🔶私の好きな奈良：橿原神宮初代神武天皇を祀るための国家事業として創建

PISIA

2025年2月2日 06:02

2025年も早や１月が経過しました。
今年の初詣ではどんなことをお祈りしましたか？

奈良県で初詣の参拝客が多い二大寺社といえば、一つは奈良市の春日大社ですね。
ではもう一ヶ所は？　そう、橿原市の橿原神宮です。
大和三山の一つ、畝傍山の山麓にあります。

奈良県の有名な社寺と言えば、多くは奈良時代以前の昔に創建されていますね。橿原神宮もさぞや古い歴史をもつ神社だろうと思いたいところですが、実は創建は1890年です。
まだ出来てから135年ということになります。ご存知でしたか？

でも皆さんも良くご存知のように、橿原神宮は初代天皇である神武天皇を祀る神社として創建されていますので、とても古い由来を持つことになります。

毎年2月11日に行われる紀元祭を控えたこの時期、橿原神宮と、その近くにある神武天皇陵について、創建の経緯を含めご紹介させていただきたいと思います。

神武天皇の即位年

紀元前660年に、神武天皇がこの地に皇居を造って即位したというのが始まりとなっています。

これは「日本書紀」神武天皇元年正月の記述に基づくもので、明治維新後、この神武天皇即位を紀元と定め、グレゴリオ暦の紀元前660年2月11日に比定し、紀元と元号との対応関係が規定されました。
これが以後、公文書などに用いられることとなりました。

ただし、「日本書紀」の記述を信頼し、神武天皇の即位を西暦紀元前660年にあたる年とすることに批判があることは知っておく必要があります。

例えば、江戸時代の学者・藤貞幹（とうていかん）は神武天皇元年は実は600年後としなければ古代韓国（三韓）との年紀に符合しないことを述べています。
また、古事記や日本書紀において初期の天皇の在位年数が不自然に長いこと、放射性炭素年代測定による調査で矛盾が生じること等による反論もあります。

考古学者の寺沢薫氏も、卑弥呼即位を３世紀初頭と見て神武東征・王都東遷が史実である可能性を肯定しつつも、年代は大幅に修正しています。

なお宮内庁が刊行する陵墓要覧では、歴代の天皇・皇族の式年はすべて皇紀を用いて2721年（西暦2061年）まで記載されています。

神武天皇の皇居

神武天皇の皇居について、日本書紀では、皇居を「橿原宮（かしはらのみや）」、延喜式では「畝傍橿原宮（うねびのかしはらのみや）」、古事記では「畝火の白檮原宮（うねびのかしはらのみや）」と記し、万葉集にも「可之波良能宇禰備乃宮（かしはらのうねびのみや）」の名称が見られます。

幕末から明治に天皇陵治定をきっかけに宮跡保存の機運が高まり、明治天皇の勅許により奈良県が「高畠」と呼ばれる地を橿原宮跡として推定し、買収しました。現在の外拝殿前広場のあたりになります。

太古の昔（1万年前～ 2500年前）には、奈良盆地は「奈良湖」という湖であったことがわかっています。約2500年前に「亀ノ瀬（大和川が奈良県から大阪府へ流れこむ場所）」付近に陥没が起こって水がゆっくり河内湾に排出されていき、古墳時代には消滅しました。

紀元2600年記念事業に伴う発掘調査では、その地下から縄文時代後期から晩期の大集落跡と立木のまま埋もれた橿の巨木が発見され、アメリカのミシガン大学での放射性炭素による年代測定では約2600年±200年前のものとの結果でした。記紀の神武伝承は史実を反映しているという説を支持します。

神武天皇陵

宮内庁により橿原市大久保町の遺跡名「四条ミサンザイ」に治定されており、名称は畝傍山東北陵（うねびやまのうしとらのすみのみささぎ）です。

記紀によると畝傍山の北方、白檮尾（かしのお）の上にあるとされ、壬申の乱の際に大海人皇子が神懸りした際に「神日本磐余彦天皇の陵に、馬及び種々の兵器を奉れ」との神託を受け、神武陵に使者を送って挙兵を報告したと言われています。

天武期には陵寺として大窪寺が建てられ、977年にはこの地に国源寺が建てられましたが、中世以降は場所がわからなくなっていました。

江戸時代初期、水戸光圀が「大日本史」を編纂し始めた頃に、幕府は天皇陵を立派にし、権力を強めようとしました。神武陵の場所については意見が対立しましたが、最終的には1863年にこのミサンザイに決定されました。

徳川幕府が15000両を出して修復し、同時期に神武天皇陵だけでなく、百余りの天皇陵全体の修復を行いました。これが有名な文久の修陵です。

確証に乏しい陵墓選定でしたが、明治以降には文字通り神格化が進み、畝傍山より東北へ300 m離れた東西500 m、南北約400 mのこの広大な領域が、神武陵として整備されました。
1898年には日清戦争の勝利を記念して整備拡張されています。

神武天皇が崩御された4月3日の神武天皇祭では、山陵に勅使が参向して奉幣を行なっています。また皇居では、歴代天皇・皇族と共に神武天皇の霊が祀られた皇霊殿で、今上天皇自らが祭りを執り行っています。

橿原神宮の創建

1863年に中世以降不明となっていた神武天皇陵が治定されると、橿原宮を特定するための調査が開始されました。内務省、奈良県、宮内省らの実地検分の後、「神武天皇橿原宮旧跡」として宮内省が土地を買収し、保存することになりました。

初代天皇である神武天皇の宮があったとされる橿原の地に、神武天皇と皇后の媛蹈鞴五十鈴媛命（ひめたたらいすずひめのみこと）を祀るための神宮を創建することを民間有志が請願し、感銘を受けた明治天皇によって1890年4月2日に官幣大社として創建されました。

京都御所の内侍所を移設して本殿、神嘉殿を移設して拝殿（神楽殿：焼失後再建）としました。1911年から拡張事業が始まり、1921年には帝国議会で「伊勢神宮や明治神宮と比べて小さすぎて尊厳を保てない」との建議が可決され、周辺住民は住居を移し、創建時の1.5倍以上の面積を占める様になりました。

1940年、日本は皇紀2600年という節目の年を迎え、神武天皇を祀る橿原神宮は、紀元二千六百年記念行事の中心となる神社でした。これにあわせて国を挙げて大規模な社殿や境内の整備が行われました。

外苑の建設には全国から勤労奉仕者が集められ、約122万人が参加したといいます。
作家の黒岩重吾氏も、著書「古代史への旅」の中で、自らが中学生の時にこの神宮外苑の拡張工事に従事し（させられ？)たことを綴っています。

この体験談自体はごく数行ですが、この本は多数の歴史小説を書かれた黒岩氏の豊富な知識をもとに書きつづられた歴史エッセイで、大変面白い内容ですので、興味のある方はご一読ください。

外苑の設計には、明治神宮の造営にも携わった田阪美徳氏の考えが反映されています。入り口から社殿が見通せてしまう直線の参道ではなく、直線と曲線を交えて境内をより広く見せる様に設計されたとのことです。

橿原神宮の造営は、明治神宮で培われたノウハウを発展させて行われたもので、神社のみならず周辺一帯の都市計画とともに進められました。
隣接する土地に運動場や野外公演堂などが造られたり、道路のデザインや鉄道駅の統合に至るまで、近代的な技術も取り入れて行われた様です。

橿原神宮の境内

約53万平方メートルの広大な敷地になりますので、全体図は神社のホームページを参考にさせていただきます。

橿原神宮境内図　https://kashiharajingu.or.jp/point

アクセスは、鉄道だと橿原神宮前駅から歩いて5分程度で第一鳥居に至ります。鳥居脇に駐車場も整備されています。

第一鳥居からは表参道が約300ｍまっすぐ続いており、両側には樫の並木が続いています。第二鳥居を過ぎると、手水舎、南神門に至ります。

南神門を抜けると、大きな外拝殿（げはいでん）が見えてきます（タイトル写真）。
外拝殿には、大絵馬が掲げられています。
その年の干支が描かれ、毎年11月末には次の干支へと変わります。

橿原神宮の拝殿は、内拝殿の左右に廻廊をつけ、前方へ外院斎庭（げいんのゆにわ）を囲んで外拝殿を置く「二重拝殿型」となっています。これは大規模神社の祭祀のため、近代に建築された神社に適用されたものです。

内外の両拝殿とも紀元2600年を奉祝して建造された豪壮な建築です。

通常参拝は外拝殿から行いますが、2月11日の紀元祭には全国からの崇敬者が外院斎庭に列するほか、初詣期間中は内拝殿前まで進んで参拝できます。

内拝殿では紀元祭などの祭典が執り行われるほか、正式参拝や神前結婚式も行われています。

本殿は、1855に建造された京都御所の内侍所を、橿原神宮創建の際に明治天皇より下賜されたものです。
幣殿も紀元2600年を奉祝して建造されたもので、紀元祭では勅使が御幣物（ごへいもつ）を奉献します。

外拝殿の右には、当時の美智子皇后陛下の歌が刻まれています｡

「遠つ世の　風ひそかにも聴くごとく　樫の葉そよぐ　参道を行く」
ふと遠い歴史の彼方から吹いてくる、ひそやかな風の音を聞くようなお気持ちで､樫の葉のそよぎを聞かれつつ参道をお進みになった、そんな情景を詠まれたものです。

北神門は、もとは正門として建造されていましたが、紀元2600年の際に北神門として現在の位置に移築されました。

この門を抜けると、木立に囲まれた北参道から北の鳥居へと続きます。

ずっと日本で暮らす私たちは意識しにくいですが、当たり前に毎年初詣をしたり、おみくじを引いたり、山や木、水などの自然物に神の存在を感じたり、といった日本人特有の国民性は、神道への信仰が大きく影響していると思います。

日本神話の内容が事実であったのかどうかについては、恐らく科学的な調査や分析の方に分があると思いますが、それはそれと認識した上でも、信仰心を持つことは非常に大切なのではないかと感じます。

いつもながら神頼みで恐縮なのですが、「2025年は、どうぞ良い年であります様に！」

いいなと思ったら応援しよう！

よろしければサポートお願いします！いただいたサポートはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます！