2日目のカレーと、奇跡のいちにち。
9月11日(水)
今日は、職場まで電車通勤だった。
電車に乗るといつも、そこにいる皆んなの様子が気になってしまうんだよね。今日も例外になく目の前に座る男性ふたりがすぐさま目に入った。若者だった。二人とも綺麗な金髪で、目立っていた。(私も金髪だけど)
というのも短髪の彼はgood better bestと書いてあるエッチなイラストのTシャツを着ていて、眉毛が太くガテン系っぽい顔つきだったし、もう一人の彼は金髪マッシュヘア。頭に負けない蛍光イエローの派手なTシャツを着て、半ズボンに足元はハイソックス。鞄にはシルバーでハート型のキーホルダー。原宿系を目指しているのか、金髪のふたりは友達なのか、これから出掛けるようで何度も乗り換えを確認していた。どこか抜けきれていない県民感がよかったよ。
それから端に座る女子高生もいたね。彼女はギャル風メイクに短いスカート、ニキビが多めで、いわゆるその時にしかない青い空気を纏っていた。あの時間なら学校には完全に遅刻だ。ちゃんと学校に向かっていたのだろうか?そのままどこか知らない街で、ほんとうに怖い世界に踏み出しそうな危うさのある少女だった。そして隣に座っていたのはサラリーマン。彼はとても綺麗めのスーツに綺麗めのキャリーケース。きっと働き盛り。でも眠りに落ちる顔は少年のまま。がくんがくんと傾いてうたた寝する様子に、私も真似をしてまぶたを閉じた。
そんな風に、なんてことない人間達が目的地に向けてどんどん流れていた。変わり映えのない景色、いつもの街、お決まりの通勤だった。ただそれは、とんでもない幸福の中にあったんだけどね。
というのも当たり前だけど、それぞれの今日には様々なストーリーがあったんだよなって。友と旅に出る人がいれば、恋人と喧嘩をする人がいて。初めてセックスする人がいれば、浮気された人がいて。学校をサボる人がいれば、熱心に勉強する人がいて。誕生日ケーキを囲んだり、親から殴られたり、愛犬を抱きしめたり。私にとってのありきたりな1日は、誰かにとってのどんな1日だったのか。ふと思った。そういえば今日は9.11だった。
浮き沈みがあろうが、いつもの毎日が続くことは世界一の奇跡なのだろう。
6歳の息子に「9.11」の話をして「世界中がショックを受けたニュースだったんだよ。皆んなしばらくの間はとても暗くなったんだ。」と伝えたら彼は言った。「そんな悲しいニュース、テレビで流さなければいいのに。」
彼は他人の死を悼む感情はまだない。
だが人々が「悲しむ」ということがどういうことなのか、シンプルな答えはわかっているんだね。その話をしている間、私だけ涙ぐんでしまった。人を悲しませることも、勝手に命を奪うことも、本当に良くないよね。
夜ご飯はまた、昨日に引き続きカレーだった。いつも少食でご飯を食べる時間が億劫な息子。だがカレーはやっぱり好きみたいで、珍しく何度も何度もおかわりしてくれた。彼はたくさんたくさん食べてくれた。彼は言った「ママ、このカレー、上手くできているね!」
私は可笑しくて「ありがとう」と微笑んだ。
目の前にはいつも奇跡の連続が起きている。そんな気がした。
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