欠ける。


青井先生が部屋に入ると、学習会の担当者である羽崎先生が
「青井先生、今年もか。今年こそはな。」と、声をかけた。青井先生は苦笑いをしていた。

席に着くと、はじめに採用試験の志願書が配られた。働いていると取りに行く時間がないから、用意をしてくれたそうだ。

志願書を見ると、志望動機の欄がある。今日の目標は、志望動機の完成だ。まずは個別で志望動機を簡単に書くことになった。時間は経つが、埋まらない。周りを見るとみんな熱心に手を動かして書いていた。

その後グループにわかれ、自己紹介と志望動機の確認作業をする。

何だ。ここでも同じか。高い志を持っている人が偉いんだ。真っ白な志望動機を持つ私には、どこにいっても価値がない。真っ白な伽藍堂。

グループの自己紹介が始まる。私が1番最年少で、元消防士、元塾講師、元警察官の先生達も何人かいた。３０代後半の人もいる。
1度も社会に出ていないから教員は世間知らずである、という言葉は嘘の一人歩きであった。

みんなそれぞれ立派な志望動機を読み上げる。恩師に憧れて、未来を創造する生徒の力になりたい。

私の番になる。
「就職活動に失敗して、教員になりました。志望動機が見つかりません。今年は転職活動ができないので採用試験を受けます。」

知っている。夢のない人間に向けられる、目標を持っている人の静かな怒り。ここにくるなと言わんばかりの態度。ここにも居場所は無いのか。

青井先生が口を開く。
「じゃあ、何で横山先生は毎日毎日２１時過ぎまで残って教材研究をしてるの？先生になりたくないなら、悪い授業しても良いでしょ。」
「私のせいで、生徒を犠牲にしたくないんです。私のせいで学力が下がったり、生徒のできることができなくなるのは嫌なんです。」
「そうだよね。横山先生は理想の先生になることを諦めてないよね。」
青井先生の言葉にハッとする。隣に座っている元警察官の香川先生も話し出す。
「横山先生はさ、こういうこと言ったらアレだけど。若いからさ。まだ自分が見つかってないだけでしょ。大勢の生徒と接して、大勢の生徒に見られることで自然と自分の輪郭が浮き上がるよ。」
転職した俺がいうのも説得力ないけど、と付け足した。

そうかも知れない。何となくで生きてきたせいで自分というものがわからない。向いてる仕事もわからない。ただ、今わかったこと。

「私、志望動機は無いですが、良い先生にはなりたいです。先生であるうちは、生徒を導けるような、生徒の目標や夢を実現できるような先生になりたいです。」
そうだ。だからだ。
褒められることは無いのに、続ける教材研究。クレームがきても辞めない、言葉遣いや礼儀の指導。疲労困憊で夜に涙が出ても、必ず朝早く起き上がり教壇に立ち続ける。

志望動機は何でも良いけど、先生としての態度は何でもにしたくない。

そう思ったとき、少しだけ、ようやく自分の顔の輪郭がわかった気がする。