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「令和元年の人生ゲーム」―生存戦略しましょうか―
今回読んだ本
麻布競馬場(2024) 令和元年の人生ゲーム
あなたは、人生ゲームのコマを正しく進めていますか?他人からどう見えるかに意識を集中し、ステータスに磨きをかけるがごとく成長し、前進していっていますか?
就活、恋愛、出世、結婚、育児、社外活動。人生のスナップショットに映えを加えてスケジュール表もびっしり。仕事はほどほど。ワークライフバランスという信条を掲げて、アフター5(死語でしょ?)に色めきだってSNSにはたくさんのサムズアップ。
正しいことをするのは、自分の大事な大切な内側を守ってくれるATフィールドなんだ。
流行りを押さえておくのはマストだし、いくつものタイムラインでいくつものフェイスを持っておくのが、今風ということ。ほんとのことはSNSの裏垢で吐露し、世代の違う大人には、LLMの予測生成のように適切な文章をはじき出してあげるのだ。それでいつだって十分なのだ。
本書は、平成から令和をまたいで、就活、新卒入社、第二新卒、入社5年目ごろとまさにZ世代の上から下までをリアルに描いた作品である。
紋切り型の金太郎あめのように、どこをどう切っても同じ表情を見せる今の若者というのは、世代の異なる大人たちからの印象でしかない。
SNSが隆盛し、いくつものアカウントを使い分け、意識の高さも場において使い分け、顔色や空気を読みすぎる能力に特化しているZ世代もほかの世代同様に、世代特有のしんどさ・辛さを保有している。
沼田という斜に構えた態度でZ世代の周りにいる人間を冷やかに見る人物を通して、連作短編の中でZ世代と「人生ゲームを降りた」沼田との対比で歪でそれでいてZ世代なら共感できる特徴を描き出している。
今の若者は、正しそうな回答をして本音を言わず、気づかぬうちに消えていく。そんな風にほかの世代の人からは見えているのかもしれない。
短尺動画を長時間見て、タイパを意識しすぎて答えばかりを求めるのは、効率性を重んじすぎた代償なのか。それとも時代の産物なのか。
答えを求めて、右往左往するのはZ世代特有ではなく、どの世代も若かりしころは、そういうものなのだろう。
年を取り、経験を積んでいけば、そういったある種の呪縛から解き放たれるのかもしれない。
本書を読んで、ある種のさみしさを漂わせている世代の苦しみに寄り添ってあげたいなと感じた。お節介と感じられるだろうが、タイパ・コスパを度外視したコミュニケーションにこそ価値というものが見出せるのではないだろうか。
おわりに
○○世代と区切りをつけて分断することが、意識的格差を生むのではないかと思ってしまったりする。大学生活の半分以上をコロナ禍という特殊状況で過ごし、SNSで他者比較が常になった世の中で自分のポジションが今どこにあるかを鋭敏に察知しないといけないというのは、なんだかしんどい時代だなと感じる。一過性といえばそうなのかもしれないが、若いころの感性は遅くまでこびりついて剥がれないものだと思う。
Z世代は別の生き物のようにニュースやビジネス書で描かれ、解説書なんてものが巷にはよくあるが、彼・彼女らとそれ以外の世代に大差なんてあるわけでもない。
とはいえ、共感はできなくとも理解することは大切だと感じるのでZ世代以外の世代のかたに本書を一読するのをおすすめする。
読んでみな、飛ぶぞ。