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映画『薬の神じゃない!』感想

予告編
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 マスクがどーのこーの等、幾つか現在の時勢・時節とはズレている内容も含まれていますが、あくまで公開当時(2020年)の感想文なので、そこはご愛嬌。

 よければ読んでくださいー。



 私事ながら生まれつき色々弱くてですね。物心つく齢の頃には病院通いしていて、なんだかんだ未だにお医者様には世話になっているわけで……。医療費やら薬代を自分で払うようになったのはいつ頃からだったろうか。いやぁ本当に、ジェネリック医薬品ってのは助かりますよ。なんだったら「ジェネリックにしますか?」ってわざわざ聞いてくれるんですもん。もしもジェネリックが無くて、さらに大病を患っていたとしたら……。そんな恐怖はお断りしたいものです。


 本作は、中国で実際に起きたジェネリック医薬品の密輸事件を基にした物語。外面だけ見れば “密輸” という犯罪ですけど、“なぜ密輸していたのか” っていうのが本作の肝。薬価問題の闇と戦った男の物語。……若干のネタバレ御免。



 今はこういうご時勢なので、マスク姿に対する違和感はありませんけど、本来、ドラマや映画でマスクを着けている人がいれば「あれ、病気なのかな?」「おや、変装しているのかな?」 といった認識になるのがほとんどのはず。物語の性質上、病気のためにマスクを着けている人々が多く映る本作は、その “マスク姿” そのものに別の意味を隠し持たせ、メッセージを放ち、しかもラストシーンでそれが最大限に活かされているんです。


 ジェネリック薬を求め、主人公チョン・ヨン(シュー・ジェン)のもとに多くの患者が訪れるシーン。皆がマスクを着けている様子を見てチョンは「顔が見えない」って言うんですけど、あくまでもこの時点では「密輸品の売買という違法行為を共犯しているのだから、お前らも素顔を見せろ。じゃなきゃ信用できないぞ」みたいなニュアンスのセリフでした。

 でもこのセリフが逆説的に “マスクをしていない=顔が見える” という意味を付加してくれた。本作にはその意味を活用したシーンが幾つもある。そしてその意味を浮き彫りにさせてくれたのが、何を隠そう、チョンにジェネリック薬の密輸話を持ち掛けたリュ・ショウイー(ワン・チュアンジュン)。最初、彼はマスクをしたままチョンと話していました。三枚重ねのマスクを外す仕草を若干ユーモラスに描くことで、観客にマスクを意識させていた印象です。だからこそ、チョンら密輸一味が解散するシーンで、リュが再びマスクを着ける仕草にも意味が生まれてくるよう。マスクの有無だけで心の距離を表現していたのはとても面白い。

 そんな彼が「子供の顔を見たら、生きたくなった」と言うから胸に刺さるし、ついでに言うと、野暮とわかっていながらも「うわっ……このセリフ、モロ死亡フラグじゃん……」とか思ってしまうのです。



 そして迎えるラストシーン。あくまでも密輸は犯罪行為にあたるため、逮捕され護送車に乗せられるチョン。しかし、その護送車の中から見える外の光景が、彼の行いの本質が人々にちゃんと届いていたことを証明してくれていた。人の顔が見える……たったそれだけのことが、こんなにも重要なことなのだと改めて思い知らされた映画でした。


 ここ数年、わかり易いところで言えば今年のオスカーを獲得した『パラサイト 半地下の家族』(感想文リンク)なんかもそうでしたけど、社会的に下層に暮らす人々の目線で描かれた作品が世にウケている印象が強いのですが、本作も正にそうだと思う。薬価問題を描く本作の中で「この世の病は一つ、貧乏だ」というセリフがあった。だとしたらその病を治せるのは法律だけなんじゃないかな? お金が無い人は薬すら買えない。でもジェネリックは認めない。「はぁ?」って感じだよ。

 映画の冒頭、っていうかド頭に映されるカーリー像は、もしかすると揶揄、或いは皮肉。薬価問題、延いてはそれを是正できない国に殺戮されているようなものなのかもしれません。



 本作はそのテーマの奥深さも然ることながら、エンタメ的にも見どころいっぱいなのも魅力の一つ。密輸に関わるチョン一味のバランスなんかも最高じゃないかと思うんです。五人組の中に狂犬のようなメンバーや紅一点も居るし、一番まともそうな牧師が場をめちゃくちゃに荒らす感じとかも凄く面白い。何より多くの人々の命を救った主人公チョンが、最初は金銭目的、要するに完璧な英雄像ではなかったっていうのも逆に人間味があって良い。

 なんか調べたら二年ぐらい前にイベント的に上映されたことがあるらしく、その時は『ニセ薬じゃない!』ってタイトルだったらしいんですけど、この『薬の神じゃない!』の方が個人的には好みです。原題『我不是薬神』の直訳らしいけど、タイトルから内容がいまいち想像できない感じもまた良い。


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