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ノベルゲームを作ろうと思ったら15年かかった話【第28話】フェス編④BGMをゲームに組み込む〜大事なことはみんなあのゲームに教わった〜

これは、サウンドノベルの持つ魅力に取り憑かれ、「自分でもノベルゲームを作ってみたい」という思いを抱き、終わりのないゲーム制作に足を踏み入れた1人の個人ゲーム制作者の物語である。


Nscripter
で人生初のノベルゲーム作りを始めた落柿(らくし)。7年の休止期間を経てティラノビルダーで制作を再開。ノベルゲームの祭典・ティラノゲームフェス2021に参加することを目標に制作を続ける。オリジナル音源の発注・納品も済み、いよいよノベルゲームとしての完成体に近づいてきた。


「うーん、音楽ってどんな感じで入れたらええんやろ?」


音楽素材を前に腕を組み考え込む落柿。


そもそもNscripterでの制作時は、BGMの組み込み作業までに至っていなかった落柿である。タイトル画面等をある程度作ったあとは、ひたすら終わりの見えない膨大なシナリオを書いて、書いて書いて……その繰り返しの日々であった(そして投げ出した)。



そんなわけでティラノビルダーで移植を始めた初期から、このBGMをどうやってゲームに合わせたらいいのかという問題には直面していたのである。


そもそも落柿がサウンドノベルの楽しさに目覚めたのはSFC時代。当時はまさか自分がノベルゲームを作ることになろうとは思っていなかったのだから、サウンドがどうとか演出がどうとかなんて考えてプレイしているはずもない。以下は当時の書き込みである。



「再プレイ」。そう、落柿はBGMの組み込みにあたって、サウンドノベルの勉強──復習をすることにした。教材はもちろん……アレだ。


ドン!

WiiU版「かまいたちの夜」!!


中古でWiiUを買い、バーチャルコンソールでソフトを入手したのである。これも投資。久しぶりの「かまいたちの夜」との邂逅に心が躍る。

「テレレテッテテッ、テレレテッテテッ、テレレテッテテッ、テレレテッテテッ、トゥットゥットゥッ……」

名前入力画面のBGMを(適当に)口ずさみながらプレイを始める。

久しぶりには違いないのだが、プレイするのは何十年ぶりというわけでもない。バーチャルコンソール版購入までの作者の「かまいたちの夜」遍歴は以下の通り。※1のみ。2や×3は含まない

①SFC版
②PS「かまいたちの夜 特別編」
③ゲームボーイアドバンス版
④iOS版(途中まで。サポートが切れたため)

……我ながら、「何回やんねん?」と思わなくもない。だがまだうっすらと「輪廻彩声」も欲しい自分がいる。


雪山! シュプール!! テンション上がる! やっぱりこの選択肢は『愚問だよハニー。ぼくの好みはベイベー、君だけさ!』だよな! おいそこのヤクザ風の男! お前だ誰なのか、こっちはちゃあんとわかってるんだからなぁぁ!」


…………。
…………。
…………。


はっ。危ない危ない。
うっかり何も考えず全力で楽しむところだった。「かまいたちの夜」の魔力、恐るべし。その後は心を引き締め、制作者視点でプレイを進めた。


幸いミステリー編の選択肢は熟知している。どの展開も思いのままさ!
すぐ解決してしまうと緊迫したシーンの勉強にならないから、ここはやっぱり「サバイバル・ゲーム」に突き進むか? いや「裏口の血痕」も捨てがたいんだよなぁ……。


そして落柿は画面の切り替わりやBGMを流すタイミング、あえて無音になるシーンなどを学習しながら久しぶりの「かまいたちの夜」の世界を堪能したた。


「ふぅ……。楽しかった。じゃない、大変有意義な勉強であった」


落柿は理性を働かせ、ミステリー編を終えるとWiiUを置いた。このままピンクのしおり、そしてチュンソフトの陰謀編へと突き進みたいところだが、あくまでも今回は学習のためのプレイ。最後までやっていてはゲーム制作の時間がなくなる。


「くぅぅ……」



後ろ髪引かれながら、落柿は制作に戻った。
学習した(はずの)知識を総動員してBGMの組み込みにかかる。



オリジナル音源の納品・フリーBGMの選別が完了してからは、シナリオを書きティラノビルダーにコピペし、背景を選びBGM・効果音を入れるという一連の流れを繰り返してゲーム制作を進めていった。


「…………!?」



いつものようにシナリオを書いているときだった。突然、落柿の頭の上にかつての少年マガジン的表現で感嘆符と疑問符が浮かんだ。


「曲が……曲が浮かぶッ……!」


そう。シナリオを書き、BGMを入れるという作業を繰り返していた落柿は、いつのまにかシナリオを書いているだけで挿入すべきBGMが浮かんでくる能力を身につけていたのである。


もしかしてこれは、あの「かまいたちの夜」学習の成果か? 聞くだけで英語が覚えられちゃうあの「家出のドリッピー」効果があのソフトにも?


聞くだけで英語が身につく、その名も「イングリッシュ・アドレベンチャー」。「家出のドリッピー」「コインの冒険」「ゲームの達人」などシドニィ・シェルダン作の小説を元にした学習教材である。……っていうのが昔あったよな? と思って調べたらまだ販売してた。息が長ぇ。ちなみに落柿家では兄がこれを親にねだって断られていたのを覚えている。


「…………」


落柿は冷静にその頭の中に流れる音楽に耳を澄ませてみた。シナリオを書く手を進める。緊迫したシーンにさしかかる。脳内で鳴る効果音。そして続く不穏なBGM……。


「こ、これはッ!」


違う。これは「かまいたちの夜」のBGMではない。かといって自作「アカイロマンション」用のBGMではない。これは、この曲は……。


「スナッチャー! つまりこれは……ヒデオ!」



そう、落柿の頭の中で流れ出したのは、メタルギアソリッドでお馴染み小島秀夫監督作品の過去の名作・スナッチャー(SNATCHER)の曲であった。

「スナッチャー」は未来の神戸を舞台にしたサイバーパンクADV。現在はPCエンジンminiで遊べる。これは全人類プレイすべき作品。将来プレイしていない人はバイオロイドの疑惑をかけられてスキャニング礼状を持ったジャンカーが貴方の元に訪れるかもしれないので是非遊んでね!(プレイしていないとわからないネタで未プレイの人を勧誘する無駄スタイル)

サウンドノベルに限らず、ADV好きの落柿はこの「スナッチャー」を何度も何度も何度もプレイした。最初はPCエンジン版で。次にサターンで。人の実況も見た。そして当然PCエンジンminiでも遊んだ。そうしているうちに、なんということでしょう! 落柿の脳内はすっかりHIDEO世界にハックされていたのです!

「メタルーーーー!! 出動だ!!」


落柿は意気揚々とBGMを組み込んでいった。少なくとも、緊迫からのBGM変更タイミングは、脳内のスナッチャーが教えてくれる。ありがとうギリアン、ありがとうメタル。ありがとうビデオじゃなくてヒデオ(おっとこれは別のゲームのネタ)。


落柿の脳内で響いていたのはこれ。他にも良い音楽がたくさん。サブスクで聴けたらいいのになぁ……。

00:15:42 11.Pleasure of Tension (追跡者 PART3)


こうして落柿は、「かまいたちの夜」と「スナッチャー」の力によって無事(?)BGMの組み込みを学べたのであった。


……まだまだ、制作は続く。



「アカイロマンション完全版」の完成まで──あと4年



そんな落柿が15年かかって作ったゲームがこちら。


新作ホラーノベルゲーム「砂鳴村〜エピソード限定版〜」配信中!
名作サウンドノベル「弟切草」オマージュ作です。
ティラノゲームフェス2024年に参加しています。

プリシー版はこちら
https://plicy.net/GamePlay/187119

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落柿(Rakushi)
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