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「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊(2006)ー切ない逢瀬。共感覚ー


今回読んだ本

「ナイチンゲールの沈黙」海堂尊(2006)

本書のあらすじ

 東城大学医学部。不定愁訴外来の万年講師田口公平は、半年前のバチスタスキャンダルで活躍するも変わらず医局の雑事を積まれ辟易しながらも業務に邁進している。
 小児科の浜田小夜からこどもたちのメンタルサポートを受け、小児科不定愁訴外来なるものを始める。その最中、患者の父親が殺される事件が発生する。警察庁からやってきた白鳥の天敵である加納。そして病院内部の聴取を任されやってきた白鳥。
 バチスタスキャンダル以来のタッグを田口と白鳥は組み、事件に対して田口・白鳥、加納・玉村が真相を突き止めるべく奔走する。そこに小児科の看護師、入院中の女性歌手、手術を控えた子供の患者たちとそれぞれの思惑が錯綜していく。

見どころ

 医療×ミステリー作品の「チーム・バチスタの栄光」の続編でもある本作は、舞台は架空の東城大学医学部から変わらないものの前回の外科部門から小児科部門に焦点を変え、芯の強いキャラクターたちの掛け合いが前作から引き続き面白い。
 医療ものというのは古今東西、和洋と様々あるが全くの素人でもこういこうとを医療業界ではしているのだ。こういうところに苦労・苦難があるのだということを感じ取れるのも本作の良さの一つであるといえる。
 前作から引き続き白鳥という厚労省からやってきた頭はキレるが変人と冴えないのだが思慮深さとここぞの閃きをもつ田口というこのペアがとてもよい。医療ものの現代風ワトソンとホームズのようなペアである。

感想

 過去に映画・ドラマ化され、同世界の過去にあたる「ブラックペアン」シリーズも最近ドラマ化され注目されている。桜宮サーガと呼ばれる東城大学医学部を舞台とした医療ミステリーは、とにかく登場人物の粒立ちがとても良いと思う。
 登場人物の一人一人が派手というわけではなくそこにいるかのような奥深さを感じさせるものがある。展開の良さというのか文体というのか各登場人物の心情を地の文、セリフに巧みに埋め込んでいるのが、その理由であろう。
 正直にいうとこれまで医療ものはあまり触れてこなかった。筆者が健康体なのか出不精なだけなのかわからないが、これまで大きな病気などもなく年に一二回病院に訪れるか否かなため、病院というものや医療従事者との接点がかなり少ないというのが理由としての一つである。
 ただ、本作を含めブラックペアンシリーズも読んだがどれも面白い。映像的なのかドラマチックに描かれているためすっと入ってきやすいと感じる。
 本書には手術を控える子供の持つ恐怖や心配、それを献身的に支える看護師、そしてその背景にある事件の核心がとても切なくやるせないものがある。そこをどう消化していくかというのは、読んでみて楽しんでほしいということだが、ちょうどよい収まり方をするのが良い。

終わりに

 面白い本に出合うと嬉しい。そしてそれがシリーズものであると尚嬉しい。本作含む桜宮サーガのシリーズは20冊以上もあり、それぞれで主人公が異なるが、あの作品のあの人が、こっちではこうなんだという感じで同じ舞台であるため一つの大きな群像劇として楽しめるのも本作シリーズの良いところと感じる。
 映画やドラマを見て楽しめた人にも本書はオススメできる作品であるといえる。

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