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映画『憐れみの3章』感想

予告編
 ↓

R-15+指定


世にも奇妙な物語


 今年、『哀れなるものたち』でオスカーを獲得したヨルゴス・ランティモス監督の最新作。予告編の時点では一体どんなストーリーなのかが判然としませんでしたが、前作以上に監督らしさというか独特の奇妙さが窺い知れる映像に、鑑賞前からソワソワさせられていました。そして案の定、高純度の気色悪さと心地良さ笑。上映時間(2時間45分)からすればハードなはずなのに、鑑賞直後の時点で既にもう一度観に行きたくなっている自分がいました。めちゃくちゃ上質で濃厚な “世にも奇妙な物語” です。



 数年前、同監督作の『女王陛下のお気に入り』の感想文の中で「魚眼レンズみたいな~」と述べた覚えがありますが、それはアナモルフィックレンズのこと(調べてみたものの専門用語が多く、分かりやすい言葉に落とし込むことができないのですが、それこそ魚眼レンズみたいに一部が歪んで映るような特殊なレンズのことみたいです)。この特有の映像美もまた、監督らしさ、及び撮影のロビー・ライアンの手腕、延いては本作の魅力。些細な変哲でしかなく、明確には指摘できない違和感が、相も変わらずヨルゴス・ランティモス作品との相性が好い。

 どんな奇想天外が待ち受けているのかという “期待感” とでも言うのでしょうか。もちろん、これまでも好きであり続けた観客は大勢いらっしゃることでしょうけれど、『哀れなるものたち』のオスカー獲得によって、より大きくなった観客・作り手双方の信頼が、本作『憐れみの3章』という飛びっきりの作品に繋がったのかもしれません。
 言い訳じみている気もしますが、これを上手く感想文にまとめられるか心配です。



 予告編だけではストーリーを汲み取れなかったのは必然。タイトルに「3章」とあるものだから、大きな物語を3ブロックに分けて描き出しているとばかり思い込んでいました。しかし実際は、異なる物語の三本立て(正確には “繋がっていないとも言い切れない” のかな……?細かくは後述)で成り立っている本作。邦題でこそ「3章」と明記されているものの、原題にはそれがなく、むしろ邦題によって原題が隠されたことにより、『KIND OF KINDNESS』という本来のタイトルの意味ありげ感、含蓄ある風な雰囲気が底上げされていた気すらします。

 まぁ要するに本作は、タイトルだとか前情報だとかで高を括って観に行く作品ではありません。哀れで、不憫で、愉快で、愚かで、キショくて、ヤバくて、滑稽で……etc. 近しい言葉はいくつもあるのに決して言語化し切れない、そんな “人間の面白さ” を奇妙なユーモラスで描いた映画に思えました。



 それぞれが独立している3つのストーリー……のはずなのに、どこか繋がりを感じることを禁じ得ないのが、個人的には一番好きな要素。「事故に遭う」「性的な事情」「捻挫してしまった」等々、挙げれば切りがありませんが、たまたまでしかなくとも他の章にもあった要素との共通項により、謎のリンク感、不気味な連想を誘発し、予期や気配、不安、不穏といったものを呼び起こす。繋がりというよりはむしろ、他の章のことを思い出さずにはいられない感覚。異なる話、でも空気感や雰囲気は近しくて……。この後味はまるで、作家の個性が詰まった短編集に触れた際の読後感のよう。

 三つの章それぞれで、役割も人物も異なるのに主要キャスト陣が同一というのも要因の一つなのかな? ある種のパラレルワールド感、マルチバース感にも似た感覚です笑。形や名前が変われど、彼らという生き物の歩む道は予測不能で、同時に不穏さや奇妙さに満ち溢れている。各章で全く別の、個性的な人物を演じ分ける俳優陣の魅力あってこその面白さ。三本立てだからこそ普段の映画鑑賞以上に一流の俳優陣の演技を比較しながら味わえるんじゃないかな。

 また、詰まるところ〈繋がり〉は無いものの、「一体何者なのか」が言及されなかった不可思議な人物の存在のせいで、〈繋がり〉を感じてしまう節もあって……うーむ。
 主要人物らに振り回されているようで、でも大変な事態に陥っている主要人物らの奮闘や苦悩をよそに、我関せずといった相貌の佇まいを見せつけてくる人物が存在するせいもあり、各章の物語を一歩引いて眺めてしまう。全体を見ようとするというか、俯瞰的に思慮を巡らせてしまうのは、先述のアナモルフィックレンズとの相性の好さにも繋がってくる印象です。



 ……どうにか自分の言葉にしようと藻掻いてみましたが、冒頭シーンや、それこそ予告編でも用いられていたユーリズミックスの『Sweet Dreams』が完璧過ぎて、以上までの能書きが安っぽく感じられてしまいます。本作の第一章「R.M.F.の死」で語られたゾウムシとヤシの木の関係についても同様に象徴的なものではありますが、本作からは全体的に、与えること・被ることを問わず、愛や支配、依存といったものを想起させられたんです。それらは、とても人間的な個性。そういった感覚を、言い切らない程度に言語化してくれたのが『Sweet Dreams』の歌詞。

 鑑賞時というよりは、あくまでも観終わってからの感覚ではあるのですが、楽曲のビート感が醸す不思議な中毒性も本作にピッタシな気がしています。また、非常に個人的な意見として、今までは『X-MEN:アポカリプス』のイメージが強い楽曲だったのですが笑、本作をもって、そのイメージが上書きされました。今も尚、メロディが頭から離れません。


【関連作感想文】
映画『哀れなるものたち』感想|どいひー映画日記 (note.com)
映画『女王陛下のお気に入り』感想|どいひー映画日記 (note.com)
映画『X-MEN 新三部作』感想|どいひー映画日記 (note.com)


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