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映画『コール・ジェーン 女性たちの秘密の電話』感想

予告編
 ↓

PG-12指定



最近サボってたけど久しぶりにまとめて映画感想文投稿しようかと⑦



葛藤


 1960年代後半~70’年代初頭にかけて一万人以上の人工妊娠中絶を手助けしていたとされる団体「ジェーン」の実話を基にした本作

 当時はまだ人工妊娠中絶が違法とされていたアメリカを舞台に、「女性の権利」「女性が持つ選択肢の一つ」としての人工妊娠中絶を題材に描かれていきます。その当時から既に半世紀も経過しているものの、未だにアメリカの一部の州などではこの権利が認められていません。時代や背景などを問わず、今観てもとても意味のある映画だと思いました。


 物語の序盤、主人公のジョイ(エリザベス・バンクス)は、二人目の子供を妊娠した際に心臓の疾患が見つかり、母体の生命を守るための中絶手術を希望します。
 しかし残念ながら、病院側から突き付けられた回答は「NO」。このシーンはとても印象に残っています。彼女の身を案じる夫・ウィル(クリス・メッシーナ)や、母体の生命の安全のために中絶手術を提案した医師も同席してはいたものの、その病院の会議室には彼女以外の女性が一人もいない。男だらけの空間。そんな中での「NO」。誰もが “母” から生まれているにも関わらず、女性の身体を案じはしない。

 そんなシーンを印象的だと思えたのは、終盤でのとある一幕、もとい一言があったため。クライマックスでバージニア(シガニー・ウィーバー)が小さくおどけて見せながら口にした「まさか感謝することになるとは」というセリフによるもの。アメリカ連邦最高裁が女性の人工妊娠中絶の権利を合法とする歴史的判決を下し、その “賢明な判断をした7人の男たち” に対しての言葉。
 ……白状すると、一度しか劇場に観に行っていないのでうろ覚えというか、もしかしたら勘違いかもしれませんが、前述した「NO」を提示された空間もまた、男性が7人ほどだったような気がします。
 まぁ正確には人数が同一でなくとも、女性の生命が掛かった重要な選択を、複数の男性たちが一方的に片付けた序盤のシーンがあったからこそ際立ったセリフだったんじゃないかな。



 本作で何度か描かれた、サシでお酒を酌み交わしながら、互いの嘘を見抜くゲーム(アメリカではポピュラーなのかな?個人的には馴染みのない遊びでした)も面白い。
 一度目に描かれた時は単なるゲームというか、陽気な気分を窺わせるお遊び程度にしか見えなかったのに、二度目のシーンでは雰囲気が大きく変わってくる。「互いの嘘を見抜く」——互いに嘘を貫けるかどうか——というゲーム性が、そのゲームの参加者やシーンの状況とリンクして見えてくる
 ここでのジョイvsディーン(コリー・マイケル・スミス)という対戦カードももちろん面白いのですが、ここでの真剣勝負があったおかげで、その後に描かれるもう一つの対戦カードがより面白く感じられるんです。

 そのシーンは、まぁ正確にはお酒ではなかったし、夫のウィルも同席している場面ではあったのですが、互いに相対した状態で嘘を見抜かんとする、真実を暴かんとするという構図のおかげで、彼女が嘘を貫き通せるのか——「ジェーン」の存在について白(しら)を切り続けられるのか——というハラハラするシーンになっています。あくまでも問い詰める側だった前述のシーンとは打って変わって、問い詰められる側に立たされてしまった彼女の緊張感がひしひしと伝わってくるシーン。

 また、アンダーグラウンドな組織であるという「ジェーン」の性質のおかげで、外界というか世間から半ば隔絶された、或いは閉じられたコミュニティ内の事情ばかりが描かれがちの本作だったからこそ、「バレてしまったらどうなるのか……」という意識を湧き上がらせ、緊張感をより濃くしていたのかもしれません。



 (ここから若干のネタバレご容赦ください……まぁ予告編でも描かれていたことなので気にする必要もないんですが。)

 「バレてしまったら……」という点で述べるなら、後半からの展開も見逃せません。命を預かることになるわけですから、医師免許というのは大変に重要なこと。闇医者なんて以ての外。本作の後半からは、予告ティザーの明るくポップな雰囲気からはちょっと想定していない空気が流れていた気がしました。
 ……けれど、自身の生命の危機に、何をなりふり構っていられようものか。そうせざるを得ない、あるいはそんな選択を誘発させている社会の仕組みそのものにも目を向けさせられます。

 とはいえ、「女性の権利のため」「女性たちの生命を守るため」等々、そういった大義とは対照的に、犯罪意識や危機感も同時に存在していたはず。観ているだけで不安感に支配されていく気がしました。もしかするとその感覚は、ジョイ自身も同様だったのかもしれません。多くの女性たちを救うために行動を続けていく中で、英雄的な自意識なんかではなく、葛藤が垣間見えていたからこそ、主人公である彼女を応援したくなる。

 家庭内のことで言えば、唯一の稼ぎ手である夫・ウィルの存在も大きいと思います。弁護士という職業も然ることながら、食事の前にしっかりと神への祈りの言葉を述べる姿などからは、彼が社会的規範を重んじている人物であることを容易に想像させられる。ジョイの良きパートナーとして、彼女の想いを理解しながらも、法律や社会的規範を守らなければ家族を養うための仕事さえ失いかねない……そういった葛藤も強く窺い知れてくる。


 映画全体としては、女性の連帯というものを強く感じさせる内容となっている本作。女性たちが手を取り合い、秘密裏に多くの人たちを救済しようと活動する姿を見ているだけでも面白いのですが、個人的にはウィルの心情ばかりを気にしながら観ていました。社会派エンタメとしても良質で、ドラマとしても見どころがいっぱい詰まった素敵な映画でした。



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