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映画『モンキーマン』感想
予告編
↓
R-15+指定
デヴ・パテルがかっこいいという話
俳優デヴ・パテルの監督デビュー作。主人公のキッド/モンキーマンを演じるだけではなく、パテル自身で原案から制作、共同脚本も務めており、しかも映画情報サイトなどによれば構想に8年ほどかかっているんだとか。力の入れようというか、本作への想い入れ、その深さが窺い知れます。
劇中、キッドがサンドバッグを使ってトレーニングをする様子が描かれます。待ち受ける決戦を前に、自身を追い込む修行のようなシーン。それは、敵一味に身を追われていた彼を匿ってくれた寺院(村?)の中で行われていたもの。トレーニングが徐々に苛烈さを増していく中、その熱量に比例するかのごとく周囲で見物していた女性たちから黄色い歓声が上がり出す……。
もっと俗っぽく述べてしまえば、高身長&細マッチョ男性がトレーニングする様子を見物していた女子たちが、その肉体美やら男らしさに興奮してキャーキャー言っていたんですわ笑。
さて、なぜこんなシーンの話から始めたのか。それは本作もまた、同様の見方をして楽しむ映画に他ならないから。もぉ兎にも角にも「デヴ・パテルかっこいい」の一点突破。アクションやらの見せ場は多々あれど、ここで共感してもらえないことには、本項はマジで駄文の雨あられ。もちろん僕自身は、劇場の中では大人しく鑑賞していましたけれど、かのシーンで見物する彼女ら同様に「キャーキャー♡」と喚き出すようなテンションで観るのが正解なのかもしれません笑。
一部の予告ティザーでも流れていた覚えがありますが、例えばバーの壁に並べられた酒瓶をオシャレに照らすライトアップや、暗がりの中の火炎等々、本作では、背景や舞台装置の明かり、ならびにそれらが生み出す逆光によって被写体のシルエットを際立たせる瞬間が散見されます。それは、デヴ・パテルのスラっとした体躯をより一層美しく映えさせるもの。
あくまで良い意味で “キザ” というか何というか。本作ではアクションシーンの激しさに負けず劣らず、場面転換や時間経過を表す際にも気取った見せ方が特徴的だったので、これでもかと見せつけられるヒロイックフレームとの相性がとても好い。
また、彼のビジュアルという点で言えばアルフォンソ(ピトバッシュ)との凸凹感も良かったと思います。性格や立場的なものも然ることながら、身長的にも凸凹感が際立つ両者。そんな二人が手を組み、これから行動に移そうと歩きながら会話するシーン。その身長差のために頭部の位置(高さ)が離れていながらも、構図を斜めにすることで、スクリーン上では二人の顔が同じ高さに納まり、同時にその斜めの絵面がこれからの展開への不穏さや怪しさを匂わせてくれる。斜めの構図自体は珍しいものではありませんが、にしても、かなりの角度がついていたので、異様っちゃぁ異様なシーンだったかもしれません。
しかしながら、目が回るようなアクションが序盤から続く本作においては、「斜め過ぎる」程度の構図は違和感には繋がり得ない。作品のテイストにもあっているし、主人公のビジュアルの良さも損なわない見せ方だったんじゃないかな。
気取っている、或いはキザ……、それは敵側の描き方もまた然り。互いに存在を認識する、或いは目が合ってもすぐには手を出さない。ゆっくりとにじり寄る。任侠映画、いや西部劇での決闘シーンのような、嵐の前の静けさ。この戦いへの想いが如何に大きいのかを知らしめる。本作はあらゆる場面において、とにかく濃く、濃く強調して見せていた印象です。そしてそんな濃い味満点の演出に見劣りしないほど濃い敵だったからこそ楽しめる。
個人的には元凶であるアクシュリが面白かったです。自身を周囲よりも高位の存在として振る舞う言動は、正に悪の親玉。気取ったラスボス感に拍車をかけてくれます。また、事態への懸念を「残り火」と形容して表現するキザな言い回しも、そんなキャラクター性に見合っていたんじゃないかな。
そのセリフに呼応させるかのように、後々のシーンでロウソクの残り火を映し出していたのも印象的でした。消したつもりでも、未だ微かに燻っている。延いてはそれを口火に大火にさえ繋がり得ることを象徴する瞬間。その火種こそキッドの精神、或いはキッドという存在そのもののメタファーになっていることは誰もが思うところかもしれません。アクシュリにとっては懸念かもしれなくとも、観客にとっては期待でしかない残り火。そんな火種がどんな爆炎に化けるかは、実際に観て頂くのが一番です。
先ほども少し触れましたが、本作はアクションシーンも魅力の一つ。特に後半。前半でのアクションシーンが霞むほどの見応えは、劇場で観て良かったと思わされました。劇中のセリフでも冗談交じりに「ジョン・ウィック」なんて言葉もありましたが、キアヌ・リーヴス顔負けの暴れっぷりを見せてくれます。っていうか『ジョン・ウィック』シリーズと同じ制作チームなんですってね。
本作は、インドの猿神や宗教的なことなど、インドの土着的な諸要素が物語に絡んできます。物語や世界観の全体像を見れば、政治的、もしくは社会的な批判が込められている側面もあったかもしれません。
しかしながら、白状するとその辺りの知識が僕にはまったくありません(それが故に僕は「かっこいいの一点突破」なんて楽しみ方にシフトしてしまったわけですが……)。とはいえ、劇中ではあまり細かく言及されることがなく、スピリチュアル感を前面に出したような世界観なので、小難しくなく観ることができました。
これまで『LION/ライオン ~25年目のただいま~』『ホテル・ムンバイ』など、個人的には心優しき好青年というイメージが強かったデヴ・パテルの新たな魅力に出逢えた一本でした。
【関連作感想文】
・映画『ホテル・ムンバイ』感想|どいひー映画日記 (note.com)
・映画『LION/ライオン ~25年目のただいま~』感想|どいひー映画日記 (note.com)