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映画『浅田家!』感想

予告編
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実在の写真家・浅田政志氏の実話を基にした映画『浅田家!』の感想文ですー。

アイデンティティ


 普段、写真集ってあまり見ないんですよね。時代かな? ……いや関係ないか? 気になる写真(っていうか画像)はネットで調べちゃうから、好きな風景とか人物の写真だとしても、書店で写真集を手にすることはないかな……。
 しかし、こんなふざけた面白い(笑)写真家が本当に居ると耳にした途端、俄然興味が湧くというのがミーハー心。本作は、様々な “家族” を撮り続けた実在の写真家と、その家族の物語



 映画の冒頭、彼の兄役である妻夫木聡さんの声で「弟は、なりたかった写真家になった。……家族全員を巻き込んで」というモノローグが入る。予告編でも流れていたこの言葉に、“家族や周囲の人間を巻き込むほどの破天荒な写真家” という人物像を若干イメージさせられたけど、どうやら違っていたみたい。本作の主人公・浅田政志(二宮和也)は、とてもユニークで、才能があって、魅力的で……、とまぁ色んな形容ができるんだろうけど、間違いなく、家族や周りの人々に “支えられてきた” 人だった。


 物語の中で、就職だとかやりたいことだとか人生における事柄について、政志が悩んだりする時、彼は必ずと言って良いほど釣りをしている。凪いだ海でピクリともしない釣り竿の横でボケーっと呆けているのだが、本作においてこの釣りのシーンは、彼が立ち止まっていることを表すかのようなのメタファー。何かをするわけでもなく、ただ釣れるのを “待っているだけ” の状態。

そんな彼を “動かしに来る” 彼の家族たちは本当に良い人たちばかりで、観ているこちらまで気分が良くなる。特に好きなのは彼の幼馴染みである若菜(黒木華)とのシーン。交際していた二人だったが、大人になっても何もしようとしない政志に愛想を尽かした若菜が別れを告げる。この時の二人は、堤防の上にいる政志に、若菜が下から話し掛け、別れを切り出すというものだった。

そして中盤辺りのシーン。色々あってヨリを戻したものの、写真家として躓き……とまではいかないけど足踏み状態に直面し、また今までと同様に釣りをする政志に、再び若菜が近付いてきて言葉をかける。今度は互いに堤防の上で、 へたれこむ政志を見下ろすように話を切り出す。そして話の最大の核に触れる瞬間だけは若菜もしゃがみ、政志と目線を合わせる……。

別れ話を切り出されている立場でありながら上から話していた前者のシーンと、それとは反対に若菜が上からの目線で話している後者のシーン。この対比は、高低差の違いという構図の妙だけで心情を上手く表現しているような気がします。どちらのシーンも共に、堤防の上から動かない政志とは対照的に、一番大切なことを告げる瞬間だけは政志と目線を合わせる素振りを見せる若菜にも好感が持てるし、そこで政志が大声で返す、なんともみっともないセリフまで含めて、大好きなシーン。

文章だけじゃわかりにくいでしょうが笑、ここは本作の中でも指折りの見所。あくまで個人的にはね。しかもこの釣りをしている堤防のシーンで、「政志が動き出すぞ」と予感させるかのように波の音が少し大きくなったような気がしてさ。それも良かったよね。……まぁ一回しか観に行ってないから確認はできてないんだけどね。もしかしたら気のせいかも笑。



 本作は心温まる素敵な物語。でも辛いシーンもちゃんと描かれている。家族写真の初依頼を受け、その家族が暮らす町へ車で向かう政志。とても素敵な家族だった、最高の写真が撮れた、なんて良いスタートなんだ……。

しかしその後、ある一大事が起きる。心配のあまり、再びその家族のもとを訪れる政志を、初めて訪れた時と同じ構図で描く……。この不吉な反復描写は、あまりにも重たい。初仕事の家族で、その家族の父親役に面が割れた有名俳優を起用していて、そして何より先述のこのシーンがとても素敵だったからこそ印象強く残る。心にズシンと響く演出。今までとは変わってしまったということを印象付けるために、同じ構図を反復するのは非常に有用だけれど、それだけに、感情移入していればしている程、観ていてとても辛いシーンになりかねない。

他にも色々あるけど、以上のような映像の見せ方、登場人物たちの魅力、物語自体の温かさ等、色んな人にお勧めし易い内容なんじゃないかな?



 中野監督の作品は以前から好きだし今でも素敵だと思うけど、なんか……去年公開の『長いお別れ』でも若干思ったけど、物語のテーマというか本質みたいなのを説明するようになった印象。特にセリフで。良し悪しとかじゃなくてね、個人的な好みの話。まぁ、この場では逆に、あまり言葉にしないまま締め括ろうと思うけど、家族写真というテーマを通して、人の心の奥底にある根っこのようなもの、或いはアイデンティティとも呼べるものの存在を浮き彫りにさせてくれたような素敵なラストでした。


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