映画『化け猫あんずちゃん』感想
予告編
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居心地
いましろたかし氏による同名漫画を原作に、日仏合同でアニメ映画化した本作。とにかくアニメーション映像が素晴らしく、観ているだけで楽しめます。
化け猫のあんずちゃん(森山未來)の存在もあるので、たしかにファンタジー要素は詰まっているのですが、基本的にはリアルな動きがたくさん。ちょっとした階段を「タタン」というリズムで下りる感じとか、特に理由もなく視線が動く感じとか、細かな部分にまでとても生っぽさがあります。
映画を観るまで知らなかったのですが、実は本作の映像はロトスコープ(実際に撮影した映像をトレースして描く手法)によるアニメーション。YouTUBEなどでも公開されている実写映像と比較して楽しむのも面白いかもしれません。
また、モブキャラの目が「・」で表現されていたり、それこそあんずちゃんのビジュアルだったり、原作よろしく、とても柔らかい風合いのキャラデザインや動きも魅力の一つ。いわゆる “漫符” などと呼ばれる漫画的表現が挟まれたり、顔が真っ赤になったり、伸び縮みしたり、その他にも色々。どこか懐かしさを感じる古めかしいアニメーションの中に、ロトスコープによるリアルな描写が織り交ぜられているのですが、この二つの相性がここまで好いとは思いも寄らなんだ。リアルとデフォルメのバランスがとても良い。
中でも個人的に好きなのが、あんずちゃんの初登場シーン。突如として現れた化け猫を前に、驚きのあまり絶句する主人公・かりんちゃん(五藤希愛)を余所に、一介のオジサンらしく振る舞うあんずちゃんの平常運転ぶりが面白い。デフォルメされた見た目とは対照的に、実際のお芝居によるリアルなセリフ感も含め、とても抑制の効いたクスッとなるユーモア。本作には、そういった面白さが他にも多く見受けられます。
ここでのかりんちゃんの棒立ち姿も見どころ。実写映像とほぼ同じながらも、顔の表情にかかる影の濃淡がよりはっきりしていたことで、見た目以上に大きな衝撃を受けていることが如実に伝わってきます。実写の良さを残しつつも、影や調光を自在に操れるのは、アニメーションならではの表現。他にも、例えば地元の子供たちと喫茶店に入るシーンでは何かを企んでいることを匂わせるようにも見せていたし、影の役割は各所で活きていた印象です。
そういった影の活かし方で言えば、海辺で遊ぶ家族連れを、かりんが遠巻きに眺めているシーンなんかは特に印象的。日陰にいるような翳り具合のため、かりんの姿・表情は海辺の親子のそれよりもうっすら暗く見えている。幸せそうな家族像を暗がりから眺めているその姿は、まるで家族のいない彼女の心情を浮き彫りにするかのように感じられました。
実は、かりんの存在も含め、アニメ映画版のみの要素が主軸となっている本作。彼女の父親である哲也(青木崇高)の事情についても同様。あまり明確には描かれていなかったので、経緯こそ判然としませんが、とはいえ、かりんは親の勝手な都合で田舎の寺に預けられることになってしまった身の上。時折垣間見える生意気な態度にフラストレーションが溜まってしまうかもしれませんが、かりんのこの子供っぽい不機嫌さの塩梅も、本作の魅力に繋がっていたと思います。
いきなり田舎に連れて来られたことも然り、懐かしさを覚えるアニメの風合いなども含め、あくまでかりん視点で言えば、本作の舞台・池照町に訪れたことはタイムスリップでもしてきたのかと思わせるほどの事態に見えなくもない。池照町に訪れた際の光景も「知らないところ、果ては異世界にやってきた」感すら漂うようでしたし、彼女だけがスマホをイジっていることなども、田舎には似つかわしくない都会っ子っぽさが窺え、かりんの孤立感・孤独感を際立たせてくる。それはきっと多分、あまりにも異質な居心地。
また、そうやってスマホで暇つぶしをする彼女にとっては、釣りは面白くも何ともないでしょうし、海に飛び込んだ地元のオジサンの乳首が透けて見えるのも気持ちが悪いはず。寺に帰れば、食事中にオナラをするようなノンデリカシーな化け猫オジサンが付いて回る。いちいち言及はされないものの、彼女に不満が募っていることが容易に想像できてしまう瞬間が度々描かれる。
そして何より、母を失っていて、しかも父親は音信不通……。
生意気というか強気な姿勢は、孤独感を抱えたまま見知らぬ場所に置いてけぼりを喰らい、居心地の良さをどこにも感じられずにいた中での強がりでしかなかったのかもしれない……そう思うと、寺の和尚さん(鈴木慶一)の前で良い子を演じていた姿も切なく見えてくる。母親がいない喪失感も含め、かりんは未だ過去を乗り越えられていなかったように見えました。居心地の良くない日々の中では、先述した「クスッと笑える」ようなシーンの数々も、ストレスや苛立ちにしかなり得ない。
本作は、そんな一人の少女に温かな居心地をもたらす物語。ネタバレ防止のため詳細こそ割愛しますが、後半からのストーリーは、彼女が過去や現実を受け入れ、乗り越えるための展開だったようにも見えます。決して戻ってはこない母親の存在に居場所を求めてしまっていた彼女が、ちゃんと気持ちに折り合いをつけ、自分の居場所を見出せるようになっていく、そんな物語。
終盤、“練習の成果” を披露するのも、母との別れから、彼女自身が変化を遂げたことを象徴するものでした。
また同時に、あんずちゃんとの日々が、かりんちゃんに居心地の良さというものを気付かせてくれた。「居場所を与える」とか、そんな上から目線じゃない。年頃の女の子への寄り添い方がいまいちわからないオジサンが、わからないなりに寄り添ってくれた、そんな物語。
なればこそ、それもこれも、あんずちゃんの魅力あってこそ。かりんちゃんだけじゃない。観た人みんな、化け猫あんずちゃんを好きになってしまうんじゃないかな。
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