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子どもの将来の人間関係は3歳までの親子の絆で決まる
この記事の結論は、3歳までの親子関係が子どもの人間関係構築力の基盤を決めるということ。つまり、子どもが将来人間関係でつまずかない力を育むために、親に与えられた時間はわずか3年間しかないという話をします。
この記事の内容は、イギリスの精神分析家、ジョン・ボウルビィの愛着理論にもとづいています。3歳までのお子さんを育てているママやパパ、これから子どもを迎える家庭の方々にぜひ読んでいただきたいです。
なぜ3歳までに将来の人間関係が決まってしまうの?
なぜ3歳までに子どもの将来の人間関係が決まってしまうのか。
その理由は、幼少期に養育者との愛着形成を通して、人間関係の「基本的な型」が作られるから。この基本的な型は、生後3歳前後までにほぼ固定され、その後の人生における対人関係の土台となります。
愛着とは、子どもが何らかの理由で特定の人物にだけ求める触れ合いのこと。
愛着行動とは、子どもが愛着対象(主に養育者)に近づいたり、その接近を維持するために示す行動の型のこと。その目的は、子ども自らによる安全や安心を確保するため。条件や環境によって行動の型は変化する。例)吸う、後を追う、泣く、微笑む など
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子どもは養育者(主に母親)を通して他人とのコミュニケーションを学ぶ
およそ3歳までに、コミュニケーションの「基本的な型」が完成する
2.の型は、大人になっても維持される。変えるのは難しい
つまり、養育者との関係が、子どもにとってその後の人間関係の「見本」となるということ。
もしあなたが親であれば、子どもとの関係がそのまま将来の子どもの他者との関係に引き継がれるのです。信じがたい話かもしれませんが、これが本当なら、親としての責任は非常に重大だと思いませんか?
人生の悩みを減らす鍵は「安定した愛着」
人生の悩みの多くは「人間関係」に起因しており、人間関係で悩む人は少なくありません。しかし、ボウルビィの愛着理論によれば、親から安定した愛着を持つ子どもは、たとえ人間関係につまずいたとしても、自分の力で対処する力を身につけるといいます。
安定した愛着を持つ子どもの特徴
親がそばにいなくても安心して過ごせる。
自分で問題を解決する力が育つ。
他者を信頼し、協力的な態度を取ることができる。
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さらに、母親が子どもの気持ちに寄り添い、感受性豊かに育てられた子どもは、3歳という早い段階で、周りの人が考えていることや行動の理由を理解する能力が発達していることがわかっています。
母親によって感受性豊か(sensitively)に育てられた子どもにおいては、自分と密接に関係している他人の目標や動機を分析する能力が、すでに3歳時において十分に発達していると結論づけている。これらの発見事実は、(略)心の内部状態を自分自身や他人のものに帰することは、宇宙の特質を私たちの周りの世界に帰するのと同様に自然なことである、という考え方を指示するものである(Premack and Wodruff,1978)。
一方で、親の対応が感情的だったり、否定的な言葉が多い場合、子どもは「他人を信頼しても無駄だ」と感じるようになり、人間関係の基盤に悪影響を及ぼします。そのため、親が子どもを積極的に援助し話し合いで解決する姿勢を見せることは、子どもの人間関係の土台を形成する上で重要です。
安定した愛着の子どもの持つバランス感覚
安定した愛着が育った子どもは、自分の行動や感情を「ちょうど良いバランス」でコントロールできることが多いと言われています。
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ボウルビィは、このような子どもの特徴を説明する際に「自我制御(エゴコントロール)」と「自我弾性(エゴレジリエンス)」という二つの概念を唱えています。
自我制御:自分をコントロールする力
自我弾性:環境や状況に合わせて柔軟に対応できる力
つまり、安定した愛着が育った子どもは、適度な自我制御と高い自我弾性を持つ可能性が高いということです。
彼らは養育者との信頼関係の中で「安心して自分を表現できる」経験を積むことで、自分の感情や行動を適切にコントロールし、環境に柔軟に対応する力を養えたといえます。
子どもに自信をもって自分の環境を探索させ、また効果的に環境を処理させることができるならば、このような経験は子どもの能力を促進させることになる。それ以降においても、もしも好ましい家族関係が持続するならば、初期の思考・感情・行動のパターンが持続するばかりでなく、パー ソナリティも適度なコントロールと弾性をもった形でしだいに高度化され、また逆境におかれてもそのような状態を保つことができるようになっていくのである。乳幼児期とその後の時期の経験が異なったタイプのものであると、 弾性が低く、コントロールが欠け、傷つけられやすいパーソナリティ構造が 形成されることになり、それは持続する傾向がある。したがって、ある人間のパーソナリティがどのように構造化されているかということは、のちの逆境的な状態、とりわけ、拒絶、離別,喪失の状態におけるその人間の反応の仕方を規定するうえにおいて、もっとも重要なものとなるのである。
一方で、不安定な愛着を築いた子どもは、養育者との関係で「安心感」や「信頼感」を十分に得られなかったため、行動や感情のコントロールに偏りが生じることがあります。
過剰制御の場合:自分を厳しく抑え込みすぎる(ストレスを感じやすく、自由に表現できない)。
過小制御の場合:衝動的な行動が多くなる(感情をコントロールできず、周囲との衝突が増える)。
このような子どもたちは、将来の人間関係において「相手に合わせられない」「トラブルが多い」といった課題を抱えることが増える可能性が高いです。
安定した愛着を育む具体的なアプローチ
養育者の立場である人が、安定した愛着を子どもに育んであげるためにできることは、具体的にどんな行動でしょうか。
どのような原因であっても、母親が子どもを拒否したり、離別の脅かしや処罰としての愛情の喪失を暗示したりする場合には、子どもはほぼ確実に、いっそうしがみつくようになる。弟妹の出現や、ある期間にわたる母親との離別は、いずれも独自で不安定な状態をつくりだすし、(略)母子間の相互作用のパターンは急激に悪化する場合も生じる。反対に、母親が子どもをより鋭く感知して扱い、子どもの愛着行動を多く受け入れれば、上述のような行動の強さはいちじるしく減少し、その結果、母親はそのような行動を扱いやすくなる。
上記の情報をヒントに、私なりに子育てで活かせそうなアプローチを考えてみました。
子どもの感情を受け入れる
子どもの感情を否定せず、「そう感じているんだね」と共感的に受け止めることで、子どもに自分の感情を安心して表現してもらう。一貫した反応を示す
養育者が子どもの行動に一貫して予測可能な対応をする。例えば、夜泣きやトラブルにも冷静で優しく対応する身体的なスキンシップを積極的に取る
抱っこや手をつなぐなど、スキンシップを通して子どもに愛情を伝える。子どもの欲求に敏感である
子どものサイン(泣く、微笑む、言葉での訴えなど)をしっかり観察し、適切に応える。肯定的な言葉を使う
「頑張ったね」「一緒にいられて嬉しいよ」など、子どもの努力や存在そのものを認めるような言葉を積極的にかける。怒りや拒絶を表現で使わない
子どもに対して「もう知らない」「あなたなんか嫌い」というような拒絶の言葉を使わない。子どもの独自性を尊重する
子どもの考えや好みを否定せず受け入れることで、一人の独立した人間として扱う。自分の感情をコントロールする
自分の悲しみや怒りを子どもにぶつけないようにする。自分で抱えきれない悩みはパートナーや友人に頼って解消する。
「養育者との離別」は、子どもを不安にさせる要因の一つです。
私は娘と離れる際、たとえ同じ室内であっても、「○○がしたいから、○○をしてくるね」など、理由や用事を説明するようにしています。子どもがついて行きたがるときは手を繋いで一緒に行き、特に反応がなければそっと離れます。少しでも子どもの不安を和らげるためにこのアプローチが役立っていればいいなと思います。
親の性格や状況が影響する場合、どう対応すればいい?
ここで少し、私自身の振り返りをさせてください。
ボウルビィの理論を学ぶ中で、私は自分自身が「不安定愛着の子ども」に当てはまるのではないかと感じるようになりました。そして、「不安定愛着の大人が親になったとき、子どもに安定した愛着を育めるのだろうか?」という疑問を抱きました。結論としては、「不安定愛着の大人に育てられた子どもも、不安定愛着になる可能性が高い」と言えます。
その理由は、3歳までの養育者との関係が将来の人間関係に影響を与えるため、不安定愛着の大人が自分の子どもとの関係を築く際、自分の幼少期の経験を無意識に再現してしまうことが多いからです。
私は3歳以前の記憶がほとんどなく、自分が母に安定した愛着を育まれたのか確かめることはできません。ただし、3歳以降の母との記憶や、その後の人間関係を振り返ると、自我制御や自我弾性が十分に育っていないのではないかと感じています。
母のことは好きですし、家庭環境も経済的に恵まれていたと思います。しかし、振り返ると「どんな相談も母が受け入れてくれる」という安心感や、「どんな失敗をしても暖かく包み込んでくれる」という信頼感は薄かったと感じます。特に3歳以降の苦い記憶が鮮明に残っており、その当時の場面や母の言葉が今も頭に浮かびます。
この経験は、現在の私の人間関係にも影響していると感じます。他人を信頼することが難しく、「どれだけ尽くしても満足してもらえないのでは」と不安に駆られることがあります。夫や娘に対しても、「なぜ私の気持ちを理解してくれないのか」と思ってしまうことがあり、そんな自分に苦しむこともあります。
それでも、「このままではいけない」という強い思いがあります。過去を直視し、自分を変えたいと考えています。そしてこの振り返りから、私の母自身もまた、不安定な愛着で育った子どもだったのではないかと思うのです。
まとめ
最後に伝えたいのは、完璧な子育てなど存在しないということです。
愛着理論を知ったのは、子育てに悩んでいたときのことでした。娘には、安定した愛着を育んであげたい。親子関係が、その後の人間関係の土台になるからこそ、毎日少しずつでも愛情と信頼を伝えていきたいと強く思っています。
でも、現実はそんなに簡単じゃありません。つい感情的になってしまうこともあるし、自分自身の親との関係が子育てに影響していると痛感することもあります。私の母は少し高圧的なところがあって、幼少期から今でも、母の機嫌を伺っています。その影響からか、他人に嫌われるのが怖くて、人間関係でも自分を抑えてしまうことがよくあります。
それでも、娘には私と同じような思いをさせたくないんです。娘をひとりの人間として尊重して、コントロールしようとしない。それが私にできる第一歩だと思っています。ボウルビィの考えと出会えたのも、きっと自分を変えたいと思っていたからこそ。そして、こうした前向きな気持ちがあれば、これからも必要な情報や気づきが自然と入ってくるんだろうな、と思っています。
愛着理論を知ったことで、私は自分の過去と向き合いつつ、未来をより良くするための行動を少しずつ始めています。親子の関係は、どんな時からでも作り直せるんだな、と感じています。不安定な愛着で育った子どもだったからといって、未来が決まっているわけじゃありません。少しずつ成長しながら、娘と一緒に信頼関係を築いていきたい。そう思っています。
参考にした書籍
この記事で紹介したボウルビィの愛着理論については、加藤諦三さんの書籍を通じて知りました。以下の書籍を含めて全3巻あります。
愛着行動の障害の種類は数多い。(略)過剰な母性的愛撫から生じる障害はあまり一般的ではない。これは、子どもが愛情や関心に対して強欲なために生じるのではなく、母親が子どもに対してもつ愛情や関心を注ぎたい衝動のために生じる。過剰な母性的愛撫をもつ母親は、綿密に観察すると、子どもから手掛りを得るかわりに自分自身が率先してすべての活動を行なう母親である。このような母親は、子どもの身近にいたいと望み、子どもに対する関心で心は一杯であり、子どもを危険から守ろうと気を使い過ぎる。それはちょうど、食べすぎの子どもの母親が、子どもに食物をたくさん与えたい と主張する場合と同じである。
第Ⅱ巻、第Ⅲ巻では、このように振舞う親たちの不幸な結末について、より多くのことが説明されている。これらの場合、通常、愛着一養育行動の関係は逆の結果に終わっている(第II卷第16章,第18章および第Ⅲ巻第11章, 第12章,第19章参照)。
多くの種類にわたる愛着行動の他の障害は、過少あるいは過剰な母性的愛撫に原因するのではなく、子どもがそれまで受けてきたり、あるいはそのとき受けている母性的愛撫のパターンにみられるさまざまな歪みに原因すると考えられるのである。本書は愛着行動の精神病理学をさらに深く追究する場ではない。そしてそれを短評によって簡潔にのべることはかえって誤解をまねくことになるであろう。
養育者が子どもを可愛がるあまり、いつも過剰にお世話をしようとしすぎると、子どもが自分で何かをする力が育たなかったり、逆に不安になってしまうということ。そんな不幸な結末とやらについて綴られた第2、3巻の内容もいつか記事にまとめたいです。
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