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tukamatter
詠むための一首評の練習(5) - 田に降りてまだ静まらぬ鶴(たづ)むらの白きゆらぎの中に踏み入る/ 岡野弘彦
田に降りてまだ静まらぬ鶴(たづ)むらの白きゆらぎの中に踏み入る
岡野弘彦『天の鶴群』
鶴の群れが稲刈り後の田に降りてきた光景を詠んだものだろう。
降り立ったばかりの群れは「まだ静まらぬ」状態で「白きゆらぎの中に踏み入る」とは、朝靄に包まれた田んぼに踏み入ったというのであろう。幻想的な情景を詠んだ歌である。ここには作者の個人的な感情は含まれず、文字通り情景を描くことに徹しているように見える。「まだ静まらぬ」と動的な情景と「白きゆらぎ」という静的な情景の対比が端正で美しい。
個人的には作者の心情をあまりあからさまに詠み込んだ歌よりも心象風景であれ、実景であれ、情景を詠んだ歌の方が好ましく読める。作者あるいは作中主体の心情に取り残されてしまうのだ。
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「日々のクオリア」の評者は鶴の群れの羽の白さとも、雪が降っているのかも、とも読んでいた。私も最初は群れの色かとも思った。短歌の読みとは、どうやらどうであってもよいらしい。ただ、この短歌によって私に引き起こされたものは評者に近い。
(練習の題材として過去に砂子屋書房のWEBサイトに掲載されている「日々のクオリア」で取り上げている短歌を使わせていただいた。日々のクオリア自体が一首評の記事だが書く前には読まぬようにしている。
誰がどんな歌を詠んでいるのか、初学者にとって歌集を買うのに大変に参考になる記事である)