ドイツ本社からは、反対された。 それでも、ストウブが『ブランド公式リユース』を始めた理由とは?
1731年にドイツで創業したツヴィリング J.A. ヘンケルスは、創業250年を越える、世界で最も古いブランドの一つです。ナイフをはじめとするツヴィリングの家庭用品のブランドラインに加えて、フランスの鋳物ほうろう鍋ブランド"ストウブ"などキッチンウェアを取り扱っており、100カ国以上に展開しています。
日本法人が、その中のブランド"ストウブ"で2023年にスタートしたのが、ブランド公式でのリユース品の収集と販売。すでに熱狂的なファンも多く、順調に店舗展開も進めている中で、リコマース事業を開始したのはなぜだったのでしょうか。同社の代表取締役であるアンドリュー・ハンキンソン氏に話を聞きました。
ファンに支えられているブランドだからこそ、『買い替え』の効果は大きい。
ーー本日はよろしくお願いします。グローバル企業であるツヴィリング社の本社はドイツにあるそうですね。ヨーロッパはサステナブルな取り組みへの熱量が高いイメージがありますが、これまでも商品を循環させる取り組みを行ったことはあったのでしょうか?
ありました。EUは「サステナビリティ」という観点で言うと世界でも最先端です。本社からのリクエストも多いので、常にサステナブルな取り組みを検討、強化しています。
今回のような循環型の取り組みでいえば、10年ほど前から包丁のリサイクルを行っています。包丁って、どうやって捨てればよいのか迷うじゃないですか?日本の場合は特に、親から子へ受け継がれていく文化もあるので、なおさら捨てづらいですよね。だから、岐阜県関刃物産業連合会が行う「刃物供養祭」に毎年参加し、使わなくなった包丁を神社で供養した上で、新しい鋼材にリサイクルする取り組みを始めました。
実は、一度ステンレス鍋のリサイクルもやってみたんですよ。でもこれが大失敗でして・・(苦笑)最初はアウトレット店舗で回収しようと思ったのですが、持っていくのが大変だというお声を頂きましたし、次に住宅街で集めようとしたのですが、皆さん、鍋の焦げや汚れが恥ずかしいとのことであまり持ってきてもらえなかったんです。
ーー過去様々な取り組みをされていたのですね。ステンレス鍋では失敗したとのことですが、今回、なぜストウブでチャレンジしようと考えたのですか?
「リユース商品の再販ニーズはあるだろう」という仮説からです。
「リサイクル」と「リユース商品の再販」はまた意味合いが違ってきます。ストウブはありがたいことにファンが多いブランドです。Facebookに『ストウ部』というファンサイトがあり、1万人以上の方が日々ストウブ愛を投稿してくださっています。
これだけ愛用者がいる上、最近では中古品の販売サイトなどのマーケットプレイスでかなり販売されてきていることも見てきました。私たち自身、アウトレットモールで「完璧ではない状態であるものの、その分安い商品」を販売していますが、とても好評を頂いています。
そういったお客様の消費動向をふまえると、他社が行う一般市場中古販売マーケットよりもマーケットでの販売よりも、「私たちが商品状態をちゃんと確認してキレイにしているものを販売している」そういった安心感を提供できたら、お客様も喜んでくれるのではないかと考えたんです。
ーー確かに、既存のリユースマーケットやアウトレットモールでの売れ行きを見れば需要は一定分かりますね。一方でアウトレットモールでの販売と比べて、収集やメンテナンスのコストがかかることも事実です。そこはどう考えたのでしょうか?
「リユース販売の儲け」だけを第一義におかないことが重要です。
大前提として、私たちは好循環を作りたいと思っています。現状、日本の消費者は「使わなくなったものは基本的には捨てる」と思っている方がまだまだ多いと思いますが、私たちは、「使わなくなったら、それを欲しいと思う他の人に渡す」という好循環を当たり前にしたいんです。
ストウブは決して安い商品ではありません。だからこそ、アウトレット商品はとても人気があるのですが、さらに安い価格で提供できるなら、これまで「使ってみたいけど価格面で決断しきれなかった」方にも使ってもらうことができるかもしれません。
また、買い替え効果も非常に期待しています。下取りの際、現金ではなくクーポンを発行するのですが、それを使ってストウブの別の商品やツヴィリンググループのナイフやキッチングッズなどを買ってくだされば、事業面で大きな効果があります。ストウブはファッションほど沢山の新商品を出すわけではないですが、異なる形やサイズ、色など、新たな製品を常に出しています。ストウブを好きなお客様は、色々試したいと思っているので、そのお客様に下取り、買い替えの機会を提供できるのであれば、ファンへのサービスの一環にもなります。
ーーストウブでのリコマース実現に向けては、グローバルで管理をしているドイツ本社の承認も必要だったかと思います。ドイツ本社はどのような反応だったのですか?
最初はダメと言われました(笑)
ーーえっ、、、ダメだったんですね(笑)
リユースを行うと「新品販売とのカニバリゼーションが起きてしまうのではないか?」というのが反対された一番の理由でした。
ツヴィリンググループは、全体で見ると「ストウブ」よりも「包丁・ナイフカテゴリー」の方が売上規模が大きいのですが、ストウブ発祥の地であるフランスと日本だけは、「包丁・ナイフカテゴリー」よりも「ストウブ」の売上が大きいんです。それだけ重要な日本マーケットだからこそ、グローバル本社としてはリスクへの抵抗感があったのだと思います。
もちろん実際に成功するかどうか保証があるわけではないですが、トライすべきだと考えていたので、何度も説明して、『ファンの買い替え効果』や『新しい顧客層の開拓』といった価値を伝えて理解してもらいました。
ーーなるほど。新品販売とのカニバリゼーションについては、多くのブランド様も心配になる点だと思います。この部分については、率直にどうお考えですか?
そんなに大きな影響はないと思っています。
特に日本は、消費者にとって最初の選択肢は『新品を購入する』ことです。ただ、市場規模が大きいので、いろいろな消費者がいらっしゃいます。「噂は聞いたことがあるけど、どんな商品かわからないから試したい」という方もいるでしょう。
それに、そもそも私たちが公式リユースを「やる」「やらない」に関わらず、今すでに二次流通マーケットはあるわけです。新品販売への影響が出るなら既に出ているはずで、そこに公式リユースを立ち上げたらその影響が急激に大きくなるとは考えにくいですよね。だとしたら、あまり心配しなくてもいいだろうと考えています。
また、グローバルで見れば高級ブランドはリサイクルだけでなく、リユース販売もしています。ロレックスは最たる例で、自社で本物証明や保証をつけてリユース販売をしていますし、ルイヴィトンやコーチ、クロエなども行っています。これからどんどん当たり前になっていくはずです。
日本の市場規模は大きい。ストウブを欲しいと言ってくださるお客様は沢山いる。そこにリスクを上回るチャンスがあると思っています。
お客様が新品を買う時の安心材料としての公式リユース
ーー公式リユースを行う上で、パートナーにRetailorを選んで頂けたのはなぜだったのでしょうか?
公式リユースプロジェクトを実施しようと思い、検討を進めていけばいくほど、「大変そうだな、実現できるだろうか?」と感じていました。そんな時、日経クロストレンドの特集を見てRetailorの存在を知ったんです。
一番のポイントは、ワンストップでお任せできる点でした。
実は、他にも2社ほど話は聞いたんです。他社さんは部分的にはお任せできるものの、私たちで実施しなければならないことも多かったんです。一方、Retailorはシステムに加えて検品やメンテナンス、撮影に至るまで、オペレーションも全てワンストップでお願いできるので、とても実行可能性を感じました。
Free Standard社のメンバーの過去実績も説得力につながりました。ファッション領域の経験が豊富なので、かなり細かい業務に対応していたはずですし、多くの物量オペレーションを推進していたことからも、お任せして大丈夫そうだなと思いました。
ーーありがとうございます。大変光栄です。いよいよプロジェクトが始まるわけですが、期待する成果はどのようなものでしょうか?
色々ありますが、一番はお客様からの良い評判ですね。数値的に「◯個売れた」というものではなく、ポジティブな声が出てくることが重要です。
既存のお客様は「価格は理解しているので、百貨店で新品を買いたい」という方が圧倒的に多いのが現状です。一方で、若い方は「ストウブという名前は聞いたことがあるものの、価格が高そう」というイメージを持っている方が多いので、「ストウブがこの価格で買えるのか」と驚いてくれるのではと思います。そういったお客様が年齢と共に将来新品を買ってくれるようになっていけば成功です。
今のストウブファンは40代〜50代が多いですが、20代〜30代のお客様との新たな接点になるかもしれません。チャンスは大きいので、初年度から利益を求めすぎるのではなく、良い兆候が出るかどうかに期待しています。
ーーお話し頂き、ありがとうございました。最後に、公式リユースを実施しようか悩まれているブランド様にメッセージをお願いします。
公式リユースを行うことは、お客様が新品を買う時の安心材料にもなります。商品が、もしお客様の期待通りではなかった時に、売る場所があれば、もっと安心して買って頂けます。そして私たちも、引き取った商品を捨てるのではなく、再販できるのであれば、利益の観点から見ても持続的な活動と言えます。
日本ではまだ前例が少ないので、迷う気持ちはよく分かります。でも、消費者、社会、そして地球と、皆が期待している取り組みなので、思い切ってトライしてみてはいかがでしょうか。
■Free Standardについて
Free Standardは、ブランド、メーカーが自社リコマースを立ち上げることを支援するサービス『Retailor(リテーラー)』を提供しています。リコマースを本格的に立ち上げる上で必要なスキームの設計からオペレーションの運営に至るまで、シンプルでローリスクな形で実現可能です。
事例も豊富にございますので、お気軽にお問い合わせください。
また、noteにも他事例を載せておりますので、ぜひご覧ください!