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CXとUXの間をなめらかに繋ぎ、UXを磨き続ける大切さ。 Takramと考える『UXリサーチ』 ラクスル社内勉強会レポート

こんにちは、RAKSUL DESIGN MAGAZINEです。
ラクスルは2020年よりデザイン推進室を立ち上げ、全社横断でデザイン思考を実践する組織づくりを行なっています。

今年1月からは、デザイン・イノベーション・ファーム「Takram」と共創し、デザイン経営の実現に向けて日々取り組んでいます。第一弾として、ロゴのリニューアルも行いました。

デザイン経営を推進していく上で、ユーザー理解の基本となるのが『UXリサーチ』という考え方です。ビジネス観点だけではなく、ヒアリングや分析、アイディエーションといった各フェーズにおいてUXデザインの観点を持ち、継続的にユーザーに求められるサービスをいかに作っていけるかが求められます。

今回の記事では、Takramが考えるUXリサーチの手法や勘所について学ぶ社内勉強会の模様をお伝えしたいと思います。

ToC化するToB向けプロダクトの潮流とは

スマートフォンの普及やクラウドサービスの登場以降、産業のデジタル化が急速に進むようになりました。
こうしたデジタルシフトの流れが加速すると、使い勝手の良いシステムへのニーズは爆発的に増加し、「使いにくいシステムを、より人間的なものにする」ためにデザインやデザインシンキングが活用され始めたのです。

Takram代表の田川欣哉さんは「toBのプロダクトやサービスがtoC化してきているとされる所以は、いまやシステムの使い勝手が産業だけではなく、政治や選挙に影響するレベルまで高まっている」と話します。

また、ビジネスを語る上で重要な数字とロジックですが、「学問体系的には論理学に分類される」と田川さんは述べます。
 
「テクノロジーもビジネスも論理学として考えられ、物事を記号やロジックで記述して、一般性や再現性、普遍性に着目します。ランダムに見える物事をエンジニアリングや科学を投入し、人間が期待するような行動や結果に導けるようにするのがテクノロジーの定義であり、また、ビジネスモデルを構築し、いかに再現性を高めていくかという視点で語られることが多い」
しかし、文化教養や哲学、思想などの人文学的要素は、企業経営において抜け落ちてしまっている現状があると言います。

「ビジネスの現場では、数字やロジックベースで考えるのが一般的ですが、数字で推し量れない、ヒューマニティの部分も大切な要素。美味しさ、楽しさ、美しさなど、人間の持つ機微や琴線に触れる感覚を汲み、論理的思考との両輪で考えていくことが、良いサービスを生み出すために必要になってくるでしょう」

田川さんは、現在のToC化するToB向けプロダクトの潮流として「使い勝手とブランドが勝つ世界になっていく」とし、次のように説明しました。

「これまでの会社単位の購入はバルク型(箱やカートンなど)のアカウント販売が主流でしたが、最近ではばら売りで販売するサービスも増えてきています。それに伴い、エンドユーザーと買い手が一致するようになってきていると考えています。

本来、システム導入した後にサービスを使うエンドユーザーと、アカウント費用を払う購買担当者は異なるわけですが、toBユーザーの裁量でSaaSのサービスを選ぶ権限が与えられると、ともすれば使い勝手の悪いプロダクトはブランドスイッチされてしまう。逆を言えば、良いプロダクトを提供すれば、クロスセルでアドオンで買ってもらえるようになる。今の時代、値段よりもサービスの体験が重視されるようになってきました」


さらに、「人材流動化が希求するマニュアルレスの世界へシフトしていく」と田川さんは続けます。
「日本は海外のビジネスユーザーと比べて、終身雇用のカルチャーが根強く残っています。こうしたレガシーな産業から生まれるシステムは膨大なマニュアルが作られることもよくあること。でも、そのマニュアルに書かれていることを理解し、プロとして現場デビューするためには、非常にリードタイムが長くなってしまう。人材流動性の激しいセクターでは、マニュアルレスがより求められるようになっていて、今後はユーザーの操作性や使いやすさに優れたプロダクトを作れるかが肝になるでしょう」

CXとUXの両側面の体験をバランスよく見ること

続いてTakramのデザイナーである河原香奈子さんが、UXリサーチにおける具体的な手法について話しました。

まず、「BtoBのサービスでは、『意思決定者』と『エンドユーザー』の両方の体験をバランスよく見ていく必要がある」と河原さんは述べました。

「DXの台頭でSaaSが注目されていますが、SaaSのプロダクトはエンドユーザーが継続利用するからこそ、CX(意思決定者の体験)とUX(エンドユーザーの体験)の間をなめらかに繋ぎ、UXを磨き続けることが大切になります」

サービス導入にあたっては、マーケティングやセールスなど、ビジネスの視点に長けるチームがロジカルシンキングを軸にリサーチしていきます。
多くの企業では、CX側の観点からどう導入に至るまでの導線を設計するか。あるいは効率よく顧客獲得していくかなどと考えるのが一般的でしょう。
他方、特にSaaSでは継続利用が事業成長の鍵になります。
プロダクトやカスタマーサクセスチームが、UXデザインの視点やデザインシンキングの観点から、どうプロダクトを改善して継続率を高めていくのか。
そして、ユーザーをどうサクセスさせていくのかという視点に立ち、顧客体験の向上に努めていくことも非常に重要です。

河原さんは「CXとUXのどちらか一方に寄らず、複眼的にリサーチしていくことでサービスの成長角度を高められる」と説明します。
「CXはすぐに結果が出やすい分、売りや成果に即効性を見出せるので改善ループが早く回りやすい。一方でUXは、口コミなどでじわじわと改善効果が効いてくる特徴があります。UXデザインの観点が薄くても事業立ち上げはできますが、仮にマーケティングやプロモーションでサービス導入が増えても、機能改善やユーザー体験の向上などの継続サイクルが回らず、次第にシュリンクしていく可能性もあります。

ですので、立ち上げ期でもビジネス観点のみならずUXデザインの観点をあらかじめ持ってリサーチすることが大事になってきます。導入から継続利用のつなぎ目の部分を、なめらかにつくること。そして、初期からデザインシンキングが得意なメンバーを巻き込んで推進していくと効率が良いと思います」

潜在的ニーズを探るのに便利な3つのUXリサーチ手法

次いで、UXリサーチの手法について掘り下げていきます。昨今では、高品質で使い心地のよいBtoBのプロダクトが選ばれるようになっています。

それは、エンドユーザーがサービスの良し悪しをUXで判断するようになってきているからであり、いかにエンドユーザーの持つ課題を理解し、そのソリューションとなるサービスを提供できるかがキーポイントになると言えるでしょう。

BtoB企業であるSansanやSmartHRも、UXリサーチ専門の部門を立ち上げ、プロダクトのUXを磨き込むことに注力しています。

「UXリサーチを行うことで、ユーザー満足度や継続率の向上、他社サービスとの差別化につながります。また、ユーザーの潜在ニーズを捉えることで革新的なアイデアを出しやすくなるでしょう。さらに、目線を複眼的にすることで、ビジネス目線の無意識の偏りを防ぎ、失敗のリスクを減らせたり、プロダクト開発の優先度をつけたりすることもできます」

こう語る河原さんは、UXリサーチの手法について「CXリサーチと被る部分もある一方、着眼点が異なり、よりユーザーの心の声に目を向け、潜在的なニーズを発見することが目的になる」と話します。

「CXリサーチは、自分(ユーザー)自身が言葉にすることができる顕在ニーズを発見することが主な目的です。対してUXリサーチは、自分でまだ良さや体験価値に気付いておらず、言語化できないような潜在ニーズを発見していく役割があります。例えばユーザーインタビューにしても、『言葉を発している裏にどういう意図があるのか』という視点で、言葉の裏に隠れている潜在ニーズをを拾っていくリサーチを心がけていくのがUXリサーチで大事になる点です」

UXリサーチの手法や整理の仕方は、主に次のようなものがあります。

■リサーチ手法

・ユーザーインタビュー
・行動観察/フィールド調査
・コンセプトテスト
・アンケート/データ分析
・ユーザビリティテスト

■整理手法

・カスタマージャーニーマップ
・ペルソナ
・KJ法
・価値マップ(KA法)
・シナリオ/ストーリーボード

河原さんは、この中から潜在的ニーズを探るのによく使う3つのUXリサーチの手法について紹介しました。

最初は、半構造化で深く対話するユーザーインタビューです。

用意した質問をただ投げかけるだけではなく、相手の人となりに合わせて深掘りし、発せられた言葉からユーザーの声を想像することで、潜在ニーズを探る手法となっています。

質問項目を用意する際は「あらかじめヒアリングしたい項目を洗い出し、時間配分も考えておく」とスムーズに進められるとのことです。

「普段の業務や話しやすい内容などのアイスブレイクを交え、リラックスできる環境を常に意識し、本音を引き出せるように留意すること。また、本題に入る前に、対象者(インタビューイ)の属性やリテラシー、仕事の価値観などのプロファイリングについて伺い、対象者の理解を深めるのも需要になります」

基本的には用意した質問に沿ってインタビューを進めますが、途中で詳細に聞きたいことが生じたら、内容や順番を柔軟に変え、深く対話を行なっていくのが求められます。

「潜在意識を捉えるための深掘りのコツとして、はい/いいえで答えられる『クローズド・クエスチョン』よりも、対象者が自由に回答できる『オープン・クエスチョン』を用い、回答を誘導しないことです。具体的なエピソードやなぜそう思っているのかの背景を聞き、ユーザーの心の声を拾えるように意識しましょう。また、終了後にふと本音が聞ける場合もあるので、最後に言い残したことやこれだけは言っておきたいことがないか確認し、インタビューを終えるようにします」

次は開発前に素早く仮説検証を行えるコンセプトテストです。

サービス構想の早い段階で、工数をかけずに仮説検証を実施できるのが特徴で、かつプロダクトがなくても、ある程度のユーザーニーズが確かめられる手法としても有用になっています。

コンセプトテストもユーザーインタビューと同様に、対象者のプロファイリングを抑えておきます。

その上で、サービスを通じてユーザーが体験できることをまとめたコンセプトシートを、シナリオ形式やストーリーボード形式で作ります。

「プロダクトの輪郭が見えてないときは、シナリオ形式でコンセプトのニーズを確かめたり、企画が進んだ段階では、プロトタイプのイメージも添えたストーリーボード形式で、実際にプロダクトがある前提でどう感じるかなど、段階的にコンセプトテストを実施していくのが一般的です。何回か実施すると、効果がわかりやすくなります。毎回コンセプトに対し、対象者に評価を記入してもらい、評価結果を見ながら、『なぜその評価に至ったのか』という理由を聞きつつ、評価の裏にある本音や潜在的ニーズを見つけられるようにヒアリングしていくのが大まかな流れとなっています」

そして3つ目は、言葉にされない潜在的なニーズを発見するのに有効な行動観察/フィールド調査です。

ユーザーインタビューだけではわからない、実際の現場での業務がどう行われているか把握したり、背景を含めたユーザーの理解を深めたりする場合に役立つリサーチ手法となります。

観察の種類としては以下の3つが挙げられます。

①さまざまな場所に赴き人の行動を観察する「行動観察」
②ユーザーの仕事の現場やプロダクトを使う様子を見せてもらう「訪問調査」
③ユーザーの職場で実際に仕事させてもらい、当事者にしかわからない情報や課題感を把握する「参与観察」

「行動観察やフィールド調査する上でのポイントは、ユーザーインタビューと組み合わせて実施することで、より深掘りできます。ユーザーインタビューの後に現場を見せてもらい、ユーザーが無意識に行なっていることや考えていることを観察すれば、仕事環境や周辺環境にどんな影響を与えているかが見えてきやすくなります。行動観察のためのフレームワークとして『AEIOU』を抑えておくといいでしょう」

ラクスル内におけるユーザーリサーチの成功事例

ここからはRAKSUL(ラクスル)内での成功事例について見ていきます。

まずはラクスル事業部の事例として、商品の見つけやすさのUXを調査した「商品の探しやすさのUXリサーチ」をデザイン推進室の竹末が述べました。

デザイナー、PdM、BizDev、それぞれが描いたワイヤーフレーム

「ノベルティECサイト上で取扱い商品が増えていく中、商品数が増大してもユーザーが自分の欲しいものを見つけられるUXを調査しました。アンケートやユーザーインタビュー、ユーザーテスト、プロトタイピングなどさまざまなアクションを行ったことで、プロダクトの方向性への意思決定やあるべき姿のインターフェースの全体感をつかむことができました。

企画の発散から複数職種(BizDev、PdM、デザイナー)を交え、リサーチとプロトタイプ検証を行うことで、プロダクトチームにマーケティング視点を加えられたり、手戻りのロスなく精度の向上や無駄を省くことにつながりました。また、三位一体で動くとさまざまな視点や他人の思考過程、進め方を知れるので、アイデーションとエグゼキューションをスピーディーに回せました」

また、印刷ECやノベルティEC、スピードデータチェックなどさまざまなプロダクトで「プロトタイプ検証とユーザビリティテスト」の重要性についても触れました。

「実装前の検証を行うことで、適切なユーザーニーズを掴め、手戻りの手間が省けます。実装後ではユーザビリティの向上に非常に役立ちます。もし、社外で検証ユーザーを探すのが難しい場合は、社内の似た属性を持つ人物に検証を行うことでも効果を得られると思います」


続いてはデザイン推進室の加茂より、『ノバセル』の事例について話しました。

「テレビCMの分析に関して、新しいデータを取り入れることをきっかけに、プロダクトを0から具体化していきました。PdMと一緒にブレストから参加し、そこで出た案をもとにプロトタイプを作成し、ノバセルアナリティクスの既存ユーザーにユーザーテストを7回ほど実施。

エンジニアの工数をかけずに、新しいプロダクトの価値検証をすることができました。また、検証結果をもとに開発の優先順位付けができ、プロダクトの大まかな方向性を描けたのも収穫でした」

ノバセルアナリティクスのリニューアル検討時にも、「既存ユーザーにユーザーテストを5回実施して価値検証してきた」と加茂は続けます。

「リリース半年くらいから、テレビCMの実施経験者や高額予算を持つユーザーも増えてきました。ファーストリリース時のユーザー属性から変化が起きていて、プロダクトを見直す必要が出てきたため、PdMとデザイナーでリニューアルに向けた仮説を出し合いました。こうしてユーザーテストを繰り返すことで、新しいプロダクトの設計にも活かされたと思っています」

さらに、チーム全体の解像度を上げ、ユーザーの新しいペインを見つけるため、定期的なユーザーインタビューも実施しているとのこと。

「デザイナをはじめ、カスタマーサクセスチームやPdM、エンジニアとチーム一丸となって行うようにしています。テレビCMの効果の可視化以外の価値や、ユーザビリティなどのプロダクトの課題をユーザーから直接フィードバックをもらうことで、サービス改善に役立てることができています」


最後にデザイン推進室の倉谷から、『ジョーシス』と『ハコベル』の事例を紹介しました。

「ジョーシスの正式リリース前の、まだコンセプトや顧客のニーズがやわらかい時に、まだなきプロダクトの営業資料とプロトタイプ、インタビューシートを作成し、潜在顧客に対してヒアリングを実施。これをもとに、顧客ニーズの探索や開発優先度づけに活用しました」

ハコベルに関しては約2年前に、運送会社の案件受注率の改善を図るため、「ハコベルコネクトの案件一覧のプロトタイプの検証」を行ったそうです。

「案件一覧のUI改善を目指すべく、運送会社交流会にて、ハコベルコネクトのプロトタイプを配車担当者に見ていただいたのです。荷主、ハコベル配車センター、運送会社の3者が利用するため、社内のメンバーにもヒアリングし、各々のユーザーが理解しやすい表示を検討するのに役立てました」

RAKSULではこのような勉強会を通じて社員とデザイン思考について学んでいくことで、引き続きデザイン経営に取り組んでまいります。


『RAKSUL DESIGN MAGAZINE』では、RAKSULに所属するデザイナーをはじめとしたスタッフが書いた記事を、定期的に更新しています。是非フォローいただけると嬉しいです。

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