心の中に引き留められている言葉のカケラを集めて。
おかしいなあ。まったく見つからない。
このあたりに、あるはずなのに…。
わたしは、わたしの声となりうる言葉たちを、自分の見える範囲だけを探していた。
一方、わたしに探されていた言葉たちは、今にも溢れ出しそうなくらいいっぱいになっていた。
わたしの中の何かが、自分の思いを言葉に出して伝えるという行動を、必死に堰き止める。
浮かんでは戻って、行き場所を求めて彷徨うことを繰り返し、わたしに見つからないようにしていた。
これは、noteと出逢う遥か前の、わたしとわたしの声が生きてきた証の物語。
◎
幼少期から身体が弱くて、小心者。
未熟児で、早生まれなことも影響してか、同級生からいろいろな面で遅れを取り、周りと馴染みにくかったわたしが、なんとか生き抜くための方法が、周りと合わせることだった。
自分が好きなものを好きと言えなかったし、周りが好きと言うものを無理に好きになるくらい、自分というものを見失っていた。
学生時代、授業中は、先生に当てられることを極端に恐れ、嫌がった。
慕っている友人と会話する以外は、自分の声を聞くことはなかった。
「できない」「間違っている」と評価されること。
周りから浮くこと。
これらを異常なまでに、恐れた。
おとなしくて、真面目で、いい子でいたかった。
相手の気持ちや空気を読み、自分の意見は飲み込んだ。
結果として、自分の気持ちを、自分の言葉として表現して知るという機会を失い、いつしか自分の声を聴くこともなくなった。
嘘で塗り固められていく自分の言葉たちのことを、心の奥底には確かに存在していたわたしの言葉たちは、よく思っていなかったのだろう。
心の中は、いつもざわついていたはずなのだけれども、わたしから出される本音ではない言葉たちは、いびつな形で、わたしの心を守ろうとした。
月日を重ねていくうちに、このやり過ごし方では、ごまかしがきかなくなっていった。
自分の心にある声と、声として発される言葉、その時の環境が噛み合わなくなるのも必然だ。
わたしの言葉たちは、わたしの心の働きにより堰き止められていた。その言葉たちが表出されないまま、思いが募れば募るほど、余白にも収まらないくらいになって、パンパンに膨れ上がり、ついには弾けた。
一度弾けたら、わたしの中に堰き止められる容量が減り、押し出される頻度が増えた。
この言葉たちは、自分の心にいる方が安全なのだ出という歪んだ自分の価値観を変えることができなかった。
スペースがなく、無理やり押し出されてくる言葉の行く先に悩んだが、結局出し方が分からずに、黙り込むしか答えが出なかった。
時は経ち、社会人になった。
その場の空気と相手の心情を読み、推し量ることや話を合わせることだけは、無意識にできたわたしは、職場の上司から好意を寄せられることもあった。
それ故なのか、運命のいたずらなのか、わたしは事業のマネジメントというポジションに置かれた。
時に、自分の意見を述べなくてはならないし、俯瞰して物事を観る力も、他者だけでなく自分のコントロール力も求められた。
図らずも、わたしの言葉たちと心に向き合うという壁に遭遇した。
苦戦はしたけれども、わたしが幸運だったことは、世間一般で言うマイノリティを受け入れる職場だったことだ。
声を上げられない方の代弁をする。
生きづらさに寄り添う。
社会とつなげていくために、無いものは創る。
自分の意見を一度は受け入れてくれる、という安心感が、その職場にはあった。
安心を感じられる場所で、少しずつ自分を出し始めると、小さくて、か細くも、芯のある心の声に気づくようになった。
「わたしの言葉は、ここにあるよ」という声が、自分の中にこだまして、訴えかけてくる。
好きを知ること。
楽しいと表現できること。
悲しみを机上に置くこと。
怒りを収めるために、自分に優しくなること。
日常は、わたしの中にある大切な言葉たちから生まれていた。
わたしの中で弾けた言葉たちは、失ったのではなかった。
あまりに小さくて、気づくことができなかった、というだけだったのだ。
わたしにとっての声とは、わたしから生まれる大切な言葉たちの集合体でできている。
ひとつひとつの言葉たちのカケラの全てが、わたしを構成するとても大切なものだ。
わたしとわたしの声が生きてきた証は、心の中でちゃんと生き続けてくれていて、迎えに来てもらうのを今か今かと健気に待ってくれていたんだね。
わたしは、声とともに生きてきた証を誇りに思えた。
これからの人生で、再びわたしの声を見失うこともあるかもしれない。
けれど、この証を見つけられたわたしなら、きっと大丈夫だと思える。
どんなに小さくても、見えづらくても。
わたしがきっと言葉のカケラを探し出して、ちゃんと迎えに行って、声にするから。
わたしだけが持つ言葉のカケラの隣を、一緒に歩いていく。
きっと、この先、いつまでも。
◎
(本文:1974字)