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映画『博士と狂人』感想

予告編
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 「5(ご)1(い)」の語呂合わせから、本日5月1日は ”語彙の日” という記念日なんだそうで。

 そんな本日は、とある辞典についての映画の感想文を投稿しようかと。初版の発行まで70年を費やし、世界最高峰と称されるオックスフォード英語大辞典の誕生秘話を映画化した本作。原作は『博士と狂人  世界最高の辞書OEDの誕生秘話』というノンフィクション。


 ……今更なのですが、この『note』ってSNSですよね?  本文のド頭に「SNSやってません」みたいなこと述べちゃってて笑。あくまでも公開当時(3年前)の感想文なので、何卒ご容赦を。


同じ


 僕はフェイスブックやインスタグラム等のSNS、それからTwitterをやっていません。しかしそれらが普及し始めて早十余年。今となっては、やっていない人ですらその事情を十二分に理解できてしまうほど、SNSは当たり前の存在になりました。

結果、SNS等ネットに対する僕の個人的なイメージは、“人の負の側面の吹き溜まり”。←本当に個人的なイメージ。あくまでも、ごく一部、特に酷さが目立つ部分についてだけの話ではあるんだけど、そういうのほど目立ちがちだしね……。面識の無い人への誹謗中傷。再起・復帰の芽すら認めず、許さず、人間の性善を全否定するような空間にしか見えない……。


 まるでそんな現代社会への警鐘を鳴らすような物語でした。本作は、オックスフォード英語辞典の編纂に携わった二人の男の物語。ザっとあらすじを読んだ時には『舟を編む』みたいな内容を想像していたけど、全然違いました。確かに本作は、辞書の編纂についての話。だからこそ言葉が持つ力を際立たせていた印象です。けれど哀しい哉、それは良くも悪くもだったのだと思います。

言葉の持つ力がどれだけ人の心を救うのかを教えてくれる物語であると同時に、今、現代にこの物語を描くからこそ、言葉の持つ力がどれだけ人の心を傷つけるかも痛烈に浮き彫りにさせてくれるよう。



 恨み続けるのはとても苦しい。しかし許す行為もまた非常に辛い。一生消えない傷を抱えて生きていくのは、どっちに転んでも酷く辛いもの。だからこそ、被害者の気持ちを考えれば、どんな事情であれ過ちを犯した者の肩を持つことはできない。けれど、もしもその加害者が良識ある真っ当な心の持ち主であれば、きっと同じように苦しんでいるに違いない。本作で描かれるドラマの一番の見所はそこなんじゃないかな。罪の意識を背負う苦しさだけじゃない。「罪の意識を背負って苦しい」という想いすら許されない苦しさ。普通の人ほど、罪悪感に潰されておかしくなってしまいかねない。

思えば、最初からウィリアム(ショーン・ペン)の様子はおかしかった。けれど映画を観ていれば、それが戦時中の自分自身の行動を悔やみ、その後悔に苛まれていたが故のものなのだというのがわかる。「戦争中のことなんだから」などと自分のことをなだめることもできない彼の不器用さ、延いては誠実さが如実にわかる。そんな男がある時、“許される”。しかし、その許されたという事実がまた彼を苦しめる。「許されてしまった」と。償いの辛さというべきか、憎まれたままの方が楽だったんじゃないかと思ってしまうほどの破綻っぷりは、見ているこちらまで辛くなる。


 一度道を踏み外した者には人権が無いんじゃないか……。そう言わんばかりの描写が続く本作ですが、現代の社会もそれほど大差ない。立ち直ることすら許さない、認めない社会のどこに人間性があるんだろうって。物語の中で被害者が口にした「私が許したのに」っていうセリフなんかもそう。当事者 ”以外” が許さないという現実をわかりやすく言語化してくれていました。まさに現代の社会を象徴しているよう。

劇中のセリフを引用しますが、以上のようにして “一人のかけがえのない人生” を無責任に否定する。文句を言う時だけ当事者で、都合が悪くなったら他人のふり。うっわぁ……って感じよね笑。この映画には、いわゆる “ネット上で叩く人” に向かって言っているんじゃないかと思わせるセリフがいくつもある。(先述した内容に戻るけど、)今の社会への警鐘にも見て取れるほどに。

それと同時に感じるのは、この驚きの実話から既に100年以上経った今なお、人類は形を変えて同じことをしているのかという虚無感。変わるにはどうやらまだまだ時間が掛かりそう。



 序盤はメイン二人それぞれの物語を往復するような描かれ方。対比のようなその構成のせいか無意識に比較するように観てしまい、次第に二人の物語が交錯していく。シンプルに見入ってしまう流れも然ることながら、個人的に良いなと思ったのは枷の使い方。特にウィリアムとイライザ(ナタリー・ドーマー)の面会シーンはとても印象的。面会が終わり、彼女がその場を離れたと同時に職員が手枷を付ける。それがまるで重責に苛まれるウィリアムの心情を表現しているようでね ……。セリフにはされていないけど、この枷、もっと言えば枷を付けるタイミング、ゆっくりと下がっていくカメラだけで、筆舌に尽くしがたい彼の心の在り様を描いていたように思えてきます。

調べてみたけど、監督のP・B・シェムラン氏、多分、初監督作なのかな?  面白いし感動できるし……って、安い謳い文句しか出てこないけど笑、本当に良かったです。


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