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ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第25話】フェス編①締め切りを設定せよ!〜憧れのティラノゲームフェスを外から眺める〜

これは、サウンドノベルの持つ魅力に取り憑かれ、「自分でもノベルゲームを作ってみたい」という思いを抱き、終わりのないゲーム制作に足を踏み入れた1人の個人ゲーム制作者の物語である。


Nscripter
で人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。7年の休止期間を経てティラノビルダーで制作を再開した。シナリオ書き・スクリプト・音楽発注など少しずつ作業を進める落柿は、まず短期目標を設定するべきではないかという思考に至る。

「この皆が参加せしティラノゲームフェスといふものに、我も参加してみむとてするなり」


急に紀貫之のようなことを言いだした落柿。


ティラノゲームフェス。それはADV・ノベルゲームに特化したゲーム開発イベントである。主宰はティラノビルダー・ティラノスクリプト開発者であるシケモクMK氏。

このフェスの存在がティラノビルダーで「アカイロマンション」を移植しようと思っていた落柿の目に入らないわけがなかった。だって、公式ガイドブックに載ってたし。

「ティラノビルダー公式ガイドブック」より引用


実は、移植を始めた2020年から落柿はこのフェスへの参加を考えていた。ゲーム制作再開宣言をした当時のTwitterの書き込みがこれ。

謎の野田ゲー推しをカミングアウト。


移植開始日が2020年6月24日。ティラノゲームフェスの締め切りは毎年8月末。当初、落柿はこう思っていた。


「3ヶ月あったら……ホラー編だけでも完成させられるんじゃないか?」


カタカタカタ……。
カタカタカタ……。


えーと、タイトル画面作って、


セーブ・ロード画面を設定して、


変数の勉強して、

 書いてあったシナリオをティラノビルダーにコピペして、

あとは残りのシナリオ書きつつ素材を集めてスクリプト書いて……ん?


この時点で2020年7月30日……だと?
ということはティラノゲームフェス2020締め切りまであと1ヶ月……?



…………。
…………。
…………。



「やっぱやーめた☆ミ」


諦めの早さは天下一品の落柿。あと1ヶ月死に物狂いで頑張る、という発想は1ミリも湧いてこなかった。それにそもそも、ティラノゲームフェスというものがどういうものなのか、その全容すらよくわかっていないのである。


「よし、じゃあ目標は来年の2021年のティラノゲームフェスにしよう! 今年はゲーム制作を進めつつ、ティラノゲームフェスがどんなものなのか把握する年にする!」


あと1年あればどうにかなる。そう胸に刻み、落柿はゲーム制作に勤しんだ。

そして秋になり、いつのまにか開催されていたティラノゲームフェス2020。その参加作品数は545


「ごごごごごひゃく……? とんでもねぇイベントじゃねーか!?」


落柿がノベルゲームを作りを始めたのはNscripter全盛期の時代。そしてゲーム制作を再開したのが2020年。どうやら世の中にはフリーゲーム全盛期というのがあったらしいが、社会人になりゲームからすっかり遠ざかっていた落柿はそんなものは知らない。

「ノベルゲームは衰退の傾向にあるってどっかで読んだ気がしたけど……そんなことなくないか?」


ちらりとティラノゲームフェス参加作を覗いてみれば、グラフィックもプロ並みの輝かしい作品がずらりと並ぶ。短編、中編、大長編。そして数は少ないが落柿の好むテキストを主体としたサウンドノベル形式のノベルゲームもちゃんと存在していた。

ノベルゲームゲーム好きが、まだまだこの世にはいるんだ……! みんな、いったいどんなゲームを作っているのかなぁ?」

嬉しくなり、人様のゲームに手を伸ばそうとする落柿。……しかし、その手をぐっと押しとどめたのはもう一人の自分である。


「待て……ッ! 今お前は人のゲームをやってる場合ではないだろう? 今年の参加をやめたとしても、次回の締め切りまではあと1年。まだ膨大に作業は残っているのだぞ? 1年とはたったの12ヶ月ぞ?」

久しぶりに登場したツッコミ役の自分に、「なんかキャラ変してない?」と思いつつ言い返す落柿。

「で、でもほらさ、人様の作品をやってみるのも勉強になるっていうかー。トレンドをつかむっていうかー。刺激を受けるっていうかー」


「ほう……それで?」



もう一人の自分は落柿の反論など想定内だというように余裕の笑みをみせる。そして言った。


「お前がそうやって激烈おもろい神ゲームを見つけたとて、それがお前のモチベーション向上になるとでも? お前の今までの行動からいって、自信を失って地を這い、またエタらせるのが関の山だろうがッ……!」


「…………!!」



くぅぅ。言い返せない。これは言い返せない。
そもそも最初の制作動機は自分で面白いと思うノベルゲームを作って遊ぶことだった。それを人様が作ってくださっているということがわかれば、何も自分で苦労して作る必要もなくなるのである。


「だ……駄目だ……。ティラノゲームフェス……あれは、今の自分が決して手を出してはいけない禁断の果実……。蛇の誘惑に負けてはならぬ! そんなことをしたら、この楽園から追放されてしまうぞッ……!」

そもそもゲーム制作は楽園ではなく地獄寄りでは? という野暮なツッコミはいったん置いておいてください。それはこの先、嫌というほど味わうことになるんで……。

落柿はカイジのようにジタジタと床をのたうち回った。


「ち……ちくしょう! わかったよ! 自分のゲームが完成するまではフェスのゲームを遊ぶのは禁止にしますよ!」

こうして落柿はティラノゲームフェス2020年を、そっと外側から眺めることに決めた。


「わぁ……フェスに参加すると、コメントを書いてもらえることが増えるのかぁ。いいなぁ……」

ダイア玉ブースト? コイン? なんだろそれ、面白そうだなぁ……」

「みんな楽しそうだなぁ……。フフ……。フフフフ……」

いや……怖いよ。



落柿がティラノゲームフェス2021年に参加するまで、あと1年
「アカイロマンション完全版」の完成までは──あと4年



そんな落柿が15年かかって作ったゲームがこちら。


新作ホラーノベルゲーム「砂鳴村〜エピソード限定版〜」配信中!
名作サウンドノベル「弟切草」オマージュ作です。
ティラノゲームフェス2024年に参加しています。

プリシー版はこちら
https://plicy.net/GamePlay/187119


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