「土屋鞄製造所」✕「ストウブ」対談 イベントレポート〜後編:リコマースはブランド価値を上げるのか?〜
2023年11月に開催した公開セミナー「リコマース先駆者が語る 企業利益を最大化するサステナビリティ事業の始め方」のイベントレポート、パネルディスカッション部分の後編です。
前回に引き続き、株式会社土屋鞄製造所執行役員でコミュニケーション本部長の三木芳夫氏、「ストウブ」の販売を手掛けるツヴィリング J.A. ヘンケルスジャパン株式会社DTC本部長の川越康文氏をゲストスピーカーに、Free Standard株式会社代表の張本貴雄がモデレーターを務めたパネルディスカッションの様子をお届けします。
テーマ2:3年間のリコマース計画のイメージは?(中編続き)
ユーズド品回収は宝探し
張本:土屋鞄さんでは現在も、オンラインとオフライン、両方で回収を進められていますよね。オンラインでの回収と店舗での回収の間で、エンドユーザーから伝わる思いの違いを感じることはありますか?
三木:これがまた不思議な話がありまして。店舗にユーズド品を直接届けていただく場合は対面なので、会話が生まれやすいイメージがあると思います。ところが当社の場合は、オンラインで回収に応じてくださったお客様からも、お手紙を添えてくださるような熱量があったりするんです。「手間をかけてきた製品なので、次に使われる方にこういう風に使っていただきたい」であったりとか、我々に対する感謝を綴ってくださったりだとか。この取り組みをやってよかった、と思えた出来事でしたね。
張本:そうしたお手紙は、修理を担当される職人の方たちにも届けられるわけですよね。
三木:もちろんです。回収を担当するのは社内のカスタマーサポートのメンバーなんですが、彼らにとっては宝探しのような感じになっています。懐かしの製品を見つける喜びだったり、お手紙が入っているかもしれないと探す楽しみだったり。本来であれば事務的な作業であるところが、社員にとってもブランドエンゲージメントが上がるようなものになっていると感じています。
張本:この3年間で、リコマースに関わる社内の人員がどのように増えていったのか、そしてどのような役割の方が増えていったのかをお聞きしたいです。
三木:修理を担当する社員は増えました。回収した製品を修理するだけでなく、色を入れたりして仕立て直すとなると技術がいるので、そうした技術を持つ人員を採用することはしています。一方、回収して再販するまでのオペレーション部隊については、3年間で徐々に慣れてきたこともあって、人数は変わっていません。
張本:ブランドがリコマースを社内に浸透させていく際に、店舗スタッフの方とのコミュニケーションやリレーション作りが課題に上がることも多いと聞いています。各店舗での対応を標準化する必要性などが背景にあるようですが、土屋鞄さんの場合は、店舗での引き取りを開始するにあたって気をつけていたことはありますか?
三木:リコマース事業を始める前から、ちょっとした製品の手直しを店舗でやる、という取り組みを内々でやっていました。最近はそれをよりオフィシャルに、各店舗で技術として高めていくための呼びかけや取り組みを、販売員を対象に行っています。
お客様が長く使うためのクリーニングや修理を望んでいることを、販売員たちに広く刷り込んでおいたことが、後々に効いてきているんじゃないかと思っています。
現在はお持ち込みいただいたものは全て回収して、ほぼそのまま出せるのか、リニューアル品として出すのか、修理してもどうにもならないか、3段階くらいに分けて整理しています。
張本:ストウブさんはまさに今年、始められたばかりです。今後3年、どういった未来を描かれていますか?
川越:とにかく赤字にならないように、ですね(笑)
繰り返しになりますが、弊社ではリコマースはCRMの側面が非常に強いと思っています。回収自体は2023年12月から始まりますが、既に全店舗に対して、この取り組みの接客への活かし方を指導したり、セールスティップスなんかも作り始めたりしてます。
収益を上げていくことよりも、リコマースを通じて得られるものを社内でどう活かしていけるかを考えて、2024年も通年で取り組んでいこうと思っています。なので、具体的な商品の回収目標をガチガチに固めるようなことはしない方針です。
張本:ストウブさんでこれから回収を始めるに当たって、お客様の認知を上げる施策については、どのように考えていますか?
川越:弊社はアウトレットを含めると国内に40の直営店舗があるので、これらを中心に発信していこうと思っています。また、ショッピングモールやディベロッパーといった主体も、こうしたリユースなどの取り組みに興味を持って取り組んでいるようですので、うまく組める相手を見つけてロビーイベント等を積極的にやっていこうと考えています。
実は、ストウブの購入を断るお客様の理由で非常に多いのが、「もう持っていて、これ以上買えない」というものなんです。そういった時に、お客様の目につくような場所に「引き取ります」と掲示してあったり、接客中の自然な会話の中で提案したりすることで、スムーズに誘導できる流れができていくといいな、と思っています。
張本:土屋鞄さんであったようなヘッドカウントについての議論はされていますか?
川越:基本的には、リコマース事業専属でのヘッドカウントは考えていません。リコマースという枠組みを、社内の色々な部門がどのように利用していくか、というのによってくると思います。例えば、オフライン・オンラインを問わずCRMを担当の人間が、「ストウブセカンドライフ」を使って施策を考えていくかもしれないですし、ブランドマーケティング担当も然りだと思います。
張本:先程、黒字にならないまでも、赤字でなければ事業を継続していく、というお話がありました。これを紐解くと、回収数と販売数のバランスが、事業継続の「肝」と言えると思うんです。定常的に商品を集め続ける仕組みであったり、商品を販売しつつ次のやり取りにつなげていく仕組みづくりが非常に重要になってくるはずですが、そういったことを見据えたエンドユーザーとのコミュニケーションについて、どのようなことを考えていますか?
川越:まさにそこは、一番頭を悩ませているところです。
お客様の中には一定数、今使っている商品を新しいものに取り替えたい方がいらっしゃいますし、コアユーザーであれば、新商品をどんどん買ってSNSに投稿していきたい、という需要もあります。リコマース事業がこうした事情でいらなくなった商品の受け皿になれるというコミュニケーションは、定期的に行っていきたいと思っています。
回収が進まなければ、リユース品に注目しているお客様からも飽きられてしまいますし…重要なだけに、色々と頭を捻っている部分です。
テーマ3:リコマースはどのようにブランド価値を上げるか
張本:3つ目、最後のテーマに移ります。「リコマースが、どのようにブランド価値を上げるのか」という問いです。
ブランドとしての商品価格を考えると、新品購入よりもお得に購入できる一方で、セールやアウトレット品との価格面での棲み分けが必要になる、という意見もあります。また別の視点で、既存のお客様との関係づくりや、新たな顧客層にリコマース製品をお届けしていくなど、顧客に対してどのような価値をもたらすものとして考えているか、お聞きできたらと思います。
三木:土屋鞄の場合は、リコマースの取り組み自体がブランドの輪郭を際立たせる企画とあらかじめ設定して進めているので、あまりブランド毀損の側面は考えずに展開できています。
既存の顧客を詳しくみると、コアユーザー層は概ね40・50代の方です。年を経るにつれ、ブランドとして若い世代にリーチしにくくなるうえに、昨今の値上がりを受けて、若い方から益々手が届かないブランドと認知されていってしまう懸念があります。
今回、リユース品をいくつか店舗で販売していますが、やはりこういう取り組みをしているからこそ「買いに行きたい」と若い人たちに思ってもらえる、というのはあると思っています。
カスタマージャーニーにリコマースという選択肢を増やす
張本:実際に、セカンダリーのアイテムを購入していくのは若いお客様なんですか?
三木:そうですね。通常の新品販売における若者のセグメントより多いです。例えば、当社のランドセルを購入して使っていたお子様たちが、大学生になって初めての革製品を買いにリユースの店舗に来てくださる、といったことが最近起こっています。
川越:弊社の場合、リコマース事業そのものというよりも、我々自身がセカンダリー製品に関するメッセージを発信することがブランドの価値を守ることにつながっている認識です。そもそも別のセカンダリーマーケットが世の中に存在している中で、ちゃんとストウブとして自社のユーズド品を仕立て直してお客様に送り届けていることに意味があると思います。
張本:今後、新品を購入していくいわゆる一次流通のお客様と、ユーズド品を購入していく二次流通のお客様との関係性に、何か変化があると思いますか?
川越:お客様をよく見てみると、オンラインショップで買う方、店舗で買う方、アウトレットで買う方がそれぞれにキレイに分かれているのではなく、色んなチャネルを行き来していることが分かっています。新品のアレが欲しい、となればオンラインショップにアクセスし、在庫がなければ直営店に行く、お安めの掘り出し物を探してアウトレットに行く、という具合です。
そうした選択肢の中に、リユース品を組み込む。チャネル同士のバッティングを気にするのではなく、全体のカスタマージャーニーに組み込むというイメージだと思います。
休眠顧客を呼び戻し、LTVを高める効果を確認
張本:最後の質問になります。三木さん、リコマースに取り組む3年間で、ブランドのLTVがどう変化したのか、伺えますか?
三木:LTVは上がっていて、体感はもちろん、数字にも現れてきています。過去のロイヤルカスタマーが所謂「休眠」状態になっていたのが、リコマースの取り組みを打ち出したことによって戻ってくる、といったことが確実に起こっています。
ユーズド品を出してクーポンを使っていらっしゃる方は、顧客単価が一般の約1.5倍と高い結果が出ています。さらには、ロイヤルカスタマーが自分のユーズド品を回収に出してクーポンを受け取ると、新商品が投入されるタイミングで、通常以上の購買をしていく現象が起こっている。それこそ、お一人で10万円、20万円のレベルです。
ここにも、リコマース事業がお客様の購買意識を変えるうえで、非常に意味があるのではないかと見ています。
張本:面白いですね。リコマースが商品の循環だけでなく、休眠ユーザーや新品購入から離れていた顧客を、循環させる取り組みにもなっているという。
三木:そうなんです。ロイヤルカスタマー向けのイベント会場にリユース製品をおいて販売をしたりだとか、お客様の選択肢を広げるという意味でも、非常に面白い取り組みなんじゃないか、と思っています。
張本:ありがとうございます。最後にお2人から、今後リコマースに取り組まれる方に向けたメッセージをお願いします。
三木:ありがとうございます。リコマースをこの数年やってきて、一次流通のブランドにとって非常に意味がある取り組みだと感じています。ブランド価値が上がり、LTVも上がり、お客様にとっての選択肢が増える。そういう意味では、経済合理性も担保できるんじゃないかと感じてます。
ただ、自社でやるのはめちゃくちゃ大変です。回し者ではないですが、リテーラーで提供しているサービスはブランド価値を高めるサポートをいただく非常に良いサービスだという気持ちでいます。
川越:ブランドの担当者レベルですと、リコマースのハードルを高く感じている方もいらっしゃると思いますが、フリースタンダードさんがサポートしてくれますし、知見も持っていますので、頼れる存在がいると知っていただきたいです。
会社としてのサスティナビリティやSDGsは、本社レベルでずっと話してきたことです。担当レベルで言えば、「お客様が求めていることに応える」ことに尽きると思います。リコマースの取り組みがお客様が求めているものにフィットしているなというのはひしひしと私自身も感じています。この先、市場が形成されていくことを楽しみにしています。