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映画『パーフェクト・ドライバー 成功確率100%の女』感想
予告編
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LEON レオン?
天才的なドライビングテクニックを持ち、ワケありの荷物を届ける運び屋として働く女性・ウナ(パク・ソダム)が主人公の本作。細かいあらすじの説明は割愛しますが、そんな彼女を追い掛ける悪役として登場したギョンピル(ソン・セビョク)をしばらく眺めていて、「おや?」と思ったのは、僕だけじゃないはず。とはいえこの時点では、まだ「なんとなくそんな気がする」程度の感覚。スーツの色合いもそうだし、なんかヤバめな雰囲気というか危険人物感のあるギョンピルの姿から「『レオン』のゲイリー・オールドマンっぽいなぁ」と感じてしまったんです。
そんな「『レオン』っぽいなぁ」の感覚が次第にはっきりとしてくるのが、球場でのシーン。ギョンピル一味に追い詰められたドゥシク(ヨン・ウジン)が、息子のソウォン(チョン・ヒョンジュン)を部屋の小窓から外へ逃がす瞬間には、もうハッキリと、そしてその後のシーンでソウォンがウナに「人生っていつもこんなにつらいの?」と問いかけたセリフで確信へと変わりました。前者のシーンは、愛を伝え、再会の約束をし、マチルダを逃がすシーン。そして後者は、マチルダがレオンに問い掛けるシーン……。
本作には、名作として名高いリュック・ベッソン監督作『レオン(LEON)』のオマージュがたっぷり詰まっているんです。作り手の意図など知る由もありませんし、僕の思い過ごしかもしれませんけど笑、でもそんなん知ったこっちゃない。そう思ってしまったので、我慢できないからもうそういう前提で感想を述べていきます。
ここでちょっとだけ『レオン』についての話。数年前、ナタリー・ポートマンのインタビュー記事を読んだのですが、そこで彼女が語っていた『レオン』についての話は、とても印象深く、未だに忘れられません。それは、「『レオン』は今見ると不適切」というもの。行き場のない十代の少女を中年男性が保護するという設定は、見ようによっては「少女の弱みに付け込んでいて不適切」と捉えられかねないからなのだそう。
もちろん、多くの人にとってはポジティブな印象として記憶に刻まれているし、彼女自身にとっても同様で、「誇りに思っている」ともコメントされていました。しかしながら、あくまでもそれは公開当時の話。現代は多くの事柄において敏感になっているし、「かつては問題が無かったとしても、今は受け入れられないこと」というのは当然たくさんある。ナタリー自身もリメイクの可能性について問われた時は「無い」と述べていたそうです。
決して、「今となっては『レオン』はもう名作とは呼べない」「駄作だ」などと主張したいわけではありませんが、時代の流れと、そして出演した本人の発言というのもあり、アンタッチャブルな存在とまではいかないまでも、『レオン』の話をする際には少しばかり気を遣ってしまいそうです。
ようやく本題ですが、本作は、『レオン』の救済にもなり得る映画だったと思います。そこかしこに散りばめられたオマージュシーンによって『レオン』を彷彿とさせる素敵な瞬間がありながらも、ただ一辺倒に『レオン』を模しているわけじゃない。また、要所要所をなぞりながら現代風にガラリと変えてしまうようなこともしない。『レオン』に詰まった想い出を否定することなく、あくまでほんのちょっとの違いで、変化を見せている、そんな印象です。
特に、先述した「人生っていつもこんなにつらいの?」の会話。映画『レオン』では、マチルダに同様のことを問われたレオンが「つらいさ」と返していたのに対し、本作では「何がつらいのよ?」と尋ね返していたウナ。別にレオンが間違っているわけじゃない(むしろそんな答え方をしてしまうのがレオンらしさ?)ですが、子供に対して悲観的な回答を言い切ってしまうのではなく、ほんの少しだけ寄り添おうとする姿勢を見せるのは、とても素敵。
無論、大人と子供という間柄なので、完全に「5対5」の関係にはならないかもしれませんが、この “寄り添おうとする” という姿勢は、相手のことを考える、想像するということにも繋がっていく大切なもの。
今思えば、ウナが社長のペク(キム・ウィソン)に取り分を「5対5」にするよう強く求めていたことも、なんとなく意味ありげかもしれません。
そしてなにより、今まではお金のためなら配送物や依頼人の事情なんて知ったこっちゃなかったはずの彼女が、他人を思い遣って行動しているという展開も同様に。
ネタバレ防止のため詳細は述べられませんが、物語のクライマックスも良かったです。同じく「救済」という意味で言えば本作も同様と言えるかもしれませんが、以前、映画『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』感想文でも似たようなことを述べた覚えがあります。本作もまた素敵な着地。大袈裟かもしれませんが、ある種、魂の救済というやつなんじゃないかな。
リメイクは「無い」とまで言い切られた『レオン』ですが、本作に込められたオマージュの数々は「こういった形なら現代でも受け入れられるんじゃないか」という “寄り添おうとする姿勢” の象徴にもなり得るかもしれません。まぁ、ちょっと無理やりな解釈ですし、「適切/不適切」でいえば本作も完璧ではないかもしれない。でも少なくとも、そうやって他者を思い遣ることが本作のテーマの一つにはなっていたと思います。
今さらながら、『レオン』の話ばっかりになっちゃいましたけど笑、そんなこと関係無しに本作は面白いと思います。FPVドローンを使ったようなカーチェイスシーンも見応えあるし、一流の運び屋らしい見事な仕事ぶりを際立たせるような伏線の張り方も良いし、多くの人にオススメしやすい一本でした。