見出し画像

映画『痛くない死に方』感想

予告編
 ↓


 公開当時(2年ほど前)、本作の基となった原作本の著者でもある長尾和宏氏に密着したドキュメンタリー映画『けったいな町医者』(感想文リンク)も同時期に公開されていました。

 公開日順で言うと本作の方が後だったのですが、スケジュールの都合で本作を先に鑑賞。

 で、なんとなく思ったのは、「ちゃんと公開日順に観た方が良かったかも」ということ笑。まぁ本作単体でも十分楽しめますので問題ありませんが、もし未見の方で『けったいな町医者』にも興味があるのであれば、それとなく頭の片隅に置いといてもらえればと思いますー。




死と生


 ド頭から関係ない話で申し訳ないけども、「観に行きたい!」って思った映画が近場で上映されてないのって悲しいですよね……。「えっ、都心だと一か所だけなの?!」っていうね。わがまま御免。はい、本題に入ります。


 実在の在宅医である長尾和宏氏の著書『痛い在宅医』と『痛くない死に方』をモチーフに、在宅医療をめぐる人間ドラマを描いた作品(その長尾氏の在宅医療現場に密着したドキュメンタリー映画『けったいな町医者』も同時期に公開されていたので、もしかしたらそっちから観た方が良かったかも……いまさらですけど)。


 僕の祖父も祖母も、ウチの親族は皆ポックリと逝ってしまう質(たち)らしく、病に苦しみながら死を迎えるということがありませんでした。それ故に終末期医療に関する実情・知識に関してはほぼ皆無に等しくて、鑑賞中に色々と考えさせられることはあったものの、どこか「これはどこまでリアルなんだろうか」という想いも同時にあったんです。

でも、本作で描かれていることはとてもリアルなんだと信じています。だって、上映後に出口に向かっている時、僕の後ろを歩いていた中年夫婦が「オヤジを想い出した」って言ってたんですもん笑。



 不治の病で且つ容体は末期。実際に身近で目にしたことは無いですが、もしも本作の前半で描かれていたような闘病生活がリアルなのであれば、延命の為だけの医療行為に対して良いイメージは湧きづらい。点滴や人工呼吸器で体中が管だらけ、碌に体も動かせないし、メシも食えず、痛みだけが続き、無理やり生かされ、最期の最後には悶え苦しむように死を迎える。ならば、延命措置はせずに安らかな死——安楽死・平穏死——を迎えるという選択もアリなんじゃないだろうか。……とまぁ、この手の話題は同じ国の中でも州によって法律が違ったりするくらい意見が分かれていることですから、どちらか一方に限定して是非を問うことはしませんけど、選ぶ自由はあっても良いんじゃないかな、とは感じます。人それぞれの人生の締め括りは、その人生を送ってきた本人の意思が尊重されることが大切なのかもしれません。

 本作からは、死も生の一部なんだと教えてもらったような気がします(ちなみにですが、僕は本作で初めて「リビング・ウィル」ってものを知りました)。



 原案となった書籍は未読ですけど、タイトルから察するに、おそらく本作の前半は『痛い在宅医』で、後半は『痛くない死に方』がベース。前半と後半で主人公の装いが変わっているのも分かり易い目安の一つ。あくまでも事務的というか無機質というか、患者との間に壁や距離を感じるイメージの白衣を着ていた前半とは異なり、後半は上司の長野(奥田英二)(原作者である長尾氏が役のモデル)同様に、ラフな服装で医療にあたっていた。服装ひとつで人間臭さが出るというのもあるかもしれないけれど、いわゆる大病院等の医療機関とは違い、患者にとことん寄り添う在宅医(少なくとも本作で描かれている)の信念にピッタリのビジュアルだと思います。

 そしてこの後半で描かれる在宅医療がとても美しい。前半があまりにも凄惨なものだったことによって、後半の物語がより良いものに見えてくるっていうのもあるのかもしれません。在宅での平穏死を選んだ本多(宇崎竜童)の人柄も素敵。自身が思ったことをしばしば川柳にする本多は、ある時、大病院などで行われる延命治療を否定するようなことを口にする。でも本人の人柄も相俟ってか、川柳で言語化するという皮肉の中にも同時に茶目っ気が窺い知れるんです。ささいなセクハラ発言や、「ちょっとくらいいいだろ?」と言って酒やタバコをせがむ姿には可愛げすら見えてきます。


 本作は全編を通して、長回しが多い。でもそれは、各シークエンスをワンカットにしているというよりは、一つ一つを端折っていないというような印象。ただただ苦しむ患者、どうすれば良いかわからずに狼狽する親族など、まるで、簡単には終わらない “痛い” 終末期医療を示しているかのようでもある。

一方で、後半での長回しは、ただ食べる、ただ飲み込む、他愛のない話に頬を緩ませるといった、ゆったりとした長回しがほとんどで、まるで “痛くない” 終末期医療が持つ平穏な雰囲気を表現しているよう。


 本作を観た人の多くが、きっと「良い死に方だった」と感じるクライマックス。でも改めて考えてみると、死んだことに対して「良かった」と心から思えるのは不思議な話。上手く言えないんですが、どこか『100万回生きた猫』を読み終えた後に感じるものにも似た不思議な温かみがあるラストでした。


#映画 #映画感想 #映画レビュー #映画感想文 #コンテンツ会議 #医療 #長尾和宏 #在宅医療 #終末期医療 #柄本佑 #宇崎竜童 #痛くない死に方

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?