【連載小説】百日草 ③
留美の父親 武夫は事務室にいた。
職員となにやら話している様子。武夫の表情は 険しかった。
こうして 母親 明子を失った夏、山田 武夫 一家は 留美と理恵と三人の父子家庭となった。
明子の葬儀が終わって数日後の夜 蛍光灯の明かりのした、和ダンスの上に置かれた明子の遺影をみながら 武夫は幼い子どもたちに言った。
「お母ちゃんはずっとここから留美と理恵のことを見ているよ。だから悪いことは絶対にしてはいけないよ。」
留美は、
「父ちゃん、母ちゃんは生きてるの?」
と、素朴な質問をした。
武夫はうなずいて、
「そう。お母ちゃんは天国からずっと見ているよ。」
留美は何故か安心した。
きっと理恵もそうだったに違いない。
まだ幼い留美と理恵には死というものの本当の意味があまりわかっていないようだ。
母の死は医療ミスによるものだったと知るよしもない 子どもたちは安心して眠りについた。
そして後、ふたりが高学年になった頃 叔母 春子の口から知らされることになる。
誕生日をむかえたばかりの真夏のその日、山田 明子は 市内の個人病院で子宮筋腫の手術を受けた。
手術は無事成功したようだ。
しかし なぜ 明子は死んでしまったのか。
今の時代はもちろん 昭和の時代でも子宮筋腫の手術で亡くなる人は少ないらしい。
盲腸の手術と同じくらい比較的 成功確率の高い手術だそうだ。
明子の場合 全身麻酔がかえらず、意識不明のまま 帰らぬ人となってしまったのだ。
それは麻酔のボンベの操作ミスだった。しかも 若い看護婦の・・・。