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映画『すくってごらん』感想

予告編
 


不思議


 観終えた直後の一番の感想は「原作ってどうなってんの?」という疑問。

→早速ブック オフへ。……ふむふむ。どうやらこの映画は原作とはだいぶ毛色が違う感じ?

 本作は、おしゃべりが過ぎる程のマシンガン一人語りのユーモアと、感情を歌に込めたミュージカルシーンが見どころの不思議なエンタメ映画。それでいて、毛色こそ大きく違うものの、原作漫画の魅力に似たものも秘められています。


 主人公・香芝誠(尾上松也)の思考回路をモノローグだけではなく文字にして画面いっぱいに映すシーンは、まるで映画『フード・ラック! 食運』(感想文リンク)のような視覚的な面白さがあり、早口でまくし立てる主人公の脳内との相性が好いし、主人公の頭でっかち感も出ていて更に良いと思いました。

それが故に説明チックに感じてしまいかねないけれど、漫画(原作)特有のモノローグ感にも繋がっているから面白いんじゃないかな、と。ミュージカルシーンでも歌詞が映し出され、どこかミュージックビデオみたいな雰囲気もあるから不思議です。



 そんなテイストの物語の中で、歌詞が文字化されない瞬間が訪れるのも本作のキーとなるところかも。今まで何でも理屈っぽく捉えていた香芝が、頭だけでは解釈しきれない感情に出くわした感が強く出ている印象でした。

 常に香芝の思考回路が文字化して明確に示され、香芝以外の人間でも歌唱シーンになれば歌詞が文字化していた中で、ある時、本音がなかなか窺い知れない吉乃(百田夏菜子)が「ららら……」と歌い出すのも印象的。しかもその「ららら…」という歌詞が、“ナンバー” を捨てた香芝が言葉に形容できない自身の気持ちを「ららら…」という歌詞にのせて力強く歌い上げるクライマックスシーンに呼応しているようにも思えてきます。

そして、まるで今まで文字化してきた歌詞の延長のように「すくってごらん」というタイトルバックで終幕する締め括りへと繋がっていく。この一連のシーンがあるからこそ、タイトルの『すくってごらん』が単に物語の中枢にある金魚掬いに掛けただけの言葉ではないように思えてきてしまう。

数字というある種の理屈に囚われてきた男を主人公にして次第に変化していく姿を描くことで、「楽しい」とか「面白い」というあまりにも不明瞭な心の揺れ動きを模索させる本作。そんな物語のラストに映し出される『すくってごらん』は、「楽しい」や「面白い」といった主観の強要や押し売りという感じではなく、「試しに一回やってみたらどうですか?」みたいな優しさがある気がします。もっと言えばそれは、「どうどすか?」というヒロインの吉乃を彷彿とさせる、はんなりとしたまろやかさにも感じ得るんじゃないかな。今思えば、吉乃は一度たりとも金魚掬いを強要していない。あくまでも「やってみませんか?」みたいなアプローチでした。


 余談ですが、そんな吉乃役に百田夏菜子さんをキャスティングしたのも面白い。物語の序盤、まるで異世界にでも迷い込んだんじゃないか、ぐらいの顔をしていた香芝の前に現れ、一瞬で彼の心を鷲掴みにする彼女。独特の雰囲気で、大人のお店か何かと勘違いしていた様子の香芝の挙動不審ぶりも笑えたのですが、そう勘違いさせてしまうような要素、例えば浴衣の着こなしが印象的でした。首元だけが若干はだけているような着方で、且つ、うなじより少し下の絶妙な位置にあるホクロ。しかも首の両側にある。こんな絶妙の位置にホクロがある女優は貴重じゃないか、と感心しました笑。(本物のホクロなのかメイクなのかは知らないのですが……。どちらにしても面白かったので、まぁ良いかな、と。)




 本作で描かれる “金魚掬い” を何とリンクさせるかは人それぞれでしょうけど、香芝が金魚掬いから何かを感じ、何か大切なことを見つけたのは間違いない。金魚掬いに使われる金魚(小赤)と自身の境遇を結び付けたのかもしれないし、今まで触れて来なかった文化を知ることで世界が広がったのかもしれない。

そんなことを考えてしまうのは、物語の冒頭で、 金魚が描かれたマンホールを何も気付かずに踏ん付けて歩いていた香芝が、物語の終盤になった頃にはマンホールを避けて歩くようになっている描写があったから。会話劇とは一味違う言葉のエンターテインメントの中にも、こうしたさり気ない描写があるのもとても素敵です。

 もはや “楽しい” を通り越してふざけているんじゃないか、とも思える面白さの中に、作品を俯瞰的に、作品の外からの視点を盛り込んだメタ的なユーモアが織り交ぜられていたりもするから、ミュージカル的に突然歌い出すことや、登場人物の心情を表現するために現実と虚構がごちゃ混ぜになることに対し、もはや違和感なんて感じない。

 映画サイト等でも評されていた通り〈異色〉っちゃあ異色なんですけど、だからといって拒絶反応も無い。冒頭に「不思議なエンタメ映画」と述べた理由はこういうところにあるのかもしれません。


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