映画『リトル・ワンダーズ』感想
予告編
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PG-12指定
大人として観るキッズ映画
悪ガキ三人組はテレビゲームで遊ぶため、母親からテレビの使用許可を得ようとするも、その引き換え条件としてブルーベリーパイを買ってくるよう言いつけられる。けど運悪く売っていなかった → じゃあ自分たちで作ろう! → でもスーパーにあった残りラスト1パックの卵を変なオヤジに横取りされた → 奪い返してやる!
……とまぁ、ざっくり言うとこんな感じで始まる物語。予告編も然り、このあらすじを読んだだけで楽しいというか、既にワクワクが止まらない笑。
主人公の悪ガキ三人組——アリス(フィービー・フェロ)、ヘイゼル(チャーリー・ストーバー)、ジョディ(スカイラー・ピーターズ)——からなる「不死身のワニ団」というネーミングも良いし、16ミリフィルムで撮影されたノスタルジックで温かみのある映像も素敵。劇中、ジョディが口にしたセリフを引用しますが、なんていうか本作は、「ラブリー♡」な映画かもしれません。
彼らの冒険(悪行?笑)を手助けするアイテムの数々も、子供っぽさを暗に象徴しているように思えて面白い。移動手段のバイクや武器のライフルは、本来であれば法律などのルールによって制限され、たとえそうでなくても周囲の大人によって禁じられてしまうもの。換言すれば、子供の手には余るほどの危険性がある代物ということ。それらを、バイクであればミニバイクへ、ライフルであれば火薬を用いた実弾ではなく空気圧を利用したペイントボール銃へ……等々、チープ化させることで挿げ替えている。
そうまでしてバイクやライフルを愛用する姿からは、子供の力だけでは御し切れないほどの大きなパワー、エネルギーに惹かれてしまう子供ながらの心理を窺わせてくれる。「大人」あるいは「大人には許されていること」への憧れにも見て取れる、そんな可愛らしさがあるアイテムなんじゃないかな。
とはいえ、(監督御自身は「究極のキッズ映画を撮りたかった」そうですが)実を言うと「こんな子供いるか!」と思えることもしばしば笑。序盤からしっかりめの犯罪行為も描かれていましたしね。スマホを使いこなしたり、ゲーム機のことで頭がいっぱいだったりする様子からは現代っ子ぽさが感じられるものの、16ミリフィルムの映像によって昔の悪ガキっぽい無敵感も同時に醸成されていた印象です。
現代の倫理観では尚のこと、ちょっとばかし過剰な悪ガキぶりからは、当人らの無責任さ、生じるリスクを予見・想像できていない等の愚かさが窺える。延いては、「今」で頭がいっぱいという子供ながらの無敵感。「何かに夢中になる」という純粋無垢で可愛らしい類の無敵感ではなく、リスキーでグレーな悪ガキタイプの無敵感って感じかな? いや、「悪ガキ」通り越して「ク〇ガキ」感も漂っていたかなw? それを多少なりともまろやかにしてくれていたのが16ミリフィルム映像の温かみであり、或いは子供たちの “ラブリー♡” な愛嬌なのかもしれません。
そんな無鉄砲な彼らが、肝を冷やすハメになる。悪いことをするのも、物怖じしないのも、大きな力への憧れなんかではなく大人を侮っていただけだった。そんな現実が突き付けられていく。
ある時はスーパーの店員さんをペイントボール銃で撃っておちょくっていた彼らが、本物の銃声を耳にした瞬間にはビクッと体を強張らせていたし、ちょっとくらい平気だろうと高をくくって酒を飲んでしまったヘイゼルは、案の定グデングデンに酔っ払ってしまっていた……。大人や社会を舐めていたが故に怖い想いをする、痛い目に遭いそうになる三人。
今思えば、ジョン(チャールズ・ハルフォード)に卵を奪い取られた際、……いや、別に見た目で人をどーのこーのってわけじゃないんですが笑、あの外見のおじさんに歯向かうのって、結構怖いんじゃないかと思うんです。なのに彼らは一切怯えたり臆したりする様子がなかった。でもそれは本当は、怖くなかったのではなく、怖さを知らなかっただけだった。
以上のことを簡単に要約すると、自業自得とか因果応報とはまた違いますが、悪ガキが痛い目を見たというだけのことでしかありません。けれど、ここからが一番の見もの。大人や社会の怖さを認識した、その上で、大人に立ち向かっていく。監督の真意こそ知る由もありませんが、こういった展開こそ “キッズ映画” ってやつなんじゃないでしょうか?
元々は敵陣営だったものの、ひょんなことから少女・ペタル(ローレライ・モート)が味方に加わる展開も良い。(動機のきっかけは「ゲームのため」だったかもしれませんが)母親との約束のために奮闘する三人とは対照的に、母親からの呪縛に抗っていたペトラ。彼女は自身以外大人しかいない小さなコミュニティから抜け出してきた、つまりは敵の大人たちにとっての反抗分子。そんな彼女の参戦もまた、子供同士で徒党を組んで大人に立ち向かうという構図を一層くっきりさせてくれた印象です。
監督もこだわっていたという16ミリフィルムの映像が生み出す独特の雰囲気は、観客を童心に帰させるよう。「究極のキッズ映画」とやらの割に、日本ではPG指定が掛けられている本作は、実は “大人が童心に帰れる” という意味のキッズ映画なのかな、なんて。子供といえどやり過ぎな振る舞いは散見されましたし、子供の頃に本作のような大冒険を経験した方なんて、そうそういない。でも、そんな物語を映画として——安全圏から——眺められ、且つ、童心に戻って楽しめる。そんな不思議な魅力のある大人のキッズ映画(?)でした。