ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第20話】再開編③ツール再考「ティラノスクリプトにするか、ティラノビルダーにするか?」
これは、サウンドノベルの持つ魅力に取り憑かれ、「自分でもノベルゲームを作ってみたい」という思いを抱き、終わりのないゲーム制作に足を踏み入れた1人の個人ゲーム制作者の物語である。
Nscripterで人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。コロナ前に作っていたノベルゲーム「アカイロマンション」を完成させることを決意する。Macでノベルゲームを作れるツールを見つけNscripterからの移植を検討し始めた。
「ティラノビルダーにティラノスクリプト……どっちがいいんだろ」
落柿は2つの選択肢を前に悩んでいた。
直感的操作ができるビルダーに、Nscripterでの知識やフォーマットが生かせそうなスクリプト。果たしてどちらが自分にとって使いやすいのだろうか?
…………。
…………。
…………。
「まあいいや。とりあえず両方使ってみよっと☆ミ」
相変わらずの考えなしフッ軽で両方をダウンロードする落柿。
なんとティラノスクリプトは完全無料、ティラノビルダーも無料版が存在する。それぞれを使ってみて判断すればよいだろうと考えた。
「まー、とはいえ自分はNscripterの民! 同じような操作感で作れるティラノスクリプトがたぶん向いてるっしょ!」
前回7年のブランクでNscripterの知識は初期化されているって言ってませんでしたっけ? というツッコミは無視し、落柿は意気揚々とティラノスクリプトをダウンロードした。
「公式ガイドブックもダウンロードして……っと。さあ、今日から始めるティラノスクリプト生活!」
落柿は意気揚々とガイドブックを開いた。
はいはい、メモ帳ね。Nscripterのときもそうだったし楽勝! って今使ってるのはMacだったからメモ帳ないや。じゃあテキストエディットでええやろ。あれ? テキストエディットは対応してない?
さらにマニュアルを読んでいくと、「Visual Studio Code」というエディタがオススメされていた。よし、これを入れるか。ダウンロードダウンロード。エディタってことはメモ帳と同じようにポチポチ書いていけばいいんだろ?
……ん? 日本語化とは? このまま使えるわけじゃないのか?
ええっと、日本語化の方法は……。
…………。
…………。
…………。
はっ! や、やばい脳がフリーズしかけてた。
で、ティラノスクリプトのプラグインをインストール、する……?
ファイルのアイコン化プラグイン……?
…………。
…………。
…………。
脳死で書いてあるとおりに作業を続ける。
「ふう。……読み込み完了したな」
……で? どうすれば?
…………。
…………。
…………。
パタム……。
よっしゃ! ティラノスクリプトはやめたろ!
やっぱ簡単操作のビルダーっしょ!
ええ……。
準備だけで力尽きてしまった落柿は早々にスクリプトでの制作を諦めた。何あの一面真っ黒に文字だけの画面。あんなのできるわけないっしょ。撤退撤退!
※注 Visual Studio Codeの外観はちゃんとカスタマイズできます。
「ティラノビルダーは無料版は機能制限ありか。アカイロマンションは長編ノベルゲームだし制限がない方がいいよな。有償版をポチッとな……っと」
「1,480円。激安! 公式ガイドブックは900円? これもポチってと。よーし今度こそ、今日から始めるティラノビルダー生活!」
意気軒昂たる様子でティラノビルダーを開く落柿。
ティラノビルダーは直感的な操作をうたっているだけあってその見た目はとてもシンプルだった。
「何々、使いたい機能をドラッグ&ドロップするだけ? めっちゃ簡単やんけ! ティラノビルダー、お前は神か? いや、そのような不遜な物言いは失礼であった。ティラノビルダーさま、あなたはもしかして神であらせられますか?」
落柿は神に一祈りを捧げたあとで、早速ドラッグ&ドロップ作業に入る。最初は公式ガイドブックの通りにサンプル素材を使って、基本的な操作を覚えよう。
書いてある通りにコンポーネントを配置して、素材を置いてテキストを打つ……あれ。
ドラッグ&ドロップが……できないんだが?
落柿は気づいた。
うわ……私のパソコン……低スペックすぎ?
愛用のMacBook Airはそもそもゲーム制作用に買ったものではない。本業ではそれほどスペックを必要とする作業はしないため、必要最低限の機能が使えれば十分だと選んだ機種であった。そんなMacBook Airにティラノビルダーは文字通り荷が重すぎたのである。
パタム……。
よし! ゲーム制作を諦めるのをやめてゲーム制作を再開しようとしたことを諦めよう!
うわ……。
あなたの諦め、早すぎ……。
うるさい!
だいたいこんな長いノベルゲームを完成させようとしたことが気の迷いだったんだ! これはきっと神様がそんな大変なことはやめろって言ってるんだ。はい、やめやめ! 終了、解散!!
さっきまでティラノビルダーを神をあがめていたくせに、相変わらず手のひら返しだけは天下一品の落柿。すべてを放棄してゴロリと寝転んだ。
…………。
…………。
…………。
あれ?
そういえば。
落柿は思いだした。
コロナ禍の影響を受け休業せざるを得なかった期間のことを。
その期間が発生したことで収入が一時的に落ち、そのため要件が当てはまった給付金の申請をしたことを……。
そう、当時話題になっていた持続化給付金。落柿はこれに申し込んでいたのである。
そして開業届にはきちんと「個人でのゲーム制作」と書いて出してある。
ということは、(7年間放置してたけど)ゲーム制作も自分にとっては立派な事業……ッ!
この給付金をゲーム事業のために使えばよいではないか……ッ!!
よっしゃ! 新しいMac買ったろ!
こう、ゴリッゴリにゲームが作れるスペックの頼もしい相棒を手に入れるんや!
落柿は今度こそ決意する。
このノベルゲーム「アカイロマンション」を絶対に完成させる……と!
ただその背中は、どう見ても新しいMacを買えることでウッキウキになっている人のようにしか見えなかった──
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