ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第4話】制作前夜④「ひぐらしのなく頃に」同人ゲームって面白い!
これは、サウンドノベルの持つ魅力に取り憑かれ、「自分でもノベルゲームを作ってみたい」という思いを抱き、終わりのないゲーム制作に足を踏み入れた1人の個人ゲーム制作者の物語である。
「弟切草」「かまいたちの夜」「街」の熱狂から時は過ぎ……。
落柿(らくし)はすっかりゲームへの情熱を失っていた。
大学の寮を出、一人暮らしを始めると周りにゲームをしている友人もいなくなった。他の趣味も見つけた。実家に滞在する機会も学生時代より少ない。そうなると自然とゲームをすることもなくなっていった。
落柿はいわゆる就職氷河期世代である。就職はできたものの、いざ入社してみるとブラック企業。そこを辞めてバイトをしながらスクールに通って別業種に転職してみたり、そこも違うとまた辞めたり派遣で働いてみたり、働きすぎてブッ壊れたり……と「就職氷河期世代のテンプレ人間」みたいな生活を送っていくうちに日々は過ぎていった。
そして迎えた2007年。
家でゴロゴロしながら携帯をポチポチしていた落柿は、あるアプリゲームに出会う。アプリといっても当時スマートフォンはまだない。iモードとかEZwebなどといったガラケーのアプリである。
「あ、なんかこれ面白いって聞いたことあるゲームだ」
落柿が見つけたのは、「ひぐらしのなく頃に -贄捜し編-」であった。
「ノベルゲーム好きだしやってみようかな。値段も安いし」
そして落柿はその〝流行っている〟と耳にしたことがあったそのゲームを始めた。
この「ひぐらしのなく頃に -贄捜し編-」は、元警官の私立探偵・梶原稔が主人公だ。未解決の『ダム工事現場監督バラバラ殺人事件』の謎を解くため現場となる雛見沢(ひなみざわ)へと向かう。
「未解決事件! 探偵! バラバラ殺人! これ好きなやつ!」
当時の落柿はワクワクしながらプレイを進めていった。
「真相はなんだろ? この人物怪しいなぁ。でもこの子も怪しいし……」
そして迎えたラスト。
なんか毒ガスブシューッってされて、主人公の記憶なくなって終わった。
……は? こ、これで終わり? え、えーと???
何一つ謎が解決してないやんけーーーー!!
落柿はエキサイトした。携帯ぶん投げようかと思った。
そして落ち着いてくるとモヤモヤした。知ってる。人間の脳って、結論が出ていない問題についてはそれを解決しようと水面下で走り続けるってことを。畜生。
そして落柿は調べて知った。この携帯アプリ版は本編とは違うアナザーストーリーを描いたものであるということを。
「真実は、いつも1つ! 買ってやんよ!」
バン!
落柿が手に入れたのはPS2ソフト「ひぐらしのなく頃に祭」。
ちなみにPS2は持っていなかったので実家に長期休暇で帰ったときに遊ぶことにした(兄は当然PS2を所持していた。さすがである)。
「これでこの物語を終わらせてやんよ!」
意気込んでプレイを始める落柿。主人公こそ違うものの、出てくるキャラクターは「贄捜し編」と共通している。
「ん、あのダム工事現場監督バラバラ殺人事件とかは関係ないのか。なんか序盤はやけに平和だな」などと思いながら先に進める。
「あ、一応選択肢があるんだ。人形を誰に渡すか? でもこれが後でどう分岐するのかよくわからないな。適当に選ぶか。レナ、っと……」
…………。
…………。
…………。
…………ぎゃああああああああ!!!
な、何かいきなり酷い目に遭ったんだが?
ものすっげえバッドエンドなんだが?
え、何かヤバい選択肢なんてあった?
落柿はひぐらしの中でも特にグロ度合いが強いと名高い「綿流し編」を引き当てた。……そして謎は解決しないどころか、深まるばかり。
その後も何度かプレイを試みたが、事件の全容は全然見えてこないし選択肢と分岐の因果関係も意味わからないしで挫折した。何より最後までプレイしたいという欲求より面倒臭さの方が勝ってしまったのだ。
こうして長期休みも終わり、実家を離れることになった落柿は「ひぐらしのなく頃に」のクリアを諦めた。
しかし当然「謎」は残ったままなわけで、落柿のモヤモヤは続く。
そこで耳にした噂。「ひぐらしは、原作の方が面白い」
?? 原作とは?
一部のPC用ゲームを除き、ほぼコンシューマゲームにしか触れずに生育してきた落柿はそこで初めて同人ゲームなる存在を知る。
とはいっても同人ゲームって、売ってるところ限られてるんじゃないのか? と思って調べたら、フツーに通販で買えた。
原作「ひぐらしのなく頃に」と「ひぐらしのなく頃に・解」。
これが同人ゲーム……これが、原作ッ!!
……っていっても、普通のゲームディスクと変わらないな、と思いつつゲームスタート。PS2版と違って選択肢はなく、エピソードを順番に読むだけでいいらしい。
PS2版よりもなんかぷっくりしていてずいぶん可愛い絵だ。原作者自らが絵も描いているらしい。へー。なんか一部で「原作は絵が……」みたいな話を聞いたけど、別に気にならない。というか、むしろこっちの方が好きだ。
文章も、そんなに違わないんだろうけど……なんだろ。原作の方が勢いがあるというかゲーム全体の雰囲気とマッチしているというか。ボイスもないけど、文章速読民としてはその方がありがたい。
……そして落柿は第一話目に当たる「鬼隠し編」を読了する。
やっぱ原作っすよ竜騎士先生!!
なんすかこれむちゃくちゃ面白いじゃないすかぁぁぁぁぁ!!
ひぐらし原作は、一話の文章量が多い。一話読了するまでに何時間もかかる。にも関わらず、落柿は夢中になり先へ先へとプレイを進めていった。そして全エピソード読了。
よ、良かった……!
結末には賛否両論あるって聞いてたけど、自分的には納得感もあるし面白かった……!!
PS2版はビジュアル面も強化されているしボイスもある。OPムービーもあったしUI周りだってスッキリしてる。
なのになんだろう、圧倒的に原作の方が楽しめた。熱狂できた。
その原因のひとつはまず、その熱量ではないだろうか。
なんかこう、フォームは無骨ながらに硬球を全力で投げつけてくる野球少年ような気迫がこの原作からは感じられたのだ。
あとは情報開示の順番。PS2版には選択肢が追加されていたが、やはり作者が決めた通りにカードがめくられていった方がひぐらしの世界に没頭できた。キャラクターの意外な一面、今度こそ惨劇を阻止したいという思い、徐々に真相に近づいていく感覚……。これも今までのサウンドノベル体験によって選択肢はあった方が面白い派の落柿にとっては新鮮な驚きであった。
そしてその個性的なキャラクター。なぜだか原作の方が「生きてる」という感覚が強かった。前半の日常パートの長さもすべて読了した後では愛しく思える。これも表現者である作者の熱量がゲームにそのまま乗るからこその魅力かもしれない。
これが……同人ゲームの持つ力か……!!
それはコンシューマソフトばかり遊んできた落柿には衝撃的な体験であった。
「すごいな。同人ゲームって個人とか少人数のサークルって作ってるらしいけど……」
そして落柿は思う。
「ってことは……もしかして自分でも作れたりする?」
こうして落柿は同人ゲーム制作への第一歩を踏み出したのである。
それがどんなに長い道のりであるかということも知らずに。
<次回からいよいよ『制作編』に入ります!>
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ちなみにひぐらしSwitch版は未プレイ。作者は「解」までしか遊んでません。うみねこも好き。